女性起業家応援ページ

「経産省の女性起業家支援」ゼロ・イチと広域にこだわる理由(前編)

女性に特有の起業課題は、起業を決意する前にある——。従来の起業支援は起業準備中の人向けのものが多い一方、女性のニーズが多い超初期段階での支援を広域で展開する例は見られませんでした。

こうした現状を踏まえ、経済産業省・経済社会政策室では、起業の「フェーズ0・1」の女性に向けた地域横断的な連携支援体制を作っています。背景にある考え方や政策について、3人の担当者に聞きました。

経済産業省 経済社会政策室
(写真左より)
係長   笹谷朋子さん
室長補佐 八木春香さん
係長   浅野優子さん

女性活躍推進政策と女性起業家支援

—— 政府の女性活躍推進政策もあり、女性起業家支援が活発になっています。経済政策を担う省庁として、この動きをどう見ていますか?

八木 国の成長戦略として女性活躍を推進している今、企業や経済社会で女性をはじめとする多様な人材が、その能力を最大限発揮できるよう支援することが大事だと考えています。

そのために、経産省では2つの大きな柱を持っています。1つ目の柱は企業における女性の活躍促進です。例えば「ダイバーシティ経営企業100選」で、女性・高齢者・外国人等、多様な人材の能力を活かして経営で成果を上げている企業を表彰しています(平成24~28年度に205社を表彰)。また、「なでしこ銘柄」では、女性活躍推進に優れた上場企業を「中長期成長銘柄」として投資家に紹介してきました(東京証券取引所と経産省の共同事業、平成28年度に47社を選定)。

経済社会における女性の活躍推進には、雇用されて働くことに加え、自ら事業を興して働くことも考えられます。そのため、経産省の女性活躍施策の2つ目は女性起業家の支援になります。平成28年度から「女性起業家等支援ネットワーク構築事業」を手掛けており、この事業では、自治体・金融機関等を中心とした女性起業の支援ネットワークを全国10カ所に作っています。

浅野 女性が働き続ける上での最大の課題は出産・育児・介護などのライフイベントとの両立です。柔軟な働き方を希望する既婚女性の半数以上が、自分で仕事を調整できるフリーランスや個人事業主を希望している、という調査結果があります。

一方、起業家に占める女性の割合は減少しており、1980年代には約4割でしたが、直近では3割になっています。政府としては、この割合を減らさず維持したい、という目標を持っています。

女性起業家支援の特徴~4つの取組み

—— 既に、起業したい人向けのセミナーは、自治体やNPO、企業が支援するものなど、色々あります。経産省で手掛ける女性起業家支援の特徴は何でしょうか?

浅野 起業にも様々なフェーズがあります。私たちは「フェーズ0」から「フェーズ3」まで4段階に分けて考えています。「フェーズ0」は「起業という選択肢を知らない」段階。「フェーズ1」は潜在的な起業志望者であるものの、まだ自分が起業すると決心できていない段階です。実は、女性固有の起業課題は、このフェーズ0と1に多く存在しています。

従来型の起業支援は「フェーズ2」「フェーズ3」のものがたくさんありました。例えば起業の情報収集をしたり、法制度や手続きについて伝えたり、創業資金の集め方を知ったり、取引先を探すための商談会・展示会を開催したり、といったものです。

フェーズ0・1層に対する支援策で先進的な取り組み事例もあることはあるのですが、支援策が地域内に限定していたり、特定の地域に偏っていたりしました。

そこで、私たちはフェーズ0・1の起業支援を強化することに加え、地域横断的な連携支援体制を作ることにしました。全国10カ所(北海道・東北・関東・中部・北陸・近畿・中国・四国・九州・沖縄)に「女性起業家等支援ネットワーク」を作っています。

—— 都道府県単位ではなく、広域なのですね。

浅野 都道府県単位での性別を問わない起業家支援は既に行われています。その中で、女性起業支援に力を入れている自治体もありますが、今、自治体間の格差が目につくようになっています。そこで、都道府県をまたがる広域ネットワークを作り、格差を埋めていこうと考え、主に4つの取組を行っています。

第一に、身近で手が届きそうなロールモデルを紹介しています。地域の課題に応じた女性向けの起業セミナーで、ロールモデルになりうる方々に講演していただいています。例えば長年、専業主婦だった起業家の方のお話は、多くの起業志望者に「自分も一歩踏み出してみよう」と背中を押すきっかけにつながります。

第二に、様々な起業フェーズの女性に対する起業相談を受けています。とにかく起業ありきではなく「キャリア相談」やお母さんが集まる「ママフェス」といったイベントで、さりげなく起業という選択肢を知っていただく工夫もしています。また、家事や育児で忙しい方も多いので、ウェブ相談やチャットでの相談も受け付けています。

第三に、こうした支援を受けた女性たちが起業準備を始めた後にフォローをしたり、追跡調査をしたりしています。一度相談に来たらあとは本人にお任せではなく、マラソンの伴走者のように、息長く支援することが大事だと思っています。

第四に、情報共有をする会議の企画や運営等を通じて、地域で起業家支援に携わる人々のネットワークを作っています。

こうした取り組みは、経産省が全国事務局に委託し、全国事務局が各地域の代表機関に再委託して実施しています。全国事務局では、地域代表機関同士が連携する際の全体調整や、全国的な女性起業の普及・啓発を行っています。

今年1月11日、女性起業支援の優良事例を表彰する「女性起業家支援コンテスト(ジョキコン)」を開催しました。