農業ビジネスに挑む(事例)

「マイファーム」耕作放棄地を蘇らせた独創的なビジネスモデル

  • 農地を貸したい人と借りたい人を結びつける
  • 趣味の域を超えた新規就農希望者もサポートする

土に触れたい、自然の豊かさを感じたい。都市部に住む人々のそんな需要に農業で応えたのがマイファームの「体験農園ファーム」だ。農業の初心者でもインストラクターがついて懇切丁寧に農作物の栽培を教えてくれる。まさに農業のカルチャーセンターのようだが、この事業の特徴はそれだけではない。栽培を学ぶ農園はかつて耕作放棄され荒れた農地。つまり、耕作を放棄した農業生産者の土地と都会に住みながら農業をしてみたい人とを結びつけた日本で初めてのビジネスモデルなのだ。

農業人口を減らさなければいい

マイファームの創業者・西辻一真さんは語る。

「私も幼い頃は出身地の福井県で家庭菜園を楽しみましたが、1990年代後半になると耕作放棄地が増え、荒れていく田畑を見るにつれ寂しさを感じていました。それを機に、農産物を出荷する人も出荷しない人も共に農業を楽しめる方法はないものかと考え始めました」

最初はその解決策として作物の遺伝子研究を志し、2002年に京都大学農学部へ入学。大豆の品種改良を研究し、多収量の新品種の大豆を開発した。しかし、いくら新品種を開発しても農業を続けたいと思う人が減ってしまえば、耕作放棄地は増える一方だ。そこに気づき発想を切り替え、耕作放棄地を一般の人に貸し出すというアイデアを2006年に考えだした。要は農業人口を減らさなければいいのだから、一般の人が楽しめる農業を創ればいい。

ただ、そこには大きな問題が横たわっていた。農地法だ。同法では、農地の賃借や売買は農家資格者(地方自治体の農家基本台帳に登録され規定面積以上の農地を所有、耕作している人)にしか認められていない。これではだめだ。一般の人がすぐに農業をできない。なんとか突破口はないか。農地法を隅から隅まで読みあさっていくと、「市民農園整備促進法」の一文に突き当たった。農地の衰退に対する規制緩和の一環で立法されたもので、当時はまだほとんど活用されていなかった。同法に則して市民農園として選定されれば、一般の人も農地を利用できる。一条の光明を見出した。

2006年に大学を卒業すると、翌07年春に起業し、9月にマイファームを設立した。耕作放棄地を解消する。意気揚々と船出はしたが、ここからが大波への挑戦だった。というのも、地元・京都の農業生産者を回り、耕作放棄地の貸与を申し出るが、誰も応じてくれない。それもそのはず、先祖伝来の土地を見ず知らずの若者に貸す者などいるわけがない。

半年間に約500軒、足を棒のようにして農業生産者を歩きまわった。そんなあるとき、偶然に立ち寄った雑貨屋で事業の話を何気なくしたところ、店長が「実家の休耕地を使いないよ」と協力を申し出てくれた。さらに、農業生産者めぐりの最中に知り合ったJAの役員からゴルフコンペに誘われ、ラウンド後の酒席でプレイヤーの農業生産者たちに事業の話をすると「やってみるか」と好意的に賛同してくれた。

都市近辺の耕作放棄地を賃貸農園として甦らせた「マイファーム体験農園」

就農を目指す年齢層は2つに分かれる

こうして2008年4月、念願の体験農園を開設した。1000m2の農園に10組の応募があり、売上160万円で新事業はスタートした。その評判は口コミで広まり、利用希望者の問合せが殺到した。また、農家からも耕作放棄地利用の申し出が相次いだ。

開園から1年半の2009年10月には37カ所・20haの耕作放棄地を体験農園として再生させ、現在は70カ所・30haまで拡大している。

開園からしばらく経て利用者の声を聞いてみると、単に菜園を楽しむというよりも子どもの自然教育に役立てたい、また、親としても趣味というより実際に野菜の栽培スキルを身に付けたいという目的が多かった。

そこで2010年にマイファームアカデミーを設立し、趣味の家庭菜園ではなく、農業生産者や田舎暮らしで野菜の栽培を希望する人たちの需要に応える週末型有機農業学校の運営を始めた。マイファームアカデミーは大阪、京都、横浜、千葉の4カ所で開校し、半年間に21万6000円の授業料で実習と座学の両方で有機農業を学ぶ。

「マイファームアカデミーで学ぶ人の年齢層は大きく2つに分かれます。55歳以上の方と30歳前後の方の2つの層です」

どちらの層も趣味の範疇ではなく有機農業を真剣に学ぼうとしている。リーマンショック後の先行き不透明な経済状況から、マイファームアカデミーで学ぶ人たちは今後の生計を立てる方途として真剣に農業に取り組んでいるという。そして、これまでに約40名の卒業生の半数は新規就農や田舎暮らしに向けてそれぞれに行動している。

本格的に有機農業を学べる週末型の学校「マイファームアカデミー」

さらにマイファームでは、マイファームアカデミー卒業後に新規就農を目指す人たちの受け皿となる組織として同年に「農業生産法人 株式会社マイファームラボ」を滋賀県に設立した。

日本の耕作放棄地の80%以上が中山間地にあるため、それらの耕作放棄地を解消するには都市を対象とした体験農園事業では対応しきれえない。そのため農園に通う人ではなく新規就農者が必要になる。そこでマイファームラボは滋賀県野洲市で3.3haの耕作放棄地を一括管理し、農作物を栽培しながら新規就農者の育成にも努めている。

「将来的には新規就農者の受け皿となる農業生産法人を都道府県に1カ所ずつ設けていきたいですね」

一般の人が農業を楽しみながら耕作放棄地を解消するという新しいビジネスモデルから出発したマイファームは、いま、中山間地の耕作放棄地への対応と農業の担い手の育成へとその事業の幅を広げている。

企業データ

企業名
株式会社マイファーム
Webサイト
代表者
西辻一真
所在地
京都市下京区五条通室町西入ル東錺屋町189 クマガイ五条ビル3F