コロナ禍でがんばる中小企業

下請け製造業の新ビジネスモデルを発信【株式会社坂井製作所】(岐阜県各務原市)

2021年 7月 20日

岐阜県各務原市の坂井製作所社屋前で(前列右から5人目が藤田斉社長)
岐阜県各務原市の坂井製作所社屋前で(前列右から5人目が藤田斉社長)

1.コロナでどのような影響を受けましたか

20年10月にグループ化した野村精機(右端が藤田斉社長)
20年10月にグループ化した野村精機(右端が藤田斉社長)

当社は水栓金具やバルブ部品・美容機器部品の受託加工・組み立てを担う「下請け製造業」。コロナ前の2020年3月期の売上高は約9億円だった。一方、5年半前にメーン顧客の子会社だったサンエース(岐阜県各務原市)を買収・グループ化した。坂井製作所で加工した水栓金具・バルブ部品の通水・耐圧テストと組み立て・梱包を担い、20年度上期は1億6400万円を売り上げた。

さらに35年前から仕事を協業し合う関係だった野村精機(岐阜県海津市)を1年がかりで買収し、20年10月にグループ化した。3代目社長(2代目社長の奥様)から「後継者がいない」と相談され、岐阜県事業承継・引継ぎセンターを介して作業を進めた。自動車・医療機器・電動工具の各部品加工が主力で、売上高は減少傾向が続いていた。

コロナの影響については、学校の一斉休校により女性を中心としたパート従業員が子どもの面倒を見るために出社できなくなったことが大きい。坂井製作所はパートが半数で、20%が出社不能になり、9割がパートのサンエースは出勤率30%ダウンが2カ月半続いた。特にサンエースはこれが響き、受注額は4月が25%減、5月は33%減となった。買収前の野村精機は、売り上げが30~60%減少する状態が半年以上続いた。

サンエースは2カ月間、野村精機は半年ほど雇用調整助成金を活用し、週3日程度休業した。ただ坂井製作所は製造を止めず、マスクを輸入している会社を探して高い値段でも買って皆に配ったり、働く時間を短くしたり、ずらすことで、少しでも出社してもらう時間をつくった。また食堂を開放して、幼稚園、小学生のお子さんを受け入れた。

2.どのような対策を講じましたか

営業対策として発刊した「SAKAI新聞」
営業対策として発刊した「SAKAI新聞」

コロナ禍でリアルな営業ができないため、どうやって営業するかを考え、実行した。その一つは「SAKAI新聞」の創刊。顧客や顧客候補、受注が遠ざかっている顧客に送付し、電話で顧客接点回数を高めた。31歳の営業責任者と短時間正社員制度で営業を担当する女性社員が積極的に取り組み、ブログやインスタグラムの更新も増やした。この結果、3社が工場見学に来訪し、6社に見積りを頂き、新規顧客2社の獲得につながった。顧客を紹介してもらい、営業回数も増え、仕入先との情報共有のきっかけも増えた。

二つ目は野村精機の営業強化だ。同社を買収後、私が8社にトップセールスを行い、重点営業顧客を2社に絞った。今年はさらに、坂井製作所の営業責任者が定期的に野村精機の加工リーダー(副工場長)を連れて重点営業している。その結果、重点顧客の受注が約3倍に増加。また新規顧客の2社獲得につながった。21年6月の売上高は前年同月比で3倍となり、単月売上が過去5年間で最高となった。

自社の技術者だけで導入したロボット
自社の技術者だけで導入したロボット

第3はサンエースの強みであり、弱みにもなったパート従業員が主力というビジネスモデル。これを変えるため、検査ロボットを導入・稼働させた。ロボットを導入する際は通常、ロボットの選定から導入・稼働までを支援してくれるSI会社に頼む。だが自社内でのノウハウ獲得のために、自社の技術者だけでロボットを導入した。コスト面でSI会社に頼むと1000万円ぐらいはかかるが、ロボットと据え付け設備を含み約300万円で構築できた。このノウハウを基に、坂井製作所と野村精機の機械加工分野に横展開しようと考えている。

第4は坂井製作所が19年春から少しずつ取り組んでいた美容機器部品事業。人が毎日触れる水栓金具部品の加工・研磨(社外協力会社)の経験と管理ノウハウがあるため、人肌、特に顔に触れる部品の加工・研磨で貢献できると思い、いくつかのメーカーの部品を作らせてもらえるようになった。積極的に提案営業した結果、21年3月期は1億円以上の受注となり、新規事業として確立した。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

新規事業として花開いた美容機器部品
新規事業として花開いた美容機器部品

まず営業部門の人数を増やして、グループ3社の営業を坂井製作所が受け持つよう進める。後は既存顧客への営業をきちんと役割分担して行い、中小零細の下請け製造業が弱い顧客接点回数の増加、顧客の困り事の聞き取り、加工のみ・組立のみではなくグループ会社の利点を生かし「点」ではない「面」の営業で受注を増やす。

グループ会社である価値は、それぞれの会社の良いところを無条件に他の会社にノウハウごと教え、渡すことができることだ。実際、坂井製作所の営業強化が野村精機に波及し、20年9月期に9200万円だった売上高は、21年9月期は1億2500万円に増える見通しだ。

一方、坂井製作所で3月に委員会を設立した。狙いは「全員参加の経営」で、全社員が参加できる活動の場をつくりたいと考えたからだ。自社の存在意義・理念体系を構築する「理念委員会」、製造現場の安全性や生産性を向上させる「5S委員会」(2チーム)、オリジナル商品を開発する「自社商品開発委員会」、新技術の習得を目指す「技術向上委員会」、そして「広報・PR委員会」の五つ。開催頻度は原則、毎週1回40分間で、半年後に活動の進捗状況を発表し、1年で何らかの成果を出してもらおうとしている。

3月には、グループ3社を束ねる「SAKAIホールディングス」という会社も設立した。私は経営ビジョンとして「下請け製造業の新たなビジネスモデルを日本に発信する」を掲げており、友好的なМ&Aを通して、日本のものづくり産業のノウハウや価値を残しながらビジョンを達成するための要となる会社だ。

「自社商品開発委員会」でオリジナル商品に挑む
「自社商品開発委員会」でオリジナル商品に挑む

M&Aを進める理由は三つある。中小製造業はちょうど経営者の交代時期が来ている企業が多い。後継者不在による廃業の場合、先達の方々が積み上げてきた、ものづくり力・設備・ノウハウがすべて無に帰すことになる。国も後継者不在に対して支援しているが、これを防ぎたいのが第1の理由だ。

もう一つ、加工屋はメーカーの設計者と直接話す必要があると考えるからだ。部品や組立品のことが分からない商社の方が間に入ると、レベルの低い設計になってしまう場合がある。当然、商社がマージンを取るので価格は高くなる。結果的に、部品加工会社の工賃は安くなる。メーカーの開発者もノウハウが積み上がらず、人材育成もままならないという負の連鎖が生まれている。これを断ち切るには、ある一定程度の規模感を持つ中堅企業に成長し、大手企業と直接取引することが重要だ。

さらに護送船団方式のぶら下がり型の製造業体系は崩壊しているという点だ。「狭く浅く」のスペシャリスト型ものづくりは中小零細企業の営業力を衰退させた。小さい会社は経営者かその息子が営業するだけで、いつまでも自社目線の技術視点から抜け出せない。それを回避するためにも、ある程度の規模感を持ち、営業を組織化・仕組み化しなければならない。

M&Aの対象は、ものづくり企業に絞り、今後5年間で3~4社程度のМ&Aができればいいと考えている。シナジーが産まれそうならなお良い。社員が残ってくれるか、営業先が増える可能性があるかを判断材料として重視している。

企業データ

企業名
株式会社坂井製作所
Webサイト
設立
1952年(昭和27年)2月
代表者
藤田斉 氏
所在地
岐阜県各務原市テクノプラザ2-21
Tel
058-322-4317

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