コロナ禍でがんばる中小企業

愛犬と泊まれる高級リゾートで「ブルーオーシャン」に参入【株式会社湯元舘】(滋賀県大津市)

2021年 7月 20日

お客様も愛犬も楽しく過ごせる「びわ湖 松の浦別邸」
お客様も愛犬も楽しく過ごせる「びわ湖 松の浦別邸」

1.コロナでどのような影響を受けましたか

代表取締役社長の中村正憲氏
代表取締役社長の中村正憲氏

1929(昭和4)年におごと温泉最初の旅館として開業し、1964(昭和39)年に株式会社化した老舗旅館。グループ全体で滋賀県と京都府に6軒の宿泊施設を運営し、2019(令和元)年のグループ売上高は23億円を超えていた。

ところがコロナ禍により状況は一変した。それまでは韓国や台湾、香港といった東アジアを中心に海外からのお客様が全体の4分の1を占めていたが、昨年3月に入って一気にゼロになってしまった。観光バスなどで来る国内の団体旅行もゼロになり、旅行会社を経由しての予約は激減した。おごと温泉の旅館の多くは長期休業を余儀なくされ、湯元舘も一定数の予約が入らない日は休業する事態となった。

2.どのような対策を講じましたか

「びわ湖 松の浦別邸」の大西朝子支配人
「びわ湖 松の浦別邸」の大西朝子支配人

昨年6月に「愛犬と泊まる湖畔の温泉リゾート」をコンセプトにした「びわ湖 松の浦別邸」(滋賀県大津市)をオープンした。遊休施設となっていた企業の保養施設を購入して活用したもので、以前から計画を進めていた。もちろん、コロナ禍により宿泊客が激減したなかでの新規事業に対して慎重な意見もあったが、入念な市場調査に裏打ちされた自信があった。なにより宿泊業はお客様あってこそのビジネス。休業ばかりでは従業員のモチベーションを保つのも難しく、コロナ禍の真っただ中でのオープンに踏み切った。

「松の浦別邸」には、愛犬家でもある大西朝子支配人が設計段階から関わっており、犬連れのお客様の導線や必要な設備など、愛犬家だからこそ気づく要素が多分に取り入れられた。たとえば、人と犬とが同じ場所で食事を取れるスペースが備えられ、本当の意味で「愛犬と泊まる」リゾートを実現した。ダイニングには、わんちゃん用のビュッフェ「ワンビュッフェ」を用意して約10種類のメニューを愛犬にも楽しんでもらえるようにした。「犬と一緒に宿泊できる」という宿泊施設はいくつかあるが、ここまで本格的で高級な施設は関西地区では極めて少数。いわゆる「ブルーオーシャン(競合相手が極めて少ない市場)」に参入できた格好だ。

おかげさまで京阪神地区の富裕層を中心に宿泊客が多く訪れている。お客様には期待していた以上の満足をいただけたようで、1泊の予定を急遽2泊にしたり、チェックアウトの際に次回の予約を入れたりするケースがある。リピーターも多く、リピート率は35%ほど。宿泊客の3分の1以上はリピーターとなっている。さらに、お客様がペットつながりの知人・友人に紹介したり、宿泊中の愛犬の写真を自身のSNSにアップしたりで評判が広がり、稼働率はほぼ100%。高級なサービスに見合った価格設定をしたこともあり、京都の奥座敷・湯の山温泉にある「翠泉」(京都府亀岡市)とともにコロナ禍での収益の原動力となっている。

お客様の料理に関する情報を厨房のモニターに表示
お客様の料理に関する情報を厨房のモニターに表示

また、以前から取り組んでいたデジタル化をいっそう進めた。旅館の仕事は配膳など肉体労働の部分が多く、そうしたイメージが人材の定着や確保を難しくする要因となっていた。そこで25年ほど前から先端技術を積極的に取り入れ、業務の負担軽減を図ってきた。たとえば、厨房から食事場所まで配膳する自動搬送装置や、予約の段階で宿泊客の情報が厨房のモニターに表示されるシステムなどを導入してきた。

コロナ禍においても、業務の効率化と生産性向上、サービス向上のためデジタル化に取り組んだ。昨年3月には食材の受発注システムを導入し、経費の削減を図った。直近では、脱衣所に設置したセンサーと部屋のキーに搭載したICチップにより、温泉の混雑状況を各部屋でお客様のスマートフォンからリアルタイムで確認できるサービスを始めた。「3密」回避の側面もあるが、お客様に快適に過ごしてもらうことが一番の狙いだ。さらに資金面では、国の雇用調整助成金などを活用し、従業員全員の雇用を守ることができた。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

広大なドッグランにわんちゃんも大満足
広大なドッグランにわんちゃんも大満足

お客様が求めるレベルはどんどん高まってきている。それに応えられるようハード・ソフト両面でのレベルアップを継続していきたい。「松の浦別邸」は、お客様の口コミに加え、SNSなどにより、いい評判が広がっているが、ちょっとしたことがきっかけで一転して悪い評判があっという間に広まることにもなりかねない。そうならないためにも、お客様の期待に応えられるようにしていきたい。

デジタル化も引き続き進めていくが、ITツールはあくまで、お客様の目に触れないバックヤードでの活用を基本としたい。お客様は非日常を感じ、ゆったりとした気分を味わいたいとの思いで旅館を利用している。お客様と接する部分では、あまりITを前面に出さず、旅館の趣を感じてもらえるよう、従業員がおもてなしの気持ちで接していきたい。

企業データ

企業名
株式会社湯元舘
Webサイト
設立
1964年2月1日(1929年1月1日創業)
資本金
5000万円
従業員数
約200人
代表者
中村正憲 氏
所在地
滋賀県大津市苗鹿2-30-7
Tel
077-579-1111
事業内容
宿泊業