農業ビジネスに挑む(事例)
「鎌倉リーフ」「鎌倉野菜」の生鮮・加工品で地産地消ビジネスを展開
- 異業種参入で農家と共同の直売所を設立
- カレーショップの展開で鎌倉野菜に付加価値を増す
この近年、にわかに注目度を高める“鎌倉野菜”。その直売所「鎌倉野菜市場 かん太村」を運営する農業生産法人が鎌倉リーフだ。鎌倉野菜とは、その名のとおり神奈川県の鎌倉で産するブランド野菜であり、鎌倉リーフはナス、ピーマン、トマトなど旬の野菜を約1町歩の自営農場で栽培し、採れたて新鮮野菜として、またはピクルスや漬物あるいは弁当などの加工食品にして販売している。
自ら経営する法人から農業部門を分離・独立する
鎌倉リーフを経営する社長の田村慎平さんは幼少期から鎌倉で育ったものの、それまで農業経験はなかった。テレビのドキュメンタリー番組を制作したり、報道カメラマンを目指したり、仲間と飲食店(高級レストラン、居酒屋)を経営したりとおよそ農業とは無縁の青春期を送ってきた。
そんなある日、ひょんなことで鎌倉の農家の齋藤照子さんに出会う。高齢の彼女は、高度経済成長期やバブル景気など世の中が浮ついた時代にもただ黙々と農業に携わってきた。農業が営まれるところには、神社を核とした地域共同体があり、文字どおり地に足のついた古来伝承の日本の生活があった。
田村さんは齋藤さんの話に心打たれ、自分が探し求めてきた生き方はこれだと活眼を開いた。経営していた飲食店を仲間に任せ、齋藤さんのもとへと通う日々が続いた。そして約6年間、齋藤さんの農作業を手伝いながら野菜の栽培を学び、地元農家の人々とも交流を深めていった。
田村さんは飲食店を経営していたが、そこに農業部門を加えて鎌倉野菜の宅配も始める。ところが、飲食店をおざなりにして、農業に熱を入れる田村さんに仲間から理解が得られなかった。話し合った結果、飲食店は仲間に譲り渡し、田村さん自らは農業部門を持って分離・独立した。
農家と共通の思いで直売所を設立
ところが、潔い決断とは裏腹に、その後には予想もしなかった苦難の日々が待ち受けていた。とりわけ難渋を強いられたのが、鎌倉野菜の一大生産地・鎌倉市関谷地区における直売所「かん太村」の建設だった。農作業の手伝いで昵懇になった農家の石井廣志さん(現鎌倉リーフ取締役会長)、福田秀雄さん(現鎌倉リーフ取締役)と共に直売所の設立を夢見た田村さん。農業へ異業種参入した田村さんと地元農家の共同事業は鎌倉市初の試みであり、それゆえに3年近く地元自治体に足を運び続けてようやく実現に至った。
カレーショップで野菜を提供して付加価値を増す
直売所の設立に向けて奮闘していた当時、田村さんは2010年に「株式会社鎌倉リーフ」を設立し、その翌2011年に6次産業化法が施行されたことから、田村さんたちが目標とした農産物、農産加工品の生産・販売に追い風が吹き始めた。そうした時に鎌倉リーフも2012年に農業生産法人としての認可を受けた。
ただし、かん太村の開業に要した資金は、認可を得るまでの諸経費も含めて5000万円弱。親や友人からかき集めた1000万円のほか、日本政策金融公庫から約4280万円を借りた。
「地元の農業委員会の元会長で、現在、鎌倉リーフの会長を務める石井さんは、借り入れに際して担保提供してくださいました。印鑑を捺していただいた時は涙が出そうになりました」(田村さん)
開業して今年で3年目。かん太村の事業もようやく軌道に載り始め、収支トントンまでこぎつけた。直売所では、自営農場と近隣農家の鎌倉野菜を並べる。自前で7割、近隣の契約農家から3割を調達する。
鎌倉野菜はかん太村のほか、東京・有楽町の交通会館ビルのマルシェでも販売している。その売上げの半分が直売所(漬物やピクルスなどの加工品販売も含む)、3割がマルシェ、残り2割が鎌倉市街地で展開しているカレーショップ「ドッキリカレーかん太くん」だ。このカレーショップは鎌倉野菜を豊富に添えていることがウケ、このところ急激に売上げを伸ばしている。そのため2015年度には2割から5割に売上比が伸びる見通しで、「加工したり、カレー店で提供すると付加価値がつけやすい」(田村さん)ことから、必然的に利益率が上がり、いよいよ黒字化を目前にしている状況だ。
経営の安定化を目指して
鎌倉市の農地も生産者の高齢化で放棄地化が進んでいる。田村さんそれらの耕作放棄地を借り受け、栽培面積を増やすことで鎌倉野菜の供給力をさらに伸ばそうとしている。それと共にカレーショップや加工品の販売を強化し、経営の安定化を図っていくことを当面の眼目にしている。
企業データ
- 企業名
- 農業生産法人 株式会社鎌倉リーフ
- Webサイト
- 代表者
- 田村慎平
- 所在地
- 神奈川県鎌倉市関谷685-1