BreakThrough 企業インタビュー

中小企業としてSDGsを経営戦略に取り入れ、多数の新規取引先を獲得【株式会社大川印刷】<連載第1回(全2回)>

2019年 10月 3日

代表取締役社長・大川氏

近年、新聞広告などで、自社のSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)への取り組みを紹介する企業が増えてきました。それを見て、「SDGs対応は、資金に余裕がある大企業がすること」「売り上げや利益にどうつながるのか分からない」という感想を持つ中小企業経営者の方も少なくないでしょう。

しかし、SDGsへの取り組みをきっかけに業績を伸ばし、経営基盤の強化に成功している中小企業があるのも事実です。1881年に創立された、社員約40人の株式会社大川印刷もその一つ。SDGsを経営戦略に取り入れながら多数の新規取引先を獲得し、第2回ジャパンSDGsアワードで「国内外でのロールモデルとなりうる」と政府にも認められSDGsパートナーシップ賞(特別賞)を受賞した同社が、「なぜ」「どのように」取り組みを始め、成功させていったかを、代表取締役社長の大川哲郎氏にうかがい、2回の連載形式で紹介します。

SDGsへの取り組みが新規取引先を引き寄せる

2016年に国内印刷会社で唯一の「ゼロカーボンプリント」を実施するなど、環境・社会分野で先進的な取り組みを推進してきた同社。よく「SDGsはビジネスチャンス」ともいわれますが、同社にとってはどうなのでしょう。

「ここ3年間で、SDGsがらみの受注は累計約5,000万円になりました。SDGsに取り組む企業との取引は年間約50社ペースで増加しており、まだ少ないですが海外からも引き合いが来ています。SDGsに積極的な大企業が増えるなかで、SDGsに対応できる調達先が選ばれる機会も増加している。こうした状況で、環境、エネルギー、健康、働きがいなど幅広い分野で多くの施策(下図)を実現してきたことが、新規顧客の獲得に結びつきました」

株式会社大川印刷におけるSDGs関係の取り組み例

価格競争からの差別化に向け、環境対策を開始

企業の環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への取り組みを評価して投資先を決める「ESG投資」が盛んになるなか、今後、企業のサプライヤー選定でも、SDGへの取り組みが重視されるようになるのは間違いないでしょう。

実態が伴わないまま“SDGsへの貢献”を誇大に謳う企業が「SDGsウォッシュ(なりすまし)」として批判される一方、着実な取り組みによって数値化できる実績を挙げ、高い評価を得る同社のような企業もあるのが今の状況。ただし同社も、最初から順調に成果を挙げていたわけではありません。

「当社が環境への取り組みに力を入れ始めたのは、バブル崩壊後のことでした。厳しい価格競争のなか、『このままでは立ちゆかない、何とか他社と差別化する方法はないものか』と考え抜き、かねてから関心を持っていた環境対策を進めていこうと決心したのが始まりです。しかし当時は、“環境”というテーマが今ほど社会から注目されていなかったこともあり、すぐ利益に結びついたわけではありませんでした」

熱い志と数々の出会いが取り組みを支えた

それでも身の丈にあった取り組みを続け、収益の向上も実現させた同社。その歩みを支えたのは、大川氏の熱い志と数々の出会いでした。

「今考えれば、原点は18歳の時、医療過誤としか思えない状況で父を亡くしたことにあると思います。当時は原告勝訴など望むべくもない時代で、訴訟を起こすのは諦めましたが、理不尽な思いは引きずったままでした」

しかし22歳の時、米国南部を訪れて現地の人と出会い、激しい人種差別の現実を知ったことが、大川氏の意識を大きく変えていきます。

「自分より理不尽な思いをしている人が世の中には無数にいるのに、自分だけが父のことをいつまでも引きずっているべきじゃない。社会のためになる仕事をして、そうした人に何らかの貢献ができたらという思いが芽生えたのです」

理不尽をバネに変え、印刷業界で経験を積みながら、まずは社内で再生紙の利用促進や大豆油インキの導入を行った大川氏。そして社会起業家との出会いをきっかけに、事業を通じて社会に貢献する「ソーシャルプリンティングカンパニー」®のパーパス(存在意義)を策定。社員の協力を得るための努力を重ねながら、政府に「ボトムアップ型でSDGs経営戦略を策定」「本業で実現可能なSDGsを実装」と認められた全社的な取り組みを進めていくことになります。

連載「中小企業としてSDGsを経営戦略に取り入れ、多数の新規取引先を獲得」

企業データ

代表取締役社長・大川氏
代表取締役社長・大川哲郎(おおかわ・てつお)
企業名
株式会社大川印刷

1881年の創業以来、横浜で事業を展開。従業員37名(2018年8月時点)。記事本文で取り上げた以外のSDGsへの取り組み例として、外国人への情報格差をなくすための多言語版おくすり手帳や、色覚障がい者に配慮した卓上カレンダーなどユニバーサルデザインの関連製品も企画・販売。他企業・NPOと「川でつながるSDGs交流会」を立ち上げ、地元の大岡川で環境活動などを行い連携の輪も拡大中。大川氏は大学卒業後、他社で3年間修行し、1993年に同社へ入社。2005年より6代目社長。

2019年8月9日