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「首里石鹸」で沖縄から世界に羽ばたく「株式会社コーカス」

2023年 1月 16日

本社2階バルコニーで(左から緒方教介社長、屋宜絵理香取締役、安里さやか部長)
本社2階バルコニーで(左から緒方教介社長、屋宜絵理香取締役、安里さやか部長)

コールセンターと「首里石鹸」ブランド商品の企画・製造・販売という全く異なる二つの事業を手がけ、コロナ禍にもかかわらず業績を伸ばしている企業が沖縄にある。2011年4月にアパートの一室で4人のメンバーにより創業したコーカス(那覇市)だ。コロナ禍前の2020年3月期に7億3000万円だった売上高は、コロナ禍後の21年3月期は8億3000万円、22年3月期は10億7000万円と伸長し、23年3月期は14億8000万円を超える見通しになっている。

コロナ禍で敢えて店舗網拡大

首里石鹸の店舗
首里石鹸の店舗

業績を伸ばした理由の一つは、20年7月に那覇市の繁華街・国際通り沿いの2カ所に「首里石鹸」の新店舗をオープンしたことだ。コロナ禍による緊急事態宣言に伴い、その3カ月前から一時的に「首里石鹸」の全店舗(当時は沖縄県内7店舗)が臨時休業に追い込まれていた。ただ人気の国際通りはなかなか空き店舗が出ない。こうした逆風の時こそ店舗拡大のチャンスととらえ、当面の赤字は覚悟の上で、好物件が出た時点で売り場を確保した。

並行して2店舗にAI(人工知能)カメラを導入。店舗前の通行者数とPOS(販売時点情報)の売上情報を組み合わせて、その関連性を可視化した。その結果、1日の店舗前通行者数が8000人を超えれば収支が取れることが分かり、8000人を超えれば店舗を開け、3日連続で8000人を下回ったら休みにするという基準を作り、運用した。現在は常に1万5000人以上が通行しており、こうした運用はしていない。「ただコロナ禍に入った1年目は、人の動きが読みづらく、効率的な店舗運営に威力を発揮した」と緒方教介社長は振り返る。

もう一つは、沖縄県外でのポップアップストア(期間限定店舗)の出店である。緊急事態宣言により「首里石鹸」の主力顧客だった観光客の需要が見込めなくなったからで、県外の大型商業施設や駅ビルなどへ1~3カ月程度の期間限定で出店した。延べ15カ所程度に出店し、売り上げを下支えする原動力となった。一方、期間限定ではない常設店舗はその後、大阪、名古屋に出店し、22年6月には東京・有楽町の丸井にもオープン。現在の店舗数は県内12拠点、県外5拠点の計17拠点となった。

「道売り」が商売の原点

コールセンター事業はコロナ禍で業績を下支えした
コールセンター事業はコロナ禍で業績を下支えした

緒方社長は1972年に大阪府豊中市で生まれた。福岡の大学を卒業後、福岡の旅行代理店、東京の通販会社の雑誌編集を経て、沖縄の友人から広告代理店への転職を勧められ、結婚したばかりの妻と1999年に沖縄に移住した。ところが半年ほどで会社を辞めざるを得なくなった。そこで始めたのが、那覇市内の国際通りでの路上販売、通称「道売り」である。海で拾ったサンゴや貝殻を写真立てに張り付けるなどして販売した。さまざまな人と出会い、会話をする中に「商売の基本」があることを体感した。

その1年後、以前勤めていた通販会社の社長から、沖縄でコールセンターの子会社を設立すると誘われ、雇われ社長を引き受けた。その後、子会社の代表を退任し、2011年4月にコーカスを創業。「最初はコールセンター開設を支援するコンサルティング業から始めた。東日本大震災の発生直後であり、リスク分散の観点から沖縄へのコールセンター開設意欲は高かった」と緒方社長は語る。

事業を進めるにあたって気をつけたのは、コールセンター機能の地位向上だ。「本来はお客様の声を経営の最上位に持っていかねばならないのに、社内にコールセンターがある会社の大半は、コールセンター部門の発言力が小さい。それを正すためにも、我々プロが請け負うことが顧客窓口を担う仕事の価値を高めることになると訴えた」と話す。現在、コールセンター事業はネット通販会社や大手ピザチェーン、化粧品会社など6社がクライアントとなっている。

「捨てる」を経営方針の一つに

2016年に完成した本社屋
2016年に完成した本社屋

その際、「捨てる」を経営方針の一つに据えた。コールセンター業は通常、かかってきた電話に対してオペレーターが対応した割合「応答率」で評価される。ところがコーカスは、顧客からの「ありがとう率」で評価する。一般的なコールセンターの通話時間は3分程度だが、敢えて5~10分以上の長電話を目指す。顧客の話を丁寧に聞き、きちんと対応することで、顧客の満足感と納得感を上げることに集中する。逆に効率性や24時間対応などは捨てた。この結果、1年半後に「ありがとう率」は25%から70%に向上した。

さらに社員同士がウェブ上でほめ合うツール「カバス」を、友人経営者の会社の取り組みをヒントにオリジナル開発・導入した。「ほめる」を15種類のバッジという目に見える形で送り合う仕組みで、もらった社員は自分の長所を確認できる。「ありがとう率の高い人を分析したら、実は『ありがとう』を数多く言っている人だった」と緒方社長。コールセンターは一般的に、インカムを付けた社員が顧客対応に専念し、隣同士でもまったく会話がないという〝殺伐とした〟イメージ。こうした社内の雰囲気の悪さを払拭し、離職率を下げることも狙った。

このほか、2016年9月にモノレール「ゆいレール」の市立病院前駅前に新本社屋を建設したのを機に、社員食堂を開設。18年3月には自社の事業内容に保育事業を加え、社屋2階に「しゅりそら保育園」を開所した。社員の子どもだけでなく、近隣からも子どもを受け入れ、実際に離職率は大きく下がったという。

「やる・やらない」を決める

首里城近くの首里石鹸1号店
首里城近くの首里石鹸1号店

「首里石鹸」ブランドを掲げる石鹸事業に進出したのは2016年。同年10月に沖縄の象徴である首里城近くに「首里石鹸1号店」(本店)をオープンした。物販事業を始めたのは、コールセンター業務を担当していた産休明けや介護をしながら働く女性向けの職場を作り出すことが目的である。子育て中の女性が販売するのにふさわしいものとして、石鹸が浮かび、石鹸職人を探して共同で開発した。熱を加えず時間をかけてゆっくり冷やし固める「枠練り」という手法を採用し、肌に優しく、家族で使える、沖縄らしい石鹸が出来上がった。

石鹸事業を始めるにあたり、まず四つの「やらないこと」を決めた。適正な価格で石鹸職人や社員に対価を支払うため「安売りはしない」、作り手の思いや商品の良さを直接伝えるため「卸売りはしない」、そして「広告は打たない」「品質に妥協しない」である。結果として、石鹸1個が2000円(税抜き)と高額な設定になった。

逆に二つの「やること」も決めた。出会いの場を増やすために「人流のあるところに出店する」、高額商品を販売するための接客術やストーリーを生み出すために「お客さまとの対話を価値にする」である。現在の顧客層は県外が75%、県内が25%と、沖縄を訪れた県外客によるお土産需要が中心。店舗での平均購入金額は5500円前後と、高額商品ながらその価値は評価されている。

緒方社長が今後、期待しているのはEC(電子商取引)分野だ。専用のネットショッピングサイトを通じて販売しており、23年3月期は1億5000万円の売上高を見込んでいる。沖縄の観光客は、旅行を目一杯楽しむために店舗での滞在時間が限られており、2~3品の買い上げが主流。旅行から帰って、商品の良さを実感してから、ネット販売サイトでさらに購入するという流れがあり、今後は大幅な売上増を期待している。

来年はアジア・米国進出に挑戦

沖縄らしくカラフルな商品群
沖縄らしくカラフルな商品群

コーカスは2年後の2025年3月期に売上高27億円、利益3億円という目標数値を立てる。とはいえ「売上高という指標は重要視していない」と緒方社長。大事なのは①社員の所得アップ②選べる働き場所の提供③選べる職域・役職④学べる職場⑤地域社会への貢献—で、売上はそれらを実現するための要素の一つと位置付ける。

このうち社員の所得は、業界平均の120%以上の額を実現するのが目標だ。その一環として、22年10月にパート社員の時給を1000円から1200円に、店長や責任者の月給を25万円から30万円に引き上げた。25年3月期には時給者の年収を300万円以上に、一般社員は360万円以上に、店長・責任者は500万円以上に引き上げる計画だ。

「選べる役職」については、これまで経営からの打診だった上職への登用を、今年度から公募制に切り替えた。立候補した人の中からチャレンジしてもらい、役職者を決定する。会社の業績だけでなく、社長からパート社員まで約150人の給与も全社員に"可視化"するなど、会社の見える化を進めている。

課題は社員の採用だという。コロナ前は毎年3~5人の新卒採用も行っていたが、コロナ後は中途採用だけだった。しかし今後毎年5店舗を開設するとして、1店舗当たり6人体制だと、合計30人を採用しなければならない。今の雇用情勢から中途採用で毎年30人を採用することは厳しいため、23年4月から新卒採用に力を入れていくという。

「選べる働き場所」の提供では、県内外だけでなく、国外も視野に入れる。今後2年間に国内外で10店舗程度の新設を見込んでおり、「来年には台湾と米ニューヨークに出店したい」と語る。海外進出の際はフランチャイズ方式を考えており、アジア・米国に続き、将来的には欧州やアフリカ進出も狙っている。緒方社長は「沖縄の中小企業が世界で活躍するきっかけに貢献できたら最高だ」と力を込める。

企業データ

企業名
株式会社コーカス
Webサイト
設立
2011年 4月
資本金
5000万円
従業員数
160人(2022年11月現在)
代表者
緒方 教介 氏
所在地
沖縄県那覇市首里末吉町4丁目6-6
Tel
098-886-7770
事業内容
コールセンター事業、石鹸の企画・製造・販売事業、保育事業