中小企業・小規模事業者によるカーボンニュートラルの取り組み事例
中小企業版SBT認定取得後も”できること”を積み重ねて、CO2排出量を削減:株式会社津田工業(岐阜県各務原市)
2025年 3月 14日
企業データ
- 企業名
- 株式会社津田工業
- Webサイト
- 設立
- 1989年1月(創業は1963年)
- 従業員数
- 5名
- 所在地
- 岐阜県各務原市金属団地80-4
- 業種
- 金属製品製造業
岐阜県各務原市で板金の加工を行う。性質や用途に応じた強度補完や接合に関する設計技術力と企画提案力で短納期・低コストを実現しつつ、新工法で特許を取得するなど新しい技術開発を積極的に行っている。今回は代表取締役社長の津田義久氏にお話を伺った。

[取り組みのきっかけ]
フォーラムへの参加をきっかけに、中小企業版SBT認定を取得

1963年に津田氏の父が創業し、技術力と対応力で長く顧客から信頼され続けている津田工業。新工法を動画コンテンツ化しサイト上で公開するなど、プロモーション活動にも注力している。カーボンニュートラルの取り組みを始めたきっかけについて、津田氏はこう語る。
「中小企業版SBT※は、十六銀行の担当者から聞いて初めて知りました。その後、岐阜県主催の「脱炭素社会推進フォーラム」への参加をきっかけに、新たな取引のチャンスが広がると思い、中小企業版SBT認定の取得に取り組んでみようと考えました」(津田氏)
その後、十六銀行の協力を仰ぎ、中小企業版SBTを申請。同時期に、十六銀行から、資源エネルギー庁「令和4年度中小企業に対するエネルギー利用最適化補助金」による事業「省エネ最適化診断」を紹介いただき、工場内の診断等手厚くサポートしてもらったという。
「エネルギー使用合理化専門員の方に、すべての機械のCO2排出量を細かくチェックいただき、CO2排出量の多い機械については、省エネ型の新しい機械の導入をご提案いただき、導入しました。また、CO2排出量を減らすためには電気使用量を減らすことが重要ということで、身近な取り組みについてもいくつかアドバイスをいただきました。従業員向けに診断結果の説明会を設ける等、丁寧にご対応いただきました」(津田氏)
※中小企業版SBT
SBTとは、Science Based Targetsの略称。企業が科学的根拠に基づいて設定する温室効果ガス(GHG)排出削減目標のこと。通常のSBTと比較して、削減対象範囲、目標レベル、費用、承認までのプロセス等が、中小企業が取り組みやすいように設定されている。
[具体的な取り組み]
薪ストーブの導入など、「できることから始める」を意識

フォーラムへの参加をきっかけに、中小企業版SBT認定を取得してCO2排出量の見える化に取り組んでいる同社。具体的な数字が見えることで、CO2排出量削減への取り組み意識が高まり、実際に電力使用量にも変化があったと語る。
「具体的には、待機電力が必要なものに関しても使用時以外は電源を落とす、電力量の3分の1を占めるコンプレッサーの設定圧を下げてエア漏れを完全に止めるなど、できることをやっていくことを意識しています。今後は事業者の車をEVに変える予定です。外注することでエネルギー利用料が下がる場合は、協力してもらうこともあります。今の目標はスコープ1(自社が直接排出する温室効果ガス)を減らしていくことなので、そのためにやれることから取り組んでいます」(津田氏)
また、津田氏のアイデアで灯油ストーブから薪ストーブに切り替えたという。
「木を燃やした際に排出されるCO2は、木が成長する過程で吸収されるため地球全体で考えるとCO2の総量は変化しないという考え方があると知りました。加工材料の鉄板を購入した際に不要となる木製スキットを解体した廃材を再利用して燃料にできるのではと考えて薪ストーブを導入しました。木製スキットが少し足りなかった今シーズンは、みかん農家さんが植え替え時期にでる古木を再利用しようと自然乾燥させ薪にして、受注生産をされている企業様にお声をかけていただきましたので購入いたしました」(津田氏)
[感じたメリット・課題]
コストの削減を実感しつつ、メディアの取材も増加

できることから1つ1つ取り組んでいった結果、目に見える成果が出始めたという。
「光熱費に関して2021年との比較で15%程度減らせたので、コストを削減できた点はメリットとして感じられました。冬場の工場では灯油を1日一斗缶2缶使用していたので、それを薪ストーブに置き換えたのは大きいです。また、カーボンニュートラルの取り組みによって、メディアからの取材が多くなり、会社の知名度や信頼度が向上しました」(津田氏)
取り組みを推進するにあたっては従業員のカーボンニュートラル意識向上が課題となる場合も少なくないが、どう向き合ったかについても尋ねてみると、こう答えてくれた。
「目に付く場所に使用電力を可視化したものを貼り出したことにより、自然に従業員の目に留まり、皆が電力の使用量を意識できるようになりました」(津田氏)
[今後の展望]
さらなるCO2削減へ、できることを模索したい

2022年に中小企業版SBT認定を取得した同社。カーボンニュートラルの取り組みに関する今後の目標を尋ねてみた。
「2021年から計測を開始し、現在約15%削減を達成できました。今後は2030年までに2022年比で42%削減というのが目標です」(津田氏)
数値の見える化からスタートし、できることから取り組み、目に見える数値の減少という成果を実感。またそれをモチベーションに次のできることを積極的に取り組み続けている同社。最後に津田氏は今後の展望を語ってくれた。
「人間のアイデアは無尽蔵なので、それをいかに製品に落とし込んで世の中に広めるのかが製造業としての面白みだと思います。CO2を排出する塗装工程を不要とした素材を使い加工する新工法を開発して、特許を取得しました。将来この技術が使われているかもしれないと想像すると、とても楽しみです。これからも新たな技術の開発に取り組んでいきたいです」(津田氏)