農業ビジネスに挑む(事例)

「ドクター・オブ・ジ・アース」夢は大きく、農業で地球を救おう

  • 形がわるくても味がよければ売れる
  • 受発注システムを独自に開発

環境破壊から地球を救う医者になる。そんな少年期の夢を実現するために起業したのが河村賢造さん。社名もそのものずばり、「ドクター・オブ・ジ・アース」だ。

さて、その河村さん、いかにして地球を救おうと考えたのか?思案の挙句に辿り着いたのが農業。「農業の多面的機能」という農地自体が果たす環境的意義に着目し、農業の活性化によって地球の環境を維持・改善を実現しようと考えた。そのための手法として農業コンサルティングと青果販売を念頭に置き、河村さんは2007年4月にドクター・オブ・ジ・アースを創業した。

おいしい野菜を産直する「野菜ソムリエの店のら 千里中央店」

まず、河村さんは青果販売として、大阪・千里中央駅に隣接する専門店街に「野菜ソムリエの店のら 千里中央店」を所有した。それまで河村さんはこの青果販売店で従業員として勤務していたが、起業と同時に店舗の経営権を引き継いだ。

「お店を引き継ぐと共に経営手法もガラリと変え、産直を専門にした『こだわり野菜のセレクトショップ』として再スタートさせました」

業界の先輩たちからは「産直は難しいから商売にするのは無理」と意見され、それが常識と聞かされた。が、本当にそれが常識だろうか。どうしても腑に落ちなかった。自ら味を確かめて産地から直接調達した野菜や果物を販売する。河村さんはそこにこだわりたかった。

また、農業を切り口にして地球環境に寄与するためには、なによりも農業生産者の存在が重要だ。自らの夢を実現するためにも、苦労して青果を栽培する農業生産者がメリットを見出せるようにする必要がある。つまり、少しでも生産者が儲かるような仕組みをつくらなければならない。そのためにも味にこだわる青果店とし、市場流通では規格外とされるような野菜も味がよければ適正な価格で販売する。自らの販売コンセプトに適い、同時に生産者にもメリットをもたらせられる。

「のらに来店されるお客さまには、生産者の思いを伝えられるよう、ストーリー性をもたせて野菜や果物を販売します」

千里中央駅周辺には高級住宅地や日本初のニュータウンがあり、住民の層は多岐にわたる。その中でも多少高額でも良品を評価してくれる客層に向けて産直で味にこだわった青果を売ることにした。

2年間で300軒の生産者を開拓

創業から約2年間、河村さんは取引する農業生産者の開拓に奔走した。ただし、河村さんの店舗は1軒しかないため、取り扱える青果の数量にも限度がある。一方、市場流通を前提にした生産者は、多量に出荷する青果のほんの一部だけを河村さんの店舗に出荷するという作業自体を煩わしく感じてしまう。そこで河村さんは粘り強く生産者を巡り、おいしい野菜を適正な価格で販売したいので協力してほしいと自らの熱意で伝えて回った。

そのかいあって2年間で300軒の生産者と取引できるようになった。「生産者がつくった野菜の価値を見極める。その目利きについては誰にも負けません」(河村さん)と自負するほどに多くの生産者を訪れ、彼らの思いに耳を傾け、その味を覚えることを繰り返した。

生産者と飲食店を結ぶシステム

現在、ドクター・オブ・ジ・アースが取引する農業生産者は600軒。青果は店舗での販売のほか飲食店にも卸す。

「千里中央駅の周辺にはミシュランの星を得るようなレストランが多くあります。そこのシェフが野菜の仕入れで来店を重ねられるうち、卸をしてほしいと頼まれたのが卸売の始まりです」

卸売する飲食店は300軒あるが、これだけの軒数になると1つ1つ受発注していては対応しきれない。そこで2010年、生産者と飲食業者を仲介するための受発注システムを独自に開発した。このシステムでは、生産者は週単位で出荷物の品目、数量、単価を入力し、そのデータが表示された注文画面から飲食業者が必要事項を入力して発注する。

一般的に飲食業者が農業生産者から青果を直接仕入れる場合、最も陥りやすい失敗が端境期に野菜が調達できない、仕入れのロットが大きすぎることなどだが、ドクター・オブ・ジ・アースはそこに仲介することでそのデメリットを解消する。

「野菜は天候しだいだから予定通りに栽培できないことが当たり前。一方、レストランはメニューを決めてから野菜を選ぶので、事前に注文しておいた野菜が当日入荷できないことなどあり得ないのです」

この生産者とシェフの商習慣の違いを仲介して解消する。それは言うほど簡単なことではなく、生産者とのコミュニケーションを密にし、農地の生産状況を逐次把握することで初めて可能となる。

独自に開発した、生産者と飲食店をつなぐ受発注システム

「この独自の受発注システムを基盤に、その日の朝に入荷した青果はその日のうちに飲食店さんに出荷します」

新鮮な青果は鮮度を落とさずに届ける。現在、ドクター・オブ・ジ・アースは1日に200件の入出荷を担う。年商は1億円、その内訳は店舗40%、飲食店への卸40%、スーパーなど量販店への販売20%だ。

青果の国内マーケットは、市場流通に代表される大規模なものから地産地消のような小規模なものまで多岐にわたる。その中で同社は味のよい野菜を直接生産者から消費者へ届けることをビジネスとする。それについては「多様な国内マーケットの中で自らのポジションを見極めているからビジネスとして継続できている」(河村さん)と自己分析する。

今夏、ドクター・オブ・ジ・アースは東京に拠点を開設した。現在の顧客の約97%は関西だが、今後は東京へと商圏を広げていく。生産者が手塩にかけて栽培したおいしい野菜、こだわりの野菜を誰もがネットで購入できる。その独自のビジネスモデルをさらに拡大していこうとしている。

企業データ

企業名
ドクター・オブ・ジ・アース株式会社
Webサイト
代表者
河村賢造
所在地
大阪府東大阪市本庄西1-7-38 株式会社関通内1F