Be a Great Small

重量物を軽々移動「バランサー」の海外展開目指す「元田技研株式会社」

2022年 7月 4日

鹿児島県薩摩川内市にある鹿児島工場で製造されるバランサー「ワイマン」
鹿児島県薩摩川内市にある鹿児島工場で製造されるバランサー「ワイマン」

工場内に据え付けられた小さなクレーンのような装置「バランサー」。2~3人がかりでないと動かせないような重いものも1人でも軽々と持ち上げられるようアシストしてくれる装置だ。モノづくりの現場はもちろん、航空・鉄道分野から農家まで幅広い分野に利用が広がっている。作業員の肉体的な負担を軽減し、業務の省力化・効率化に大きな貢献を果たしている。

開発から50年以上、パイオニア的な存在

ガラスや鉄板の移動に便利な真空吸着のアタッチメントが付いた「ワイマン」
ガラスや鉄板の移動に便利な真空吸着のアタッチメントが付いた「ワイマン」

元田技研株式会社はバランサーの老舗ブランド「ワイマン」の製造を手掛けている。代表取締役の元田公之氏の父が50年前に開発した技術だ。元田氏の父は日本にバランサーを広めたパイオニアでもある。

「ワイマン」の名前は、ゴリラの学名に由来があるそうで、「力持ち」という意味が込められている。支柱から伸びたアームがしっかりと重量物をつかみ、モーターや油圧などの力で微妙なバランスで釣り上げ、支える。どんなに重たいものも無重力のような状態になる。「『持ち上げる』というよりも重量物をシーソーや天秤のようにバランスさせるイメージ」と元田氏は語る。

フォークリフトのパレットに積み上げられた重たい部品を製造ラインに載せたり、完成品をパレットに移したり。そんな場面で大きな力を発揮する。重量のある鋼材の加工機への装填や航空機のタイヤの交換、点検時に電車の車両からモーターを取り外すときにも重宝される。袋詰めの農産物の荷積みや荷下ろし…。使い道は100社あれば100通り。顧客のニーズに対応し、ほぼオーダーメードで製品を作り上げている。

「『ワイマン』を使う企業は国内で600社以上。大手企業も数多く名を連ねている」と元田氏。どんなに古い機械でもメンテナンスに対応するサポート体制で多くの顧客の信頼を勝ち取っている。

運命を変えた再会、ものづくりの現場に

天井走行台車式のワイマン。用途によって形もさまざま
天井走行台車式のワイマン。用途によって形もさまざま

2017年に父から経営を引き継いだ元田氏だが、父とは5歳の時から別々の生活を送り、会う機会が全くなかったという。その後、学校を卒業し、サラリーマン生活を送っていた元田氏の元に音信がなかった父から突然「会いたい」という連絡を受けた。その連絡が元田氏の運命を大きく変えることになった。2000年のことだった。

「自分も会ってみたいと思った」と元田氏。待ち合わせをして酒を酌み交わした。実に30年ぶりの再会だった。すると、父からこう提案を受けた。

「会社を一緒にやらないか」

当時、父は元田技研の前身となる会社を経営し、「ワイマン」を製造していたが、経営の多角化に失敗。会社を倒産させてしまっていた。ところが、すでに何万台も市場に出ていた「ワイマン」の取引先からは、ひっきりなしに修理や買い替えの依頼が相次いでいた。そこで父は「ワイマン」専門メーカーとして会社を立て直すことを決断していたのだ。

工場の様子

「当時、勤めていた会社の仕事にやりがいを感じて、やりがいのあるポジションにいたころ。父から提案を受けたときは本当に悩んだ」と元田氏は振り返る。それから4年後、元田氏は父が再建した元田技研に合流した。前身の会社から残った10人ほどの社員たちと再建に取り組むことになった。

勤めていた会社にそのまま留まれば、安定したサラリーマン生活を送ることができたはずだが、それを振り切って父を支える決心をしたことに元田氏はこう語った。

「やっぱり根本的にモノづくりが好きだったのかもしれない」

だが、一度失った信頼を取り戻すのは並大抵ではない。まさにゼロからのスタートだった。「休日や盆も正月もないような状態。設計者が設計をしながら営業に回ったり、溶接の担当者が別の業務をやったり。本当に苦労をいとわず頑張ってくれた。おかげで私も技術や知識を身につけることができた」と語る。

目指すのは職人集団 製造現場は「工房」

職人集団を目指す元田技研。一台一台手作りで仕上げる
職人集団を目指す元田技研。一台一台手作りで仕上げる

こうした社員たちの努力とともに、長年の経験に裏打ちされた優れた技術が再建を大きく後押しすることになる。

「製造現場は工場というよりは工房のイメージ。少人数の製造舞台が一台一台手作りで仕上げている。職人集団を目指している」と元田氏。大きな強みとなっているのが、アームの先端部分に取り付ける「アタッチメント」の開発技術だ。重量物をバランサーに固定する役割を果たしている。

固定の仕方は、顧客のニーズによって大きく変わる。手でつかむように対象物を両側から挟み込んで持ち上げるタイプもあれば、紙や金属のロール材を移動する際、棒状の支え中心の空洞に差し入れて、すくい上げるように移動させるタイプもある。鉄材であれば強力な磁石のアタッチメントに吸着させる方法もある。磁石ではくっつかないガラス板のような素材も吸盤状のアタッチメントで吸着させて移動させることもできる。

「バランサーを使ってこんなことがしたい」。そんな顧客のニーズを丹念に聞き取り、対象物を安定的かつ安全につかみ取れるようアタッチメントを設計・開発していく。50年以上にわたって積み重ねた一つ一つの経験や実績が財産となり、次の受注につながっている。

顧客の中には中小の町工場も多い。30年以上も使い続けている工場もあるそうだ。ふつうなら「買い換えてください」というところだが、限界ぎりぎりまで修理に対応する姿勢を崩さない。

「古いものだと、半導体部品が見つけられない。もう日本では生産していないので、海外の部品を取り寄せるが、やはり30年前の日本製が一番」と元田氏は指摘していた。流通在庫がない部品を世界中のサイトを探し回り、見つかったらすぐに購入して確保しているそうだ。

海外の市場狙い低価格製品の開発に着手

バランサーの製造を手掛ける元田技研代表取締役の元田公之氏
バランサーの製造を手掛ける元田技研代表取締役の元田公之氏

一方、今後の事業として力を入れるのは海外市場への展開だ。インドネシアやベトナムをターゲットに現地で製造可能な低価格帯の製品開発を進めている。

「海外に進出した日系企業が、工作機械と一緒にワイマンを日本から移送しており、現地の工場にも利用されているので、現地でのニーズは必ずある」と元田氏。わざわざ日本から調達せず、現地の進出企業に直接売り込む作戦だ。

元田氏が目指すのは、現地の企業が手に入れやすいように日本の製品の半分以下の価格に設定することだ。インドネシアやベトナムといった現地の企業への製造委託や販売代理店との契約を進めている。現地の日系企業だけなく、現地のローカル企業の需要にも期待を寄せている。そう遠くない将来に東南アジアを中心にワイマンのブランドが現地で働く作業員たちの負担軽減に貢献する日が訪れそうだ。

企業データ

企業名
元田技研株式会社
Webサイト
設立
2000年11月
代表者
元田公之 氏
所在地
東京都八王子市片倉町633-10
Tel
042-683-1282