農業ビジネスに挑む(事例)

「ベジポートLLP」農産物を全量・基準価買取。農業生産者の安定を図る

  • 農産物を基準価格で全量買取り
  • 販売先・エンドユーザーを鑑みて農産物の出荷規格を定める

農産物は基準価格で全量を農業生産者団体から買い取る。だから、農業生産者も市場の動向に左右されることなく安心して農産物をつくれる。また、全量を基準価格で買い取ることで農業生産者の収入の安定化に寄与できる。そんな目的から2007年10月、ベジポートLLP(有限責任事業組合)が千葉県旭市に設立した。

同社は、ニチレイと農業生産法人テンアップファーム(千葉県富里市)が提携し、農林水産省の「野菜低コスト供給パートナーシップ確立事業」の認証を経て設立された。その目指すところは、ニチレイの温度管理技術・加工技術とテンアップファームの生産・管理技術を融合させ、産地と消費者を直結する新しい農産物流通システムの構築だ。

ベジポートとは野菜の積出港を意味するが、同社は野菜の集荷、貯蔵、加工、販売を事業としている。その拠点となるベジポート旭センター(千葉県旭市)は2009年7月から稼働し、面積3536m2の建屋で年間約1430トン以上の農産物を取り扱っている。

ベジポート旭センター

最終バイヤーとの交流は農業生産者のモチベーションアップにつながる

同社では、テンアップファームが契約する千葉県北東部の80軒の農家で収穫されたトマトとニンジン、ホウレンソウを集荷し、生鮮野菜および加工品として取引先へ販売する。

その作業のフローは、まずテンアップファームが契約農家から集荷した野菜を入荷する。つぎに社内の独自規格に則して生鮮品として出荷するものと加工に用いるものとに選別し、生鮮品はさらに取引先の指定する規格に順じて出荷する。おもな取引先は大手量販店、外食企業、ニチレイの加工工場だ。

加工用に選別されたトマトとニンジンはそれぞれジュースに加工される。トマトジュース、ニンジンジュースは通年の商品として道の駅や飲食店チェーン、コンビニエンスストアなどへ出荷される。

現在、ベジポート旭センターで取り扱う野菜の量は2230トン(主要品目はニンジン、トマト、ホウレンソウ)であり、このうち平均して60-70%が規格内品として生鮮野菜の状態で出荷され、残りの30-40%が規格外品として加工品に用いられる。

ベジポートでは社内の独自規格について、顧客のニーズに沿った調整をしているが、あわせて、農業生産者の生産状況を鑑みながら、生産者とベジポートの間で協議して調整している。そのためにも契約農家の生産現場に足繁く通い、農作業の実情を的確に把握するとともにコミュニケーションを深めている。また、自社に圃場管理者の職を設け、契約農家からの農産物の出荷状況や見通しなどの把握にも努めている。

さらに農産物の入出荷に関しては、テンアップファームとの定期的な情報交換により契約農家の生産状況を適宜把握し、同時に出荷先の販売状況をテンアップファームに伝えることで農産物の入出荷についての情報を共有している。

また、時に応じて大手量販店など取引先の担当者を契約農家の生産現場に招くことで農業生産者との交流を図っている。それは取引先に農業の生産現場を実感してもらうだけでなく、農業生産者も最終バイヤーから感想や要望を直接聞くことでモチベーションを高めることにつながるのだ。

トマトの選果作業で生鮮野菜と加工品用に分ける

生産者と販売者が2人3脚で歩む

同社が事業をスタートさせた当初は、契約農家も実際にどれくらい売れるのだろうか、とベジポートという新しい販路には半信半疑だった。しかし、販売・仕入れの実績とコミュニケーションを通し、消費者と生産者をつないで農業生産者が安心して生産・出荷できる環境を提案するというベジポートの理念を徐々に理解してもらえたことで、契約農家からも品質や規格について忌憚のない意見を引き出せるまで信頼を得ていった。

また、最近はテンアップファームと契約農家にも社内の選果作業に定期的に立ち会ってもらい、相互に知恵を出し合うことで農産物の独自規格を見直し、テンアップファーム、生産者(契約農家)と販売者(ベジポート)が共通見解のもとで農産物をつくり、販売している。そんな2人3脚での歩みによって、ベジポートは新しい農産物流通システムの構築へと一歩一歩進んでいる。

企業データ

企業名
ベジポート有限責任事業組合
代表者
小林久一
所在地
千葉県旭市鎌数字川西7080-18(あさひ新産業パーク内)