中小企業応援士に聞く

チャレンジ恐れない金型研究開発で他社と差別化【株式会社岐阜多田精機(岐阜市)代表取締役社長・多田憲生氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2021年2月24日

多田憲生代表取締役社長
多田憲生代表取締役社長

1.事業内容をおしえてください

同社が製造する自動車用部品
同社が製造する自動車用部品

自動車部品の金型製造と研究開発が主要事業で、叔父が名古屋で行っていた金型の仕事を父が岐阜でも行うようになったのが始まりだ。以前は3次、4次の下請け仕事が多かったが、現在はトヨタ自動車から大手部品メーカー、弊社への2次下請けで、電気自動車・ハイブリッド車など次世代の車部品の金型研究開発について、製品の形状だけでなく生産性改善を含めた相談や発注を受けている。

金型研究開発では2007、11、17年に中小企業庁の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)を活用した。その過程で人脈や露出が増え、外部から研究開発を行う企業として目されるようになり、様々な共同研究開発の声もかかるようになった。

どんな仕事も断らずに「やる」ことが外部から評価されて前期2020年12月期決算の売上高は18億円。利益率は約10%で黒字を計上した。コロナ禍で顧客が生産活動を控えたり、開発を控えたりという影響はあったが、遠隔地の顧客とWEB会議を利用して商談を行うこともできた。

2.強みは何でしょう

整然とした工場内部
整然とした工場内部

未知の領域にチャレンジする姿勢や勇気があることが強みだ。国際協力機構(JICA)の支援でインドの職業訓練校の一つであるプラスチック工学・技術中央研究所(CIPET)のラクナウ校に対し金型のエンジニア育成カリキュラムを作ったときには、総勢18人が交代制でインドに行った。本業がしっかりしているからチャレンジできるということもある。一般の金型メーカーの内製化率は5割程度だが、当社は8割と高いため、試作がしやすい。

合理化を進め、職人の経験に頼るのではなく、面倒な工程は標準化により機械化し、人がより活躍できるようにするための積極的な投資を行っている。

3.課題はありますか

自社のブランディング・プロモーション(発信力)を強化しようと考えているが、社員を教育できる人がいない。企業価値だけでなく、モノづくりの価値をもっと高めないといけない。

事業内容が自動車部品一辺倒という現状も課題だ。事業のもう一つの柱にしたいと、二次電池(バナジウムレドックスフローバッテリー)の開発を行っている。二次電池の電解液は酸性のため金属配管ではなく樹脂配管で、電池の心臓部であり電解液の酸化還元を行い充放電させる電池セル部も樹脂で作られているので、当社の金型開発と親和性がある。

モノづくりをサポートする事業を立ち上げようとも考えている。「金型」でなくそれによって作られる「モノ」が欲しいという顧客がある。弊社で作ってもいいし、作れるように支援することでも構わないと思う。

4.将来をどう展望しますか

インドへ技術協力も
インドへ技術協力も

多田精機グループ全体での売上高は約27億円。いま50歳で96歳まで生きるつもりだが、その間に150億円企業にしたい。決して儲けようという発想だけで150億円企業にしたいということではない。これから「地方の時代(地方も都会もない時代)」が到来するだろう。この地で金型作りを続ける上で住・教育環境に不安を感じている。しっかりした教育の仕組みがあってほしいと考えており、県や国に対する発信力を持つためにも企業規模を拡大したい。

海外展開では中国・インド・アメリカにビジネスパートナーを作っていきたい。特にインドはアフリカ市場を睨み世界の工場となる可能性がある。インドに進出している日系の成形メーカーに高精度な射出成型用金型を販売して、そのメンテナンスで現地にも行けるパートナーを作っていくことが合理的だろう。現地企業とも関係を築きたい。社員に現地パートナー企業の金型づくりの先生になろうという気運が生まれてきてほしい。

良い商品を作り、興味を持ってもらえるような技術を磨いて、顧客に見つけてもらうのが当社の作戦だ。研究開発が販路開拓につながっていくと考える。

5.経営者として大切にしていることはなんでしょう

社内・社外、取引先、地域の全てに対し、社是である「善と豊かさの循環」を大切にしている。サポイン事業の採択を受けた中小企業有志で設立したサポイン倶楽部で特別支援学校への支援をしているのもその1つだ。豊かさとはお金ではなく、地域に愛されることだ。取引先との関係における対価の授受も「善と豊かさの循環」で成り立つと考えている。みんなが一握りの余裕(善)を出し合って全体を豊かにする、そのサイクルができれば嬉しい。

中小企業の若手の経営者は、自分の本業をしっかりとらえてほしい。自社や業界を理解して初めて他社との差別化が図れる。そのための手段として研究開発は有効だと思っている。

企業データ

企業名
株式会社岐阜多田精機
Webサイト
設立
1980年
代表者
多田憲生 代表取締役社長
所在地
岐阜県岐阜市東改田字鶴田93
Tel
058-239-2231

同じテーマの記事