中小企業応援士に聞く

地域連携で佐賀の「食」を全国・海外に【佐賀冷凍食品株式会社(佐賀県小城市)代表取締役社長・古賀正弘氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2021年 9月27日

本社事務所で従業員と古賀社長(前列左端)
本社事務所で従業員と古賀社長(前列左端)

1.事業内容をおしえてください

明治時代に使用していた「量り売り用かねすえ徳利」
明治時代に使用していた「量り売り用かねすえ徳利」

1892年(明治25年)に曽祖父である古賀末吉が、酒・雑貨小売業(屋号:かねすえ)を始めたのがルーツだ。その後、冷凍食品の卸売業を始め、1973年(昭和48年)に佐賀冷凍食品株式会社を設立した。佐賀県内の大手流通業の統廃合が進む中、地域に根差した企業として1996年からは地元の農産物を加工した「佐賀のふるさと食品」の取り扱いを始めた。

2006年に食品製造業に本格参入し、08年から「かねすえ」ブランドとして「おいしい、地元食材、安心」をテーマに、自社製品の冷凍おにぎりのほか、佐賀県内の農業生産者やシェフと連携して「佐賀牛ハンバーグ」「レンジDEステーキ」「おもてなし寿司」など、付加価値の高い商品づくりを追求している。食品の卸から製造までを行い、佐賀の魅力を全国・海外に発信している。

2021年3月期の売上高は4億7000万円。卸売部門は食品スーパーや飲食業、自衛隊など約90社、製造部門は通販・宅配事業者、百貨店、ふるさと納税など45社と取引があり、卸が全社売上高の8割を占める。社員数は24人で、うち正社員は7人、パート社員は17人の陣容だ。

新型コロナウイルス感染症の影響を最も受けた20年3月は、前年同月に比べて売り上げが27%減少した。ただ、コロナ禍でも休業はせず、外出自粛に伴う「家ナカ需要」への対応に向けて取り組みを強化した。資金繰りは日本政策金融公庫と県の無利子融資を活用した。

2.強みは何でしょう

2017年に完成した「かねすえキッチン工場」
2017年に完成した「かねすえキッチン工場」

まず卸売業と製造業という「2足のわらじ」を履くことによる相乗効果だ。卸売業を通じて最新の消費者ニーズを把握することができ、マーケットインの発想を重視した商品開発・製造を可能にしている。ロットは少なくてもニーズに合う商品開発を着実に行うことで、小規模という「弱み」を、ローカルな中小企業だからこそ対応できる「強み」に転換している。その成果が、「かねすえキッチン」という自社ブランドで開発する冷凍おにぎりや冷凍おせち、冷凍スイーツなどだ。

もう一つは、地場の企業や学校、地域支援機関といった地域とのネットワーク・信頼関係である。例えば、県立佐賀農業高校の生徒さんたちが企画した冷凍玉ねぎ商品「冷凍しろたま」の商品化に協力した。高校のある佐賀県白石町は全国的にも有名な「白石玉ねぎ」の産地。しかしコロナ禍で外食需要や学校給食需要が減ったために、廃棄を余儀なくされていた。苦境に立たされた白石玉ねぎ農家を救うべく、クラウドファンディングも活用しながら共同で商品化に取り組み、一般家庭向けのカット野菜として商品化した。生徒さんに小売業の仕組みから価格構成、パッケージング、表示方法などを学んでもらい、商流・物流に関する一連の業務を手助けした。

佐賀牛を使った「レンジDEステーキ」の盛付け例
佐賀牛を使った「レンジDEステーキ」の盛付け例

また外食需要の減少に伴い、苦境に立たされている地元の飲食店と、自宅でも店の味を食べられる宅配冷凍商品を共同で開発した。すでに3店舗と共同で実施しており、今後1年以内にさらに5店舗とのプロジェクトが始まる予定だ。パッケージデザインや食べ方の提案など、メーカーとしてのノウハウや、既存の流通網の活用などのノウハウも提供しながら地域連携を進めている。今後は地域商社的な活動として、県内外30社の食品・菓子製造業者との取引も計画している。

その基盤となるのが、2017年に佐賀市に完成・稼働させた自社新工場「かねすえキッチン工場」である。食品安全の衛生管理手法であるHACCPにいち早く対応し、食の安心安全を意識した厳しい納品先の水準にも耐えうるレベルを担保している。佐賀県の6次産業ニュービジネス創出支援補助事業も活用して、工場建設に取り組んだ。

3.課題はありますか

「人材育成」が課題だ。大手のコンビニエンスストアが取り扱わない地元の食品・菓子を集めたローカルフードコーナーづくりや、飲食店とタッグを組んだ販路開拓などに取り組んでおり、こうした新規事業に積極的に社員を参画させている。それぞれの社員に「いつまで」という期限の感覚を強く意識して業務に臨むよう伝え、業務の中で各々の成長を促している。

4.将来をどう展望しますか

おせち料理も手がけている
おせち料理も手がけている

地場の中小企業の特徴を活かし、地域連携を通じて、ともに成長を目指すプロジェクトを進めている。例えば、国の事業再構築補助金の第1回公募に採択された「プロの強みを集めて作る食の創造集団と商品開発体制の構築事業」を推進する計画だ。

この事業は、複数の飲食店や菓子店とタッグを組み、顧客から「あって良かった」と言われるような「食のモノづくりプロジェクト」を進めることがその一つ。3年後には20事業者と連携し、1億円の売り上げを目指している。

もう一つは、佐賀県小城市の本社敷地内に「セントラルキッチン」を新設し、連携する飲食店の冷凍食品とローカルフードを発信するアンテナショップ的な小売店舗も開設する。飲食店がこの施設を活用して調理し、品質までをトータルにコーディネートする。50事業者の商品を取り扱い、通販を含めて年商5000万円を計画している。

代表取締役社長 古賀正弘氏
代表取締役社長 古賀正弘氏

その先駆けとして、2020年度に地元の農業生産者や食品製造業者とともに「協同組合佐賀の善食くりや」を設立した。「くりや」とは台所のことで、佐賀県産の食材を使い、県民に長く愛されてきた「善食」づくりを追求しようと取り組んでいる。バイヤーが求める商品やギフトをタイムリーに開発・提案し、流通業の売り場活性化に貢献するのが目的だ。

現在は7社(うち賛助会員2社)で構成しており、月1~2回の情報交換のほか、各社の経営課題などについて意見を述べ合い、講師を招いての勉強会や研修会を開いている。今後は企画提案の一元化、品質管理・物流業務の標準化・共通化などの共同事業や、人材派遣事業なども計画している。

「変化こそ常道」が信条だ。時代の変化に応じ、卸からメーカーへ幅を広げた当社は、今後はプロデューサー的な立場で地域の企業の強みを繋ぎ、それぞれが主役となれるような仕組みづくりを始めている。

5. 経営者として大切にしていることは何ですか

先代の父の急逝に伴い、22歳で代表者に就任し、46年経営に携わってきた。経験不足に加えて、経営者としての判断力など足りないところばかりだったと思うが、先代や先々代が築いた人脈やのれん、さらには周りの方々に助けられて、ここまで事業を進めてこれた。

地域と当社は「共存共栄」の存在であり、目先の利益を重視し、自社のみが利益を獲得することでは企業活動は永く続かない。事業環境が日々刻々と変化する中で、地域に目を向け、支え合いながら、繋がりを大事にして、ともに成長していくことが当社のミッションだ。そのために今後も、地域の企業や支援機関との関係を大事にしていきたいと考えている。

企業データ

企業名
佐賀冷凍食品株式会社(屋号:産地問屋かねすえ)
Webサイト
設立
1973年11月
代表者
古賀正弘氏
所在地
佐賀県小城市芦刈町芦溝128-3
Tel
0952-37-1185
創業
1892年(明治25年)

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