鹿児島銀行大島支店長の任を終え県庁支店長に異動していた中村氏に、創業社長が逝去した町田酒造側から後継就任の打診があった。上司は「社長じゃなくて、専務か副社長でいいのでは」と反対したが「トップじゃないと改革ができない」と31年間勤めた銀行を潔く退職した。
2016年4月、着任初日。乗ってきた車をどこに停めればいいか聞くと、表の駐車場の一番便利な場所を示された。隣は専務、常務用のスペースという。それだけではない。幹線道路に面した同社には次々に「焼酎を買いたい」と観光客が訪ねてくるが「近くに大きなスーパーがありますからそこで買ってください」と断っていた。
驚いた。「一度追い返した客は二度と帰ってこない。そもそも客用の駐車スペースが決まっていない」。すぐに社員の車は社屋裏の駐車場に停めるよう指示したが、戸惑いは翌日以降も続いた。
朝礼がなかった。定例取締役会はなく、社内ミーティングは製造課と商品課だけ。「部署ごとにコミュニケーションがとれていないと行き違いが生じる。トラブルや苦情に対する責任の所在がわからなくなる」と感じた。
休日返上勤務も常態化していた。奄美は土曜日も仕事をするのが慣例で、町田酒造も創業以来月25日勤務制だった。月25日働かないと給料がカットされるので祝日が多い月は祝日も仕事に出ないと25日に達しない。どうしても用事があるときは有給休暇を取得するしかない。
「銀行マン時代にあたりまえだったことが、ここでは全然できていない」。新社長はギャップを実感する。