コロナ禍でがんばる中小企業

通販拡大・自販機参入で増収増益【株式会社かね久】(仙台市若林区)

2022年 7月20日

常にエネルギッシュな遠藤伸太郎社長
常にエネルギッシュな遠藤伸太郎社長

1.コロナでどのような影響を受けましたか

さまざまな種類の生パン粉を製造・配送する
さまざまな種類の生パン粉を製造・配送する

後継者が不在だった1944年(昭和19年)創業の老舗パン粉メーカー、金久商店から営業譲渡を受け、2014年に設立・営業を始めた。事業は「パン粉卸」「業務用食料品商社」「地域商社」の3部門で構成する。パン粉卸部門は、顧客のニーズに合わせたオリジナル生パン粉(100種類以上)を製造し、主に挽き立て生パン粉を宮城県内のとんかつ店などの飲食店や惣菜店へ自社配送する。業務用食料品商社部門は、食用油・調味料・粉全般・冷凍食品など大手メーカーの商品を飲食店や精肉店などへ自社配送している。

地域商社部門は地域食材を活用し、生産者・地元食品メーカーと連携してオリジナルな新商品を創り上げる事業。当社が中心となり、企画から新商品開発、販売までを一貫して行う。地元の水産物、牛たん、ふかひれなど地域に関わる商品を活用し、食品商社、EC(電子商取引)関連事業者などに卸販売する。

2016年に宮城県産有機JAS米の「米ミルク(ライスミルクパウダー)」を活用した健康食品の開発などで農林水産省・経済産業省から地域資源活用事業認定企業として採択され、18年には復興庁から特に産業復興のモデルとなることが期待される事例6社として復興大臣顕彰を受けた。新型コロナウイルス感染症が拡大する前の2020年1月期の売上構成比は、パン粉卸部門が約35%、商社部門が約45%、地域商社部門が約20%というところだった。

ところがコロナに伴う緊急事態宣言で、取引先である飲食店が休業に追い込まれ、パン粉卸と商社の2部門は大幅に売り上げが減少した。特に20年4月は全社売り上げが30%を越える減少となり、危機的な状況となった。このため、資金繰り面で日本政策金融公庫の無利子融資や国の持続化給付金を活用した。現在でも取引先の飲食店はコロナ前の売り上げには戻っていない。

2.どのような対策を講じましたか

本社前に設置した自販機(左から「仙台パン粉食堂」「東北うまいもの食堂」と他社自販機)
本社前に設置した自販機(左から「仙台パン粉食堂」「東北うまいもの食堂」と他社自販機)

まず、地域商社部門の拡大に力を注いだ。もともと金久商店から営業譲渡を受けた14年当時、主な商圏は仙台を中心とした宮城県内で、地域商社部門の売上構成比も2~3%程度だった。首都圏をターゲットに販路を拡大するため、2018年9月には東京にオフィスを開設。さらにコロナをきっかけに、顧客のニーズに合わせた新商品開発を進めた結果、ジャパネット、はぴねすくらぶ、ベルーナ、楽天市場といった大手通販会社の商流を獲得することに成功した。全社売上高に占める構成比も21年1月期が35%、22年1月期は50%と急激に増え、地域商社部門の売上高も1億5000万円に達した。

これに加え、新たな事業の柱を築くため、仙台市チャレンジ補助金を活用してオリジナル自動販売機を1台購入し、市場調査やプロモーションを実施。コロナ禍でも成立する「非対面型ビジネス」として、22年春から2種類のオリジナル冷凍食品群を販売する自動販売機事業をスタートさせた。

その一つは「仙台パン粉食堂」とネーミングした自販機。とんかつ、ヒレカツ、エビフライ、かきフライ、牛たんカツなど、生パン粉を使用したオリジナル冷凍フライ商品を販売する。もう一つは「東北うまいもの食堂」と称し、たこ、牛たん、かき、ふかひれ、鯨など地域に関わる食材を使った商品群を販売する自販機。未利用魚や商品を製造する際に発生する副産物などを有効活用するSDGs(持続可能な開発目標)を意識した商品だ。

自販機で宮城県産の大粒かきフライも購入できる
自販機で宮城県産の大粒かきフライも購入できる

どの自販機も、東日本大震災規模の災害時には災害非常食として無償で商品を提供することになっている。第1号の自販機を3月30日に当社本社前に設置して以来、3カ月余で仙台市内に7台、東京都内と横浜市内に各1台の合計9台を設置した。

一方、当社が幹事会社で、私(遠藤社長)が代表理事を務める一般社団法人「食のみやぎ応援団」(2012年11月設立)の活動も強化している。応援団に参画している企業のマッチング支援や共同で商品企画を進めており、これまでに牛たんデミグラスソース煮込み缶詰、むすび丸おにぎり、宮城県産ボイルたこ、ふかひれ旨煮など、10以上の新商品を開発・販売した。

21年1月には宮城県内の食品関連中小企業21社が連携し、「食のみやぎ応援団SDGs宣言」を発信。東北だけでなく、全国62社の参画企業が連携し、食のみやぎ応援団SDGs新商品発表会を定期的に開催している。

これらの結果、コロナ禍直前の2020年1月期は売上高が1億4164万円、経常利益が393万円だったものが、コロナ禍後の21年1月期は売上高が2億4412万円、経常利益は1020万円と増収増益を果たした。22年1月期も売上高は2億4311万円、経常利益は1050万円と安定した収益を確保している。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

人気の厚切り牛たんデミグラスソース煮込み缶詰
人気の厚切り牛たんデミグラスソース煮込み缶詰

地域商社部門は現在、顧客との企画や商品設計を通して新商品開発を進めている。既存客への採用商品の拡充、新規顧客の獲得を目指す。通販商品の需要はその後も高まり、現在も新商品・新企画の提案を続けている。地域商社部門の年間売上高は3年後に3億円、5年後に6億円に増えるとみており、全社に占める売上比率も3年後は70%、5年後は80%に高まると考えている。

一方、自動販売機事業は経済産業省の事業再構築補助金に採択され、自販機部門を設立した。これを機に今年度は10台を設置する計画で、すでに北海道旭川市に2台、仙台市内に3台を設置することが決まっている。さらに首都圏を中心に、商業施設とタイアップして店舗内に設置する方向で動いている。

また新規事業として、当社の蓄積しているノウハウを活用し、市場にはあまり出回らない未利用魚を活用した新商品開発と販路獲得へ向けての展開を検討している。例えば未利用魚をフィッシュボールやフライにした商品を開発中だ。未利用資源を活用したBtoB(企業間)専用ECサイトの展開や、未利用資源を活用した機能性食品の原料供給・開発なども検討しており、新規需要の獲得や国内自給率の向上、フードロスの削減などに貢献したい。

第3回食のみやぎ応援団SDGs新商品発表会(4月20日)で発表された新商品「むすび丸おにぎり」
第3回食のみやぎ応援団SDGs新商品発表会(4月20日)で発表された新商品「むすび丸おにぎり」

その関連で、「食のみやぎ応援団」活動もさらに強化する。コロナ禍が続いたことで、以前より新商品開発に取り組む機会が増え、企業間連携が一層進んでいる。各社の強みを活かしたコラボレーション新商品をリリースし、実績に繋げていきたい。

またアフターコロナを見据え、21年11月にタイ・バンコクに拠点を設置した。今は友人の事務所を間借りしている状況だが、インドネシアに委託している商品もあり、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域をターゲットに仕入れや販売面で「地産外商」を目指した海外戦略を検討中だ。

このほか、オリジナル商品を受託生産するOEM部門の新設や、異業種連携の新ビジネスの展開、さらには事業承継を核としたパートナー企業の獲得なども計画している。これにより全社売上高で3年後に7億円、5年後には12億円を目指したいと考えている。

企業データ

企業名
株式会社かね久
Webサイト
設立
2014年2月10日
資本金
10,000,000円
従業員数
8人
代表者
遠藤伸太郎 氏
所在地
仙台市若林区卸町2丁目6-4
Tel
022-353-7697

同じテーマの記事