新規事業にチャレンジする後継者

荒廃農地と公共残土、土建業の力で2つの課題を一気に解決【株式会社マルキ建設(京都府京丹後市)堀貴紀氏】

2024年 7月 19日

マルキ建設の堀貴紀氏
マルキ建設の堀貴紀氏

1. 事業概要を教えてください

マルキ建設が手掛けたのり面工事。地域のインフラを支えている
マルキ建設が手掛けたのり面工事。地域のインフラを支えている

京都府京丹後市で総合建設業を中心に運送業や農業などの事業を展開している。事業の7~8割は公共工事で、ほとんどが地元・京都府や京丹後市が発注した道路や河川工事を手掛けている。

創業は1957年。祖父が「堀製瓦工業」という屋根瓦の製造販売や施工をする会社を創業した。新しいことにチャレンジするのが好きな祖父で、高度成長で地域の建設需要が伸びる中、1975年ごろから建設業を手がけるようになった。1985年にマルキ建設を設立。地元に根差した事業を展開している。最新の重機などを積極的に導入し、地元のインフラ整備を手掛けてきた。砂利の運搬などで大型のトラックを使っていて、1993年から運送業にも参入している。

2005年から新たな事業として始めた農業は、もともと保有していた農地に加え、リタイヤした農家から田んぼを購入したり、代わりに農作業を引き受けたりして農地を広げ、現在は約12ヘクタールの水田を管理している。持続可能な林業を後押しするため、丹後ECOサイクル事業部を設け、薪の販売も行っている。

2. どんな新規事業に取り組んでいますか

運送業や農業をてがけるマルキ建設。新規事業実現に向けた設備も整っている
運送業や農業をてがけるマルキ建設。新規事業実現に向けた設備も整っている

再生が難しいほど荒れ果てた荒廃農地の拡大と公共工事で発生する公共残土の処理という2つの社会課題を「田舎の土建屋」の力を使って一挙に解決するビジネスモデルを第4回アトツギ甲子園に提案し、最高賞の経済産業大臣賞を受賞させていただいた。

木が生い茂り森や林のようになってしまい、重機などを使って大規模な整備をしないと、農地として再生できないほど荒れ果ててしまった荒廃農地は、高齢化や担い手不足から農業からリタイヤする農家が増える中、全国的な課題となっている。例外なく、京丹後市でも深刻化している。一方、公共残土の問題は、仕事柄、非常に身近な問題だった。全国的に処分場の確保が難しくなっており、不法投棄の問題などに心を痛めていた。

そこで荒廃農地に公共残土を受け入れる施設を作り、有料で公共残土を引き受けるとともに公共残土から得た利益を活用して荒廃農地を農地に蘇らせる事業を考えた。山林の開発などで排出される公共残土は、安全性の高い良質なものが多い。例えば、高低差のある荒廃農地に残土を入れて平たんな田畑にする。大規模で効率的な農業も可能になる。再生した農地で作物を栽培し、加工・販売して地域の活性化に役立てる。

当社は、土木建設から農業にいたるまで豊富な設備とノウハウを持っている。自治体や地域のコミュニティーの協力を受けながら事業を軌道に乗せ、地域が抱える2つの社会課題の解決につなげる。社会課題の解決だけでなく、地域の雇用や経済活性化など地域を盛り上げることにもつながる。まずは、京丹後でこのビジネスモデルを実践し、同じ問題を抱える全国各地に広げていきたい。

3. 事業承継をどのように決心しましたか

農業にも取り組むマルキ建設。新規事業を発案するきっかけの一つとなった
農業にも取り組むマルキ建設。新規事業を発案するきっかけの一つとなった

当社が手掛ける事業の大半は地域に根差している。子供のころから、父たちが工事をした道路を通り、工事をしている姿を見てきた。父と出かけると、父が新しくなった道路や堤防などを指さして、「あそこはうちが工事をしたところ」と教えてくれた。地域のインフラを支えている会社であることをずっと誇りに感じていた。しかも手掛けた工事は地図に載る。「地図に残る仕事」であることにも魅力を感じていた。

祖父や父からは跡を継ぐことを求められたことはなく、むしろ自分の将来は自分で決めろ、というスタンスだった。だが、祖父が今の事業を始め、父がその跡を継いで仕事をしている姿をみて、4人きょうだいの長男として「俺がやらなきゃ、誰がやる」という漠然とした想いの中、家業を継ぐことを自然に、そして、当たり前のように考えていた。

2013年に大学を卒業し、まずは京都市内の大手総合建設会社に就職した。当社とはつながりはない建設会社で、そこで当社とは違う会社のしくみを学んだ。3年間、現場監督の仕事をして、3年後の2016年に家業に入った。前の会社の経験を活かしながら、他の社員たちと一緒に現場監督の仕事をしている。

実は、農業は祖父が父に経営を譲り、本業をリタイヤしてから始めた事業だった。田んぼで収穫した米を農協などに売って利益を得ているが、それ以外は野菜などを自家消費する分だけを生産していた。だが、その姿をみて「売り方が下手だな。もったいないな」と感じた。それが今回の新規事業に取り組むきっかけの一つになった。

4. 後継者の「魅力」や「やりがい」は何ですか

京丹後市にあるマルキ建設の社屋。創業時の事業である瓦屋根が立派だ
京丹後市にあるマルキ建設の社屋。創業時の事業である瓦屋根が立派だ

自分自身は「地域に根差す」ことに価値を見出せるタイプ。いつも「自分たちの世代が京丹後を支えなあかん」という思いを持っているが、それは、自分が京丹後の土建屋の後継者だからこそ感じられることだと思っている。地域に根差すことで、地域のつながりを得ることができる。それを「鎖」ととらえる人もいるだろうが、「アドバンテージ」ととらえている。「アドバンテージ」にできているかどうかというと、そこまでは言えないところがあるが、これから「強み」にしていきたい。アトツギ甲子園で新規事業を発表する機会を得てから、地元の30代の若手経営者が集まる勉強会などに参加している。彼らとの交流は大きな刺激になっており、大きな財産だと感じている。

小さい会社ならではのことだと思うが、後継者は地域や会社から逃れられない「宿命」を持っている。「魅力」「やりがい」ということ以上に重い責任も生まれる。会社の有形無形の資源・財産を生かしながら、自分や会社ができること、やらなければいけないことをやる。そのうえで、これからやっていきたいことを実現する。会社の理解があれば、新しいことにチャレンジできる点は、何もないところからスタートするよりも大きなメリットがある。

5. 今後の展望を聞かせてください

第4回アトツギ甲子園の近畿ブロックを勝ち抜いた堀氏(前列右から3人目)
第4回アトツギ甲子園の近畿ブロックを勝ち抜いた堀氏(前列右から3人目)

アトツギ甲子園では、再生した荒廃農地で生産する商品として、「稲作→製粉→米粉の販売」という戦略を立てた。製粉工場の建設など具体的な事業の計画を検討すると、莫大な投資が必要であることが分かってきた。どんな作物を栽培するかはいったん白紙に戻し、作物の選定や新たなビジネスパートナーシップの構築に向けてテスト栽培や異業種との交流を深めている。

残土の受け入れ施設については、荒廃農地の購入が完了しており、申請書類や地元との調整をしている。インフラが絡み、規模の大きな事業で、おそらく実際に作物を生産するステージまでで進むには5~10年のスパンがかかると考えている。事業の進行具合が見えにくいところがあるが、まずは新規事業を目に見える形まで持っていけるよう頑張りたい。

新規事業だけではなく、既存事業もきっちり伸ばしていく必要があり、広い視野を持って事業を展開・成長させていきたい。地域を盛り上げていくスキームを実践し、全国の同じような業務形態をとる会社や似たような地域のロールモデルとなることで、地元が盛り上がり、日本全体へ波が伝わっていく。そんな事ができる会社にしていきたい。

企業データ

企業名
株式会社マルキ建設
Webサイト
設立
1985年 3月
資本金
3000万円
従業員数
36人
代表者
堀紀博 氏
所在地
京都府京丹後市大宮町周枳1868
Tel
0772-64-2377