いよいよ本番、働き方改革

全員活躍経営を進める「三州製菓株式会社」

2020年 3月 25日

本社ビル1階は直販店舗とカフェを併設した「エス・テラス」
本社ビル1階は直販店舗とカフェを併設した「エス・テラス」

東武線春日部駅からバスで約20分。豊野工業団地の一角に高級米菓を製造販売する三州製菓の本社・第二工場がある。2014年に新築した社屋には女性の姿が目立つ。従業員221人のうち、正社員にパート、アルバイトを含めると女性比率は75%超。女性管理職は31%で、役員は半数を占める。国の女性登用の目標は2020年に30%だが、同社の目標はそれを上回る35%。達成は目前だ。

松下幸之助とドラッカーの教えから

インタビューに応じる斉之平社長
インタビューに応じる斉之平社長

社長は斉之平(さいのひら)伸一氏(71歳)。一橋大を卒業し、松下電機産業(現パナソニック)に入社。当時会長だった松下幸之助氏による「人を活かす経営」の薫陶を受ける。経営学者ピーター・ドラッカー氏にも私淑し「ふたりとも同じことを言っている。優れた会社とは従業員全員が活躍する会社だ」と気がついた。

1976年、28歳で父が起こした三州製菓に入社。1988年40歳で社長に就任した。当時の正社員は男性ばかりだったが、米菓の製造販売はもともと女性従業員の比率が高い。まず「男性ばかりでなく女性の管理職を増やしたい」と考えた。

製造現場の幹部は男性ばかりだったから「女性に管理職はできない」と皆、反発した。そこで斉之平氏は「男性の管理職をひとり昇進させるときは女性もひとり昇進させる。そうでなければ昇進はない」と宣言。「管理職の資質を持つ女性はなかなかいない」と言われ、それなら育成しなければとロールモデルづくりに乗り出した。

女性が働きやすい環境を整備

工場内の製品検品作業
工場内の製品検品作業

白羽の矢が立ったのは板垣千恵子監査役(62歳)だ。食品会社で寿退社し、子育てが一段落した25年ほど前に入社していた。公益財団法人21世紀職業財団から講師を招き、研修を受けてもらい、新設した男女共同参画委員会の委員長に抜擢した。「男女共同参画をどうやったら社内に広められるか、社員に周知できるかから教えていただいた」と板垣さん。

女性が働きやすい環境を整備する社内改革が始まった。子育て中の女性は子供を預けて無理なく働ける仕事を探している。自宅近くに職場があればいいが、フルタイム勤務は難しい。出産、育児、介護などライフステージごとに午前だけ、午後だけと勤務時間帯を選べる「短時間正社員制度」を導入した。子供が突然体調を崩して勤務できなくなった仲間をカバーできるよう社員全員が担当業務以外に二つの業務を習得し、急な休暇取得に対応する「1人3役制度」もある。社内の会議では女性が意見を出しやすいよう「男性発言禁止タイム」も設けた。

商品企画室のメンバーを女性中心にしたのも取り組みのひとつだ。製造した米菓を店頭で購入するのはほとんどが女性だし、女性は男性よりものごとを柔軟に考えられる。小菅恵美マネージャー(43歳)が、パスタ生地を揚げて味付けしたスナック菓子「揚げパスタ」のアイデアを出した。この「パスタスナック」は試行錯誤を重ね、売り上げの約1割を占める主力商品に成長。最初のうち「参画って何だ」と戸惑っていた男性従業員も次第に何も言わなくなっていった。

ポイントは社長の率先垂範

「会社手帳」には社の方針が明記されている
「会社手帳」には社の方針が明記されている

同社の活躍推進支援策は女性だけが対象ではない。社内には男女共同参画委員会のほかにも部署を横断した委員会が13ある。「1人1研究委員会」は、業務にかかわることでも個人的に興味のあることでもなんでも自由に楽しく発想してアイデア出し競争を進めているし、「シスター&ブラザー委員会」は新人が早く会社になじめるよう活動している。

全員活躍経営のポイントは社長の率先垂範だ。「うちは性別、年齢、学歴、国籍、障害の有無にかかわらず実力のある人が昇進する実力主義。人任せにしていたらうまくいかない。社長がリーダーシップを取り、目標を明確化し、推進するための組織をつくること」と斉之平氏。

それを「見える化」したのが、同社の「会社手帳」だ。経営をガラス張りにするため、全従業員に配布しているシステム手帳型の事業計画書で、企業理念、財務数値、人事考課、年間スケジュールが記され、社員個人の長所や短所、有休休暇取得計画や目標を書き込む欄もある。1ページ目は社長の手書きメッセージだ。「いつもありがとう」「感謝しています」など全従業員ひとりひとりに呼び掛けている。「指にマメができるが、毎年の恒例」と笑う。

事業は堅調だ。社長になってから31年間赤字なし。リーマンショックの不況時も増収増益だった。従業員40人前後だった小さな米菓メーカーは、いま子会社を含めた売上高が約30憶円。経済産業省の「ホワイト企業—女性が本当に安心して働ける会社」「APEC女性活躍推進企業50選」(日本企業は5社)に選出され、斉之平氏は男女共同参画社会づくり功労者内閣総理大臣表彰、埼玉県の渋沢栄一賞など各賞を受賞している。

次期社長のチャンスは平等

ワークショップを開催し地元客との交流も盛んだ
ワークショップを開催し地元客との交流も盛んだ

これから最優先でやりたいのは、人手不足に対応するための生産性向上投資だ。すでに工場にヒト型ロボットを導入済みだし、製品の画像を撮って不良品を認識するシステムもできている。「次は人工知能(AI)を使って不良品の画像認識精度を上げてきたい」そうだ。

3代目の社長候補として斉之平氏の甥と姪も役員で入社しているが、「社員も社長になれると言っている。同族経営で行くと、社員にどうせがんばっても社長になれないというあきらめが出てきて当社の全員活躍経営に反してしまう。チャンスはみな同じ」と話している。

企業データ

企業名
三州製菓株式会社
Webサイト
設立
1950年7月1日
資本金
8600万円
従業員数
221人
代表者
斉之平 伸一 氏
所在地
埼玉県春日部市銚子口979番地
Tel
048(735)1151
事業内容
高級米菓およびパスタスナックの製造販売

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