いよいよ本番、働き方改革

ライフステージに応じ働き方を選択「アルス株式会社」

2020年 3月 11日

ワークライフバランス企業の認定証や表彰状を背にする深井社長
ワークライフバランス企業の認定証や表彰状を背にする深井社長

長時間労働というイメージが強いIT業界にあって、創業した32年前から「1カ月の夏休みと2週間の冬休みがとれる会社」という日本の企業文化ではあり得ない目標を掲げる会社がある。さまざまな休暇制度や勤務形態を取り入れる一方、設立以来一度も赤字決算を出したことのないアルス株式会社(東京都品川区)だ。仕事と家庭の両立を目指し、出産や育児、介護などを理由とした離職を防いでおり、2012年と16年には東京都からワークライフバランス企業として認定された。

法を上回る水準と独自制度導入

実際に育児休業中の社員
実際に育児休業中の社員

アルスは日本IBMのビジネス・パートナーとして、人事・給与管理システムや社内の申請・承認といったワークフローに特化したバッケージソフトを開発する。大手・中堅企業を中心に約200社で採用され、高い評価を得ている。

多彩な休暇制度を導入したきっかけは、創業者で前社長の児玉民行氏が日本IBM時代に英国で勤務した時に遡る。赴任当初、不動産会社で家を探すため年次有給休暇を申請した。すると上司や同僚から「なぜ貴重な有給休暇をそんなことに使うのか」と非難された。「休暇はしっかりとってリフレッシュするもの」という欧州の文化に触れ、「しっかりと休める働きやすい会社をつくりたい」と考えるようになったという。

1988年に日本IBMを退社してアルスを設立。まず法律で定める20日を10日上回る30日の年次有給休暇(入社4年以降)を付与することにし、入社1年目は15日、2年目は20日、3年目は25日と、いずれも法律で定めた水準を上回る有給休暇日数を設定した。

法律で子どもが最長2歳まで取得できる「育児休業」は、5歳まで延長。小学校就学前・年5日(2人で10日)まで取れる「子の看護休暇」も、中学校就学前・年20日まで取得できるようにした。「介護休業」も法で定められた日数の約2倍に当たる通算180日まで取得できるなど、いずれも法を上回る好条件に設定している。

また妊娠初期の吐き気やめまいで就業困難な女性が年20日まで利用できる「つわり休暇」や、子どもが中学校就学前まで1日の労働時間を5~6時間に短縮できる「育児短時間勤務」、子どもの学校行事や地域の会合に参加するために年3回まで取得できる「ファミリーサポート休暇」など、独自の特別休暇も用意した。

成果に応じて賞与、5種類の働き方

オフィスは自由に座れるフリーアドレス制を採用
オフィスは自由に座れるフリーアドレス制を採用

創業メンバーの1人で、2018年3月に児玉氏の後を引き継いだ深井淳社長は「特別休暇はすべて社員の要望があって初めて導入した」と振り返る。創業当初は社員全員が20~30歳代で独身者がほとんど。しかし社歴を重ねるにつれて、社員が結婚、出産、育児、介護などさまざまなライフステージに直面し、その都度、制度を設計して運用していった。

例えば、勤続5年で半年間、同10年で1年間という長期休暇が取得できる「リフレッシュ休暇」。ある社員がワーキングホリデー制度を使って豪州で働くため「会社を辞めたい」と言ってきたことが導入のきっかけだ。休暇中は無給だが、これまでに4人が利用し、米国に語学留学した人や趣味の靴作りに没頭した人もいたという。

社員に対してさまざまな休暇制度を用意する一方で、働く時は一生懸命働くことを要求する。深井社長は「基本的に勤務時間でお金は支払わない。できるだけ残業をせず短時間で成果物を出しましょうというのがコンセプト」と語る。そのベースとして仕事の成果を明確化する「個人売上目標制度」を取り入れた。

具体的には、賞与を除いた自分の年収の1.8倍が売り上げ目標だ。目標を超えれば、超えた金額の30%が賞与として支給される。「昔は10カ月分の賞与を稼いだ猛者もいたが、今は多い人で5~6カ月、少ない人で1.5カ月分」という。新入社員については、入社1年目が1.3倍、2年目は約1.5倍と売り上げ目標を低くしている。

社員はシステムエンジニア(SE)が大半で、受注した仕事をタスクごとに作業分担する。年間の売り上げ目標や休暇取得計画は面談で決め、プロジェクトリーダーやマネージャーが社員個々のスキルや休暇予定を勘案して仕事を割り振る。個人が自分の生活設計に基づき、仕事と休暇の予定を立てる自立したビジネスマンになってもらいたいからだ。

この方針を徹底するため、5種類の中から自分に合った「働き方」を選べる制度も用意。Aは「仕事を思いっきりしたい働き方」、Bは残業が月20~30時間程度の「普通の働き方」、Cは「残業ゼロ」、Dは「勤務日を選べる働き方」、Eは「個人事業主のような出来高制」といった具合だ。「創業当初はAばかりだったが、今はBが最も多い」と深井社長は話す。

新卒採用や人材の定着化に効果

喫茶店のような雰囲気のコーナーも
喫茶店のような雰囲気のコーナーも

短時間で仕事に集中し、成果を上げるための仕掛けも整備した。ノートパソコンとVPN(仮想専用線)を導入し、勤務時間の一部を社外で勤務できる「モバイル勤務」や「在宅勤務」を実施。上司が時間ではなく成果物を管理・評価するようにした上で「フレックスタイム」を取り入れた。不動産会社が新宿、新橋、品川などに展開するシェアオフィスを自社の「サテライトオフィス」として契約し、社外で仕事をする環境も整えた。

本社オフィスには図書館や喫茶店のように大テーブルや多彩なデスク、チェア、ソファーなどを配置。どこに座って仕事をしてもかまわない「フリーアドレス制」を採用する。プロジェクトメンバー同士が近くで効率的に仕事を進めたり、新入社員に対して先輩社員がアドバイスしたりすることが容易になる。

さらに「遊ぶ時はとことん遊ぶ」をキーワードに、創業当時から毎年11月に海外への社員旅行(4泊5日)を行う。2017年はスペイン・マドリード、18年はインドネシア・バリ島、19年は米国ロサンゼンルスに行った。家庭の事情で4泊が難しい社員も増え、数年前からは3月に国内の1泊温泉旅行も実施している。

2019年11月は米ロサンゼルスに社員旅行した
2019年11月は米ロサンゼルスに社員旅行した

さまざまな休暇・勤務制度を導入した効果の一つとして、新卒採用は好調だ。同業他社のトップが「会社説明会をやってもぜんぜん人がこない」と嘆くのに対し、アルスはここ数年、70~80人程度の学生が参加し、この中から5人程度を採用している。「採用のことならアルスに聞けと同業他社の人事担当者が秘訣を聞きに来る」という。また優秀な人材の定着化にも寄与している。

22年3月期を最終年度とした中期3か年計画では、1.営業利益1億円(19年2月期は8000万円、19年3月期を1カ月決算とし3月期に移行)2.社員の平均給与10%増—の2つを数値目標に掲げる。その中期計画に入る4月には給与体系を大幅に変更する予定で、前倒しで給与10%増はほぼ達成する見通しだ。「仕事も休みもとことん楽しむ」ことを社員に徹底させたことが、結果的に好業績につながっているといえそうだ。

企業データ

企業名
アルス株式会社
Webサイト
設立
1988年3月
資本金
4000万円
従業員数
57人(うち正社員47人)
代表者
深井 淳 氏
所在地
東京都品川区西五反田8-1-3 PMO五反田9F
Tel
03-6417-9995
事業内容
コンピューターソフトウェアの開発・カスタマイズ・導入

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