農業ビジネスに挑む(事例)

「シュシュ」地産地消が基盤の6次産業化で地域活性化に邁進する

  • 他との差別化を図る観光農園を演出
  • 農業塾でオリジナル商品を開発

衰退が懸念される地域をなんとかしたい。耕作放棄地が増え若者が遠のく現状に歯止めをかけたい。そんな思いから地域の活性化に尽力する観光農園がある。長崎県大村市の「おおむら夢ファーム シュシュ」だ。

山の斜面と海に囲まれた長崎県大村市福重地区は、傾斜面に農地が点在するゆえ農作業が厳しく、また高齢化も相まって年々耕作放棄地が増え、一方で後継者たる若者の流出も止まらなかった。そして元来は観光農地の同地区だが、地元農産物の収穫期である8、9月以外はどうしても来訪客の数が少なくなってしまう。

このままでは地域の崩壊につながりかねないと危惧した農業生産者の山口成美さんは、1996(平成8)年に8人の同業者で「福重地区農業農村活性化推進協議会」を発足させ、地域を活性化させるために年間を通して集客を図れる施設として農産物直売所「「新鮮組」を開設した。直売所はビニールハウス製の簡素なものだったが、生産者は自ら販売価格を決められ、消費者は新鮮な農産物が買えることからスタート時から好評を得た。

リピーターを呼び込む工夫と仕掛け

ただ、直売所だけではやがて飽きられてしまうと考えた山口さんは、リピーターの確保・増加と他の直売所との差別化が必要と考えた。そこでまず直売所にリピーターを呼び込むため、POSシステムを導入して1時間ごとに売上げ状況を生産者に伝え、少なくなった在庫を適宜補充してもらうことで、常時、新鮮な農産物を豊富に陳列させるシステムを築いた。

また、差別化を図るため1997年に地域特産の農産物を使ったジェラートの加工・販売施設「手作りジェラート シュシュ」をオープンさせた。トマト、さつま芋、いちごなど地元の旬の農産物によるジェラートは、新鮮で健康にいいと女性と子どもたちの心をとらえた。

さらに、山口さんは地域活性化の拠点を確固とするため、1998年に6次産業の確立と農業後継者の育成を目的に有限会社かりんとう(2003年に現在の有限会社シュシュに社名変更)を設立し、2000年には地域農業交流拠点施設として「おおむら夢ファーム シュシュ」を開設した。

シュシュは同年にレストラン「ぶどう畑のレストラン」とパン・アイス工房、体験教室、収穫体験施設を新設し、さらに2005年に洋菓子工房の新設と直売所の増設、2009年に農産加工所の新設と順次「おおむら夢ファーム シュシュ」に施設を拡張していった。

現在、シュシュには年間49万人が訪れ、そのうち1万人の来場者が体験教室に参加してウインナーやミルクパン、いちご大福、シュークリームづくりを体験している。

創業の翌年から始めた人気の「手作りジェラート シュシュ」

地元に根付いた6次産業化

シュシュのビジネスモデルの特徴は地産地消を基盤にした6次産業化にある。その目的は、加工、販売を手がけて新鮮で安心な農産物を地元でもっと食べてもらうことで地域の活性化につなげる。たとえばオープン時より人気のジェラートは、地元の牛乳、卵のみならず、規格外の農産物も原料として有効利用することで消費の拡大を促す。また、レストランで人気の旬の食材を用いたランチバイキングや50種類以上の料理にも地元の農産物を大量に用いている。さらに、冬季でも地元産牛乳、卵の消費を促そうと開発した「ケッコーイケてるシュシュプリン」は、「長崎県特産品新作展・最優秀賞」など各種表彰を受賞したことも相まって、商品の普及・拡大により当初の目的を達成している。

このように地元に根付いた6次産業化によって地域活性化を図るシュシュは、生産・加工・販売のみならず、農業の楽しさを伝えることにも力を注ぐ。2007年に開校した農業塾がそれで、毎月1回、農業体験を実施している。

「最初は定年後の人たちに農とのかかわりを提供し、農業のファンクラブをつくりたいとの思いから農業塾を始めました」(山口さん)

農業塾は1年間を1期として春と秋に塾生を募る。1期で15名、年間で30名の塾生が農産物の栽培、農機具の使い方、さらにそば打ち、炭焼きなど多岐にわたった農作業を体験する。

農業のファンクラブを標榜した農業塾は、いまや定年退職者のみならず18歳の高校生から80歳台の高齢者までと幅広い年齢層の人たちが農業を楽しむ場となっている。

さらに農業塾は楽しむだけでなく新しい地元産品を生み出すという効果も発揮している。たとえば2008年に直売所で発売したオリジナル焼酎「よっこらしょどっこいしょ」と「団塊の華」は、農業塾の塾生たちと地域の農業後継者とが共同で荒廃農地を再生して芋を収穫し、それを原料に開発したオリジナルの芋焼酎だ。また、オリジナル焼酎につづき、塾生の発案から生産した珍しいジャンボニンニクを原料の一部にしたオリジナルの焼肉のタレも開発・販売している。

農業のファンクラブづくりを標榜して始まった農業塾

農業の後継者対策を超えた取組み

農業を介して地域の活性化に尽力するシュシュは、ちょっとユニークな取組みにも積極的だ。それは婚活-。

「少子化・晩婚化は国を滅ぼしますから(笑)」(山口さん)との意識から、シュシュは地元・長崎県とも協力して毎月1回婚活を実施している。1回の婚活に15名ずつの男女が参加し、そのうち年間で約26組のカップルが誕生するという。

晩婚化は国を滅ぼすと微笑みながらも危惧を口にする山口さんは、シュシュで仕掛ける婚活を農業の後継者対策だけのものとは捉えていない。地元はもとより長崎県内の地域活性につながる一助になればとの広い視野で婚活を実施している。

「地域を活性化させるという大目標に対して『おおむら夢ファームシュシュ』はまだ道半ばですが、今後も地域活性化のために汗を流していきます」

シュシュの年間来場者49万人は地元・大村市の人口の5倍以上を数えるが、この大量の訪問客に地域内のさまざまな施設にさらに足を運んでもらう。その仕掛けづくりのために山口さんは今日も東奔西走する。

企業データ

企業名
有限会社シュシュ
Webサイト
代表者
山口成美
所在地
長崎県大村市弥勒寺町486