経営課題別に見る 中小企業グッドカンパニー事例集

「株式会社 鎌倉製作所」老舗ニッチ企業の経営革新を斬る

鎌倉製作所(東京都港区)は、産業用大型換気装置、涼風装置において圧倒的なシェアを誇る、老舗ニッチトップ企業である。会計基準の変化や環境意識の高まりを好機と捉え、顧客ニーズに合わせて新商品やサービスを開発。ビジネスモデルを多様化することでバブル崩壊、リーマンショックなどの構造不況を乗り越えてきた。老舗ニッチトップ企業がどのように経営革新を行い、需要を拡大してきたのか、その核心に迫る。

この記事のポイント

  1. 製品の使い方に関する情報提供やサービスを充実させ、需要を喚起
  2. 『レンタル』という新たな収益モデルで、新規顧客を獲得
  3. 顧客ニーズを収集して、最適な商品ラインナップを構築
  4. 企業理念を貫いた継続的な商品開発により、需要を創造
近藤正営業部長(大型換気装置、涼風装置事業)、山坂昇取締役COOLEX事業部長、高木浩平特需課特殊案件・レンタル事業責任者。中央は酷暑環境対策製品のCOOLEX(身体冷却システム)

顧客目線で、顧客が顧客を呼ぶ流れを作る

鎌倉製作所の創業は大型換気装置事業である。先代社長が渡米した際に、工場の屋根にある換気装置を見て「これは日本でも普及する」と考え、日本で初めて商品化した。大型換気装置は、効率的に換気するために、熱がこもる建物の天井に設置して使用する。その当時は建物の天井に重量物を取り付けることはかなり珍しかった。そのため、商品を設置するには建屋の天井部の強度や固定する柱の構造、効率的に換気するための配置など、考慮しなくてはならない点が多く、建築関係者にとって課題が多かった。

そこで、創業当初から建築設計事務所向けに、製品図面、設置場所の条件、設置・加工方法を指南する「換気の手引書」を作って提供してきた。「現在はWEBサイトで業種・製品別に、多くの導入事例を紹介しています。加えて、『マンガで分かる換気の基礎知識』といった販促資料の提供や、セミナーを通して換気の重要性を発信しています」と語る近藤正営業部長。「これらの取組みが鎌倉製作所のファンを増やし、口コミで広がることで『顧客が顧客を呼ぶ流れ』を生み、需要を喚起できました。」

大型換気装置

次に誕生したのが、水の気化放熱現象を応用した涼風装置事業である。暑い外気が装置内部の冷却エレメントを通過すると、水の気化熱によって回りの空気の熱が奪われ、涼風を作ることができる。大規模工場など広い空間では、エアコンを使って冷却するよりも、涼風装置を使って涼しい空気を作り、換気装置で暑い空気を外へ逃がして風を対流させる方が効率的であり、消費電力も少なく経済的だ。

一方で難しさもある。涼風装置の冷却効果を十分に発揮するためには、実際の設置環境(温湿度環境、什器のレイアウトなど)を事前に調査し、涼風装置と換気装置の組み合わせや配置を考える必要がある。また、水を使用することから定期メンテナンスも必須だ。「それまで手離れのよい製品を売ってきただけに、顧客に合わせた提案営業のノウハウを蓄積し、全国保守サービス体制を構築するにはかなりの難しさがありました。ゼロからのスタートであり、製品が売れて、利益が出るまでには相当苦労しました」(近藤さん)。

商品自体の性能向上やコストダウンといった「ものづくり」の追求だけではなく、顧客に選ばれるための情報提供やサービス体制の構築といった「補完材」を整備することで、鎌倉製作所は需要を創造してきたのである。

涼風装置の気化放熱

涼風装置(クールルーフファン)の換気装置(ルーフファン)による冷却メカニズム
エアコンと涼風装置(クールルーフファン)のランニングコスト比較

時代とともに収益モデルを変革、需要拡大と最適な品揃えを実現

近年の「モノからコトへ」の流れを捉えて始めたのが涼風装置レンタル事業である。「資産を増やさず、オフバランスで運用したい」との顧客ニーズに応えて事業化した(IFRS第16号「リース」の新基準では、リースはすべてオンバランスに変更)。しかし、事業化は一筋縄ではいかなかった。レンタル事業では製品の運搬が必要となり、据置型の装置を可搬型に変える必要があった。「大型の涼風装置に台車をつけて可搬式、かつ機能を現場に最適化させるのは非常に難しく、品質確保(耐久性、可搬性やラベリングなどの法対応含む安全性の確保)にはかなり苦労しました」と特需課特殊案件・レンタル事業責任者の高木浩平さんは当時を振り返る。

レンタル事業の効果は、新規顧客の獲得に留まらない。「従来の代理店を通じた販売に対し、顧客との直接契約となるレンタルは顧客と直接接する場面が多くなり、ニーズの収集機会が増えました」(高木さん)。さらに、テストマーケティングとしての効果も発揮した。「顧客ニーズを受けて製品改良し、まずはレンタルで提供。評判がよいものはレンタル台数の増加や、製品販売に繋げています」と高木さんは語る。こうして顧客の声を商品開発に活かし、PDCAサイクルを回して、最適な商品ラインナップを構築している。

飛び地の商品開発への挑戦!より多くの人に快適な作業空間環境を届ける

さらに、鉄鋼業界、ガラス加工業や食品加工業など酷暑環境で働く人に「快適な作業環境を」との想いから、COOLEX(身体冷却システム)事業が生まれた。水冷式のウェアを着用することで、既販品のファン付作業服よりも効果的に作業者の身体を冷やすことができる。かなり冷たい水を流すことができるため、外部環境の温度に囚われずに、身体を直接強く冷却できることが最大の特徴だ。作業者の周囲環境を冷却する必要がなく省エネであり、経済的メリットも大きい。「新しい技術が必要となり、飛び地的な商品開発となったが、企業理念のもと、困っている人の作業環境を少しでも改善したいとの想いで取り組んできました」と山坂昇取締役COOLEX事業部長は語る。

また、既存事業とのシナジーもある。「これまでは人の作業空間を冷却してきましたが、どうしても涼風が届かず、冷却が十分できないこともありました。そのような場合にCOOLEXを補完的に用いれば、すべての作業者に快適な作業環境を届けることができます」(山坂さん)。現在では多くの企業から引き合いがあり、その挑戦は結実しつつある。

COOLEXのシステム

現在、鎌倉製作所はアジア各国への販路開拓に取り組んでいる。その中でタイ、ベトナム、シンガポールに関しては、「新輸出大国コンソーシアム」の海外進出支援サービスを活用し、専門家からアドバイスを受けている。「温暖化は世界的な課題です。省エネで冷却効果の高い当社の製品を、世界中に広めたい」と意気込む山坂さん。さらに、「一般的な普及価格帯で提供できるようにして、企業だけでなく個人が普段の生活でも身に着けられるようにすることで、より多くの人に快適な作業環境を届けたい」と山坂さんの夢は膨らむ。

鎌倉製作所が、時代や顧客ニーズの変化を的確に捉え商品やサービスを開発してきたからこそ、幾たびの不況を乗り越え、成長し続けることができた。「作業空間環境を快適にする」という企業理念のもと、柔軟なビジネスモデルによる事業の多角化は今後も鎌倉製作所の成長を牽引していくだろう。

熱い想いを語る山坂取締役

企業データ

企業名
株式会社 鎌倉製作所
Webサイト
設立
1951年6月14日
資本金
1億3000万円
従業員数
94名(2018年4月現在)
代表者
堀江 威史
所在地
東京都港区北青山2-7-11

中小企業診断士からのコメント

老舗企業は過去の成功に捉われ、創業期の挑戦を忘れてしまいがちだ。改善ベースの漸次的学習に留まり、次の成長に向けた武器「見えない資産」を蓄積できない。内部の都合が優先される結果、組織が弱体化してしまう。 しかし、鎌倉製作所は違う。常に顧客視点でゼロベースの商品開発を行い、やり切ることで革新的学習を促し、見えない資産を蓄積してきた。その挑戦をドライブしたのは、顧客の軸で描いた企業理念、組織の覚悟である。

鎌倉製作所の経営は失敗と成功の繰り返しで、一見すると不安定に見える。しかし不安定と安定を繰り返す、ジグザグと揺れ動く中にこそ、実は経営の成長と安定のサイクルがあることを、本事例は教えてくれる。

田代 順一

関連施策情報

【概要】

海外展開を図る中堅・中小企業等に対して、専門家が寄り添い、情報収集、計画策定から販路開拓に至るまで、様々な段階に応じて、各支援機関が連携して総合的な支援を提供します。

【支援内容等】

JETRO、中小機構、NEDO、金融機関などが参加する新輸出大国コンソーシアムにおいて、海外展開を図る中堅・中小企業等に対して総合的な支援を行います。

  1. 海外ビジネスに精通した専門家をJETROに配置します。これらの専門家が個々の企業の担当となり、海外事業計画の策定、支援機関の連携の確保、現地での商談や海外店舗の立ち上げなどのサポートを行います。
  2. 新輸出大国コンソーシアムの支援を希望する企業には、新輸出大国コンソーシアムの会員証を発行します。その会員証の提示により、全ての機関が連携して円滑な支援を行います。

【対象者・要件】

海外展開に取り組む中堅・中小企業等。