SDGs達成に向けて
廃棄繊維のリサイクル促進に向けて色で素材を循環【株式会社colourloop(京都府京都市)】
2025年 3月 17日

日本国内では衣類など年間200万tもの繊維が廃棄されている一方で、リサイクル率はきわめて低い。こうした社会課題を解決しようと、京都工芸繊維大学の大学発ベンチャーである株式会社colourloop(カラーループ)は、「色」をキーワードにして廃棄繊維を魅力ある素材に生まれ変わらせる取り組みを進めている。4月開幕の大阪・関西万博では2社とのコラボレーションで廃棄繊維から作ったベンチを提供する。博士号を有するCEOの内丸もと子氏は「廃棄繊維からこんな面白いものができることを、万博会場を訪れる人たちに知ってもらいたい」と話している。
京都工芸繊維大学で「カラーリサイクルシステム」確立

内丸氏は京都女子大学を卒業後、菓子等のパッケージをデザインする仕事を経て、繊維や布をデザインするテキスタイルデザイナーに。イギリスで働きながら大学でテキスタイルデザインを本格的に学び、帰国後は再び京都へ戻って仕事を続けた。しかし、流行のサイクルが短いアパレル業界では売れ残りなど大量の衣類が次々と廃棄されている。アルミ缶やペットボトルなどと異なり、繊維は様々な素材が混紡・混織されていることがネックとなって廃棄繊維のリサイクル率は26%程度にとどまっている。「せっかくデザインしても、ごみを増やしているようなもの。作るだけではダメだ」という葛藤に苦しむようになった。
そんな折、繊維リサイクル研究の第一人者である京都工芸繊維大学の木村照夫教授(現在は同大学名誉教授、カラーループ顧問)のことを知り、2011年に同大学の大学院に入り、木村氏に師事。新たなリサイクルシステムの研究を進めていくなかで内丸氏が着目したのは「色」だった。廃棄繊維は主に工場のウエス(機械手入れ用の雑巾)や反毛など産業用資材にリサイクルされており、しかも雑多な繊維を無作為に処理しているため色合いは埃のような暗灰色となる。「最初に人の感性に訴えるのは色。埃のような微妙な色では消費者はワクワクしない。消費者にとって魅力的な素材、商品を作らないとリサイクルは進まない」。内丸氏は、繊維を色で分別するしかないと考えた。
廃棄繊維の山を想定して、ざっくり分別していやな色にならない法則を見出そうと官能検査を実施。色の組み合わせや比率などの数値化に成功し、色をベースにした「カラーリサイクルシステム」を確立した。実際の製造現場で多少の作業ミスが発生することを織り込んで、「異なる色の繊維が一定程度混ざってもいやな色にならないよう数値には幅を持たせている」(内丸氏)。
社名に思いを込め大学発ベンチャーを起業

2016年に博士号を取得した内丸氏は、2019年になって大学発ベンチャーとして起業する。「木村先生のもと私たちが確立したカラーリサイクルシステムの社会実装のため、方向性を示して形にしていきたい」(内丸氏)との思いからだ。社名の表記を「colour」とイギリスの綴りにしているのには、内丸氏が渡英の経験を持つことに加え、もうひとつ意味がある。「“our(私たちの)”という単語を入れることで、カラーリサイクルシステムがみんなで使えるものであり、廃棄繊維という私たち共通の課題に対し、取り組んでいこうという思いを込めている」と内丸氏は話す。
起業して間もなく、内丸氏は、近畿経済産業局などが運営する女性起業家応援プロジェクト「LED関西」に応募し、2020年1月開催の発表会にファイナリストとして登壇した。さらに東京都の女性ベンチャー成長促進事業「APT Women」の第5期生に採択されたのに続き、2021年には京都府主催の京都女性起業家賞で特別賞を獲得した。かつて内丸氏が葛藤を覚えた「つくる責任 つかう責任」を目標のひとつに掲げるSDGsが注目されるなか、色をベースにして素材を循環させるという目新しいリサイクル方法は各方面で高い評価を得た。
ベンチにアップサイクルして万博会場へ提供

そして2023年3月、大阪・関西万博の「Co-Design Challenge」に選定された。万博が目指す未来社会の実現に向けて現在の社会課題を解決しようという企業の製品を会場に設置するもので、内丸氏は廃棄繊維から製造するベンチで応募した。「“ダメ元”で申し込んだ。同じベンチで採択された企業には大手が多く、私たちのような小さく実績もない会社が選ばれて本当にうれしかった」と振り返る。
ベンチ製造に際しては、廃棄衣料をリサイクルしたボード「TEXLAM(テクスラム)」を素材とし、木村氏を通じて以前からつながりのあったナカノ(横浜市)、アボード(東京都世田谷区)の2社と協力する。このうちナカノは故繊維の回収やリサイクル製品の製造などを手掛け、アボードは家具・プロダクトのデザイン・企画・製造などを行っている。
ベンチは5脚提供される予定で、色は青が3脚、緑が2脚。「万博終了後には、ベンチが別の場所に移されることを念頭に、インテリア空間に使いやすい色として2色を選んだ」と内丸氏。5脚分のテクスラムを製造するのに大量の廃棄衣料が使用されることになり、仮にすべてTシャツ(100g/1着として換算)でリサイクルしたとすれば3000着に相当するという。「廃棄衣料からこんな面白いものができる。破れたり毛玉ができたりなど状態の悪いものを含め、付加価値の高い製品にアップサイクルできる。そういった実例をベンチという形で提示し、万博会場を訪れる多くの人たちに知ってもらいたい」と内丸氏は話す。
「無理にではなく魅力的だから買ってみたい」

カラーリサイクルシステムで生まれた魅力ある素材はすでに商品となっている。自社商品のほか、他社とのコラボ商品もあり、文具大手のコクヨ(大阪市)は手帳カバーなど、衣類・小物類を販売するセレクトショップを運営するアーバンリサーチ(大阪市)はマルチパーパスバッグやスマホケースなどを販売している。内丸氏は「リサイクルされた物だからと無理して買うのではなく、魅力的な物だからぜひ買ってみたい、そう思ってもらえる商品作りを進めていきたい」と話している。
また、昨今はSDGsを意識した企業・団体から制服のリサイクルに関する依頼が目立つという。古くなった制服を廃棄せずになんらかの形で活用しようというもので、天王寺動物園(大阪市)の制服をキーホルダーにリサイクルしたほか、JR西日本や全日本空輸(ANA)などの制服もキーホルダーに生まれ変わっている。イベント用グッズなどとして配布されているものも多いが、ANAの整備士の制服を使って制服型のチャームと整備用タグをセットにしたキーホルダーは同社のスカイショップで販売されている。
社会課題解決の糸口を次の世代へ

「色で素材を循環する」をコンセプトに、廃棄繊維はFRP(繊維強化プラスチック)や紙、ボードなど様々な用途へのリサイクルが進められているが、なかでも内丸氏がとくに力を入れたいのは“繊維to繊維”の水平リサイクルだ。折しも欧州連合(EU)は、SDGs達成に向け、2030 年までに EU 域内で販売される繊維製品を、再生繊維を大幅に使用するなど環境に配慮したものにするとの目標を掲げており、日本でも官民を挙げて対応を急いでいる。
水平リサイクルによる再生糸は国内ですでに開発が進んでいるが、コットンやウールといった単一素材のリサイクルが大半。これに対し、カラーループが紡績会社と共同開発した再生糸「Reprit(リプリット)」は雑多な素材をリサイクルしたものだ。「衣料の65%は2種類以上の素材を使用している。雑多な故繊維からリサイクルされた再生糸の必要性は高い」と内丸氏は訴える。もちろん、色をキーワードにしているだけあって、やさしい色合いの再生糸になっている。

一方で大きな課題になっているのが生産体制だ。現状では、工程ごとに異なる場所で作業を進めており、運搬するたびに時間と費用がかかってしまう。内丸氏は未来構想として「できるだけ工程を一カ所に集約することで、製造にかかる期間を短縮し、コストも下げていきたい」として一貫した生産体制への模索を続けている。「廃棄繊維という社会課題の解決の糸口を正しい形で次の世代につなげていきたい」と内丸氏は話している。
企業データ
- 企業名
- 株式会社colourloop
- Webサイト
- 設立
- 2019年
- 資本金
- 500万円
- 従業員数
- 1人
- 代表者
- 内丸もと子 氏
- 所在地
- 京都市下京区烏丸通仏光寺下る大政所町680-1 第八長谷ビル 2F-222
- 事業内容
- 色をベースにした廃棄繊維のリサイクル