農業ビジネスに挑む(事例)
「ファームアンドカンパニー」産地から3時間以内の消費者に販売限定
- 機野菜宅配のエリアを限定する
- CSA(農業生産者の会員制度)の理念を伝える
生産地から電車かクルマで3時間以内の圏内に住む消費者だけを販売対象にする。その商品は有機野菜。エリアを限定して地産地消を実践するのが兵庫県の有機農業生産出荷組合「はたんぼキッチン」だ。
生産者と消費者が実際に顔を会わせられる距離
「兵庫県の有機野菜の新しい販売チャネルをつくる、新規就農者を後押しする。そんな目的から2009年にはたんぼキッチンは設立されました」(事務局長の光岡大介さん)
約50軒の有機野菜生産者で構成する同組合は会員制の有機野菜宅配サービスを行っている。旬の野菜が詰まったボックス(「てんとう虫BOX」「みつばしBOX」の2種)を週に1-4回、会員の自宅に届けるのだが、その対象が兵庫、大阪、京都、奈良と生産地から電車かクルマで3時間以内の圏内に住む消費者に限られていることが特徴だ。実際に会って顔が見られる消費者に限って自らの有機野菜を販売する。
その考えの基盤となっているのが欧州で浸透しつつある農業生産者の会員制度「CSA(Community Supported Agriculture)」だ。CSAは、消費者が農業生産者の会員となり、年間を通して生産者の農産物を買い支えるシステムのことで、いま米国、フランスで広がりつつある。
このCSAにより農業生産者は年間を通して販売量を把握できるため、安心して生産に専念できる。また、消費者にとって生産者は自分の代わりに野菜をつくってくれる人であり、その究極には天候のリスクも消費者がカバーして農業および生産者を守るという考えにまでCSAは及ぶ。
「いきなりCSAの理念を理解できるものではありませんが、実際に畑を見て、生産者の顔を知ることで、購入する野菜に親近感を覚えます。それにより宅配の有機野菜を継続的に食べていただければ、CSAへの理解度も少しずつ上がっていくと思います」(光岡さん)
そこで年に4回、有機農業の産地を訪れる「産地訪問ツアー」を企画する。作物の種類や堆肥のつくり方、水源地などを説明し、収穫した有機野菜でつくった弁当を昼食に供する。単なる見学会ではなく、生産者と消費者が直接に会って対話をする場だ。生産者にとっては自ら栽培した有機野菜を消費者に目の前で食べてもらう絶好の機会。また、消費者にとっても農作業を手伝うことで有機栽培の厳しさを実感できる貴重な体験となる。
はたんぼキッチンでは農業生産者をホストファーム、会員をファームメンバーと呼び、現在、ファームメンバーは約100名を数える。
新規就農者の育成にも動き始める
そして2011年7月には、組合員や賛同者の出資により光岡さんがファームアンドカンパニー株式会社を設立してはたんぼキッチンの既述の業務を受託・運営し、同時に西宮市内に有機野菜のフレンチレストラン「レギューム」をオープンした。さらに12年8月には神戸市内にアンテナショップ「プチフェルム」を開店。レストランとアンテナショップにははたんぼキッチンの有機野菜の広報役を担わせている。
また、ファームアンドカンパニーでは、はたんぼキッチンの業務(宅配野菜事業、産地訪問ツアーなどの企画)とレストラン、アンテナショップの経営のほかに、2012年春から新規就農者のための畑の運営も始めた。この事業では、有機農業に新規就農してから3年で自立経営できるよう、そのためのノウハウのモデル化づくりを目指している。これらの事業によって生産者が有機農業に安心して取り組める環境を整え、地域で有機野菜を必要とする消費者に安全で美味しい野菜の提供していく。CSAを少しでも発展させるべく、会員のみならず生産者の育成にも動き出したところだ。
企業データ
- 企業名
- ファームアンドカンパニー株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 光岡大介
- 所在地
- 兵庫県西宮市高松町5-39 なでしこビル8階