経営課題別に見る 中小企業グッドカンパニー事例集

「株式会社西居製作所」心と技術で応える、明日の精密プレス加工

西居製作所(東京都大田区)は「光源の精密反射鏡(リフレクター)」をはじめ、精密金属部品を生産・販売する、60年の歴史をもつ金属プレス加工メーカーである。金型技術を強みとし、非常に薄い素材の表面を傷つけずに精密加工することができる。コア製品であるリフレクターで高いシェアを築き、自動車から医療まで幅広い分野で受注を得ている。老舗金属加工メーカーがいかにして需要を獲得してきたのか、その秘密に迫った。

この記事のポイント

  1. 海外進出の苦難を乗り越え、需要拡大の武器は技術にあると確信した
  2. No.1技術を作り、深め、転用することで需要を拡大した
  3. 社員の動機付けを高めて、技術蓄積を促進した
西居徳和代表取締役社長。コア技術である金型技術を高めるため、あえて古い設備を残している。

海外進出で学んだ、技術経営のあり方

「タイに進出したことは大きかったと思います」と西居製作所・西居徳和代表取締役社長は語る。1990年当時、本社工場の生産力は手薄になっていた。しかし、国内産業は空洞化の兆しがあり、新しく工場を作るなら海外だろうとの考えから、2007年に東京都大田区の地域経済活性化事業に応募。タイの「アマタ・ナコーン工業団地」に進出した。取引先の海外進出に追従した生産・輸送コストの削減に加え、あらゆる分野の産業が集積する地で新たな需要が見込まれることを期待しての進出であった。

同社タイ工場 NISHII FINE PRESS

しかし、軌道に乗るまでには多くの苦労があった。特に2008年のリーマンショックの影響は大きく、国内の空洞化と新規顧客獲得困難の二重苦の状況となった。海外進出は困難を極めたが、少しずつ実積・信頼を積み重ね、遂に自動車用金属部品の受注を獲得した。為替リスク対策としての現地調達率引き上げの動きも追い風となったが、決め手は品質と技術力だった。

「当初は日本から技術者を何度も派遣し、徹底的に日本流のやり方を教育していたのですが、生産品質がなかなか良くならず苦労しました。社員は少しでも給与が高い会社で働きたいという動機付けが強く、定着率が悪いことが原因でした。給与面では大手に適わないが、何とか社員にやりがいを感じてもらい、長く働いてもらうことができないだろうか?そこで日本のやり方をすべて強制せず、思い切って現地に任せる部分を増やし、時間をかけて技術を育てることにしました。それにより社員の離職率は減り、タイ独自の技術で日本と同レベルの生産品質を実現し、大型受注を獲得することができました」(西居社長)。

この経験から、需要獲得には高い技術力が必要不可欠であることを再認識するとともに、自社にとっての「技術経営」はどうあるべきかを、強く考えるようになったという。

技術を深めて自走させることで、需要を拡大する

海外進出で自動車部品分野の需要を獲得した西居製作所であるが、「需要拡大の一番の秘訣は、特定の技術に絞り込み、技術でNo.1になることです」と西居社長は説明する。技術がNo.1になると、その技術の高さから転用が利くようになる。それにより、ほかの分野でもその技術を活用でき、需要を拡大することができる。

西居製作所が生産する、精密金属プレス加工製品

No.1の精密プレス加工技術を育てるには、金型技術を深めることが重要だ。その工夫として、西居製作所ではあえて古い金型加工設備を残している。「金型技術は自社のコア技術であり、研究開発に該当します。試作品金型を作るときには自動化された最新の設備を使わずに、あえて古い設備を使うようにしています。製作に時間はかかりますが、手間のかかる調整や手作業を強制的に行う仕組みにすることで、金型技術の学習、蓄積を促しています」(西居社長)。

最新の金型製作設備の横には、古い金型製作設備が所狭しと並ぶ

技術の転用の工夫について、西居社長は「技術のランチェスター戦略」と説明する。一通りのプレス加工技術を有しているが、「何でも加工できる」とは言わない。総花的では個性が出ないからだ。その代わりに、非常に薄い素材で、鏡面を保ったまま精密加工されているリフレクターを紹介する。光の配向特性を決めるリフレクター部品には、きわめて精度の高い加工技術が必要とされる。それを見た顧客となる技術者には「これができるならほかの加工もできるだろう」と伝わる。西居製作所ではHPを見ての問い合わせも多いが、HP上にも特設ページを作ってリフレクターを強く紹介している。リフレクターという精密金属部品が広告塔となり、精度を求める国内の技術者に対する営業の役割を担うのである。

西居製作所の営業部隊となるリフレクター部品

いまや仕事は自動車分野から医療分野や環境・エネルギー分野へと広がりをみせている。これも実は同様のメカニズムが働いている。まずはリフレクターといった汎用部品で光学関連製品での採用が進み、新規参入の分野で実績ができる。その後、その精密部品の加工技術の高さが顧客に浸透し、別用途の精密金型、精密プレス部品の受注に繋がるのである。No.1技術を深め、技術が広告塔として自走することで、需要拡大を実現している。

心で技術を育て、顧客・社会に貢献する

西居製作所では外部コンサルを交えた全員参加の定例会議を開催し、生産のPDCAマネジメントを実施している。そこでは作業の進捗管理だけでなく、生産改善提案、行動計画の立案や実施結果の報告・レビューなどが行われる。全員で生産性向上を考えるブレストの場としても機能しており、金型に工夫を加えて生産効率化が図れたときなどは「Aさんの手柄だ、凄いね!」と全員で褒め合う風土が作られている。西居社長はこれを「マズローの尊厳欲求の活性化(アメリカの心理学者であるアブラハム・マズロー氏が唱えた人間の欲求の5段階説で、4階層目にあたる「承認(尊厳)欲求:他人から認められたい、尊敬されたい欲求」のこと)」と説明する。社員にとっての報酬は、給与といった金銭だけではない。人に認められること、感謝の言葉や仕事から得られる達成感も報酬となりうるのだ。そして互いに認め合い、イキイキと働くことで仕事が効率化するとともに、組織の向上心が高まり、技術蓄積が加速するのだ。

「経営者として駆け出しの頃には、金融機関や従業員をはじめ、多くの人に助けていただいた。また、仲間が離れていくたびに、徳を積まないと駄目だと感じた。経営者が徳を積めば人徳になり、組織で徳を積めば社徳になる。そして小さいながらも納税という社会貢献ができれば、それが会社としての業徳になっていくと思う」(西居社長)。

西居社長は現在、中小企業経営を研究する「理科大MOT」の岸本研究室に所属し、経営学を学んでいる。2018年には軽金属学会企業奨励賞を受賞した。「中小企業は人がすべて。社員から尊敬されるよう自らも学び、全員で成長して行きたい」(西居社長)。

西居製作所は機を見て海外に進出し、新規需要を獲得して技術を高めた。社員を大切にする姿勢は従業員の満足度を高め、技術蓄積を加速した。その技術をリフレクターの金型・生産技術へとフォーカスすることで、顧客の興味・口コミを促進して幅広い分野への応用に繋げた。少ない資源を上手に活用し、それらにテコを効かすことで効率的な経営を実現した技術経営スタイルは、中小企業ならではの競争力強化の効率的な手法の一つと言えるだろう。

「中小企業の社長に必要なのは人間的魅力と包容力」と語る西居社長

企業データ

企業名
株式会社西居製作所
Webサイト
設立
1973年6月
資本金
1,000万円
従業員数
10名(2018年4月現在)
代表者
西居 徳和
所在地
東京都大田区千鳥1-10-7

中小企業診断士からのコメント

技術に強みをもつ加工メーカーは多いが、必ずしも経営がうまくいっているとは限らない。どうすれば、技術の強みを活かした経営で、会社を存続・成長できるのだろうか?西居製作所は、自社の核とする技術を定義し、その技術を蓄積する仕組み自体を差別化することで、顧客(技術者)の心に刺さる価値を提供している。

中小企業がマネジメントする対象としては「ヒト、モノ、カネ、情報(技術)」があげられるが、加えてもう一つ「感情」がある。経営とはヒトを通してコトを成すことであり、技術蓄積の客体はヒトであるから、感情もマネジメントの対象である。西居製作所は上記の5つの要素を繋げて考え、テコを効かすことで技術蓄積を加速している。「技術を蓄積する仕組み自体の差別化」と「感情のマネジメント」を軸とした技術戦略は、加工メーカーが存続・成長するための、1つの論理を提供してくれる。

田代 順一

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