コロナ禍でがんばる中小企業
爪楊枝屋のノウハウ活かし、非接触棒を開発【菊水産業株式会社】(大阪府河内長野市)
2020年 12月 21日
1.コロナでどのような影響を受けましたか
1960年の創業以来、河内長野市で爪楊枝の製造販売を営んでいる。初代は曽祖父で、2代目の祖父、場工耕司が1965年に日本で始めて黒文字楊枝の半自動化製造機械の開発に成功、3代目の叔父が現社長を務め、グラフィックデザイナーから転身した専務の末延秋恵(42)が4代目になる。
当社のこだわりは、伐採、製造、包装を一貫して国内の自社工場で行うこと。爪楊枝のほかに竹串や国産材の箸などの加工販売を手掛けており、飲食向け問屋さんや百貨店さんの受託販売や、和菓子屋さんの名入れOEM(相手先ブランド名製造)などが主なお客様だ。このため今年2月末頃からコロナの影響が出始め、緊急事態宣言が出て百貨店が軒並み休業の頃などの売り上げは前年同期比5割減に落ち込んだ。
2.どのような対策を講じましたか
爪楊枝屋として何かできる事はないか、と考えていたときTwitterの映像で中国・武漢の人達がエレベーターに設置してある爪楊枝でボタンを押しているのを見た。国産爪楊枝製造を本業とする当社も負けていられないと思った。設置タイプがあるなら、国産材で持ち運べて自分専用の物があればいいなと考え、「非接触棒」を作った。
口に入れるわけではないので先を尖らす必要はない。製造過程で機械に通らなくなった北海道産の白樺材を使って試作品を作り、4月22日にSNSを通じて友達に感想を聞いてみた。するとかなりの好感触で、思い切って商品化してみようと量産体制を整えた。
木材なので使用後は燃えるゴミに出すことができる。エチケットを守って捨てられるよう使用済み入れもセットして、値段は1箱120本入り568円(税別)。笑いの街・大阪の町工場らしく語呂合わせにこだわり、567円(コロナ)に勝つという意味で1円多い568円だ。パッケージには「さぁ、思う存分つつくがよい。」というコピーも添えた。エレベーターやインターホンのボタン、クレジットカードの暗証番号入力、バスの降車ボタンなど、指で直接押したくないときにこれ一つ。コロナ禍のなか、ちょっとでもクスっと笑えて人にプレゼントしたり、お店に置いたり、話のネタになればいい。
ECサイトを準備し、ホームページを更新し、プレスリリースも配信して4月28日に発売したところ、直後からお問い合わせの電話が相次ぎ、TV・新聞・雑誌から取材依頼が来てものすごい反響となった。「詰め替え用がほしい」という声に応えて、非接触棒の中身のみを簡易パッケージに入れた「おかわり」(200本×2袋)も発売した。「さぁ、もっともっとつつくがよい」のコピー付きだ。
販売数は累計約5000個。5人の従業員はみな「今まで作った事がない商品なので楽しい」と言って作業してくれた。テレビや新聞を見た人から励ましや応援の電話も頂いた。非接触棒が取り上げられる事で、河内長野市の地場産業が爪楊枝であるということを広く知ってもらうきっかけになったのも、とても良かったと思う。
3.今後はどのように展開していく予定ですか
商品のデザインは自社製で立派なものではないが、自社のできる範囲で何かをするという前向きな姿勢を製造業の仲間に見てほしかった。コロナの影響では飲食店やホテルの苦境ばかりが注目され、製造業はあまり取り上げられない。もっと製造業にも目を向けてほしいという想いもあった。
当社は小さな町工場だ。非接触棒が売れたからと言って危機的状況が劇的に変わることはない。だが、決して悲観的にならずに前向きに考える事が、状況を変えると思う。どんなに小さくてもできる事はある。コロナ禍のこの状況で自社に何ができるかを考えることが大事だと思っている。
これまでは爪楊枝にこだわっていたが、爪楊枝にこだわる必要はないという新たな発見もできた。爪楊枝に捕らわれず、様々な商品を開発していくことが必要だ。構想中の商品がまだまだあるので、順次商品を開発していきたい。
企業データ
- 企業名
- 菊水産業株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1983年7月
- 代表者
- 場工正広 氏
- 所在地
- 大阪府河内長野市日野1100番
- Tel
- 0721-51-1630
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