コロナ禍でがんばる中小企業

マスク・医療用ガウンに進出し売上倍増【株式会社富樫縫製】(福島県二本松市)

2021年 3月 17日

医療物資の増産で経済産業省から感謝状を贈呈された(富樫社長と医療用ガウン、マスク製品)
医療物資の増産で経済産業省から感謝状を贈呈された(富樫社長と医療用ガウン、マスク製品)

1.コロナでどのような影響を受けましたか

福島県二本松市にある本社・工場
福島県二本松市にある本社・工場

1969年(昭和44年)に子供靴の縫製工場として創業し、70年に会社を設立した。80年代にシューズから衣料品に生産転換し、現在はアパレル、スポーツウエア、フィットネスウエア、スイムウエアなどが主力製品。2020年6月期の売上高は約3億円で、このうちOEM(相手先ブランドによる生産)事業が7割ほどを占める。

ただOEMのアパレル生産は2017年ごろから急激に受注が減少した。そこでOEMで腰痛ベルトや膝サポーター、姿勢矯正ベルトなどの受注を増やそうと取り組んできた。さらに縫製業として国内生産では限界にきていたので、「健康寿命を伸ばす」をテーマに自立したビジネスへの転換に着手し、18年2月にオリジナル商品のサポートスーツ「S字の力」を開発、発売した。

だが新型コロナウイルス感染症の影響で、アパレルなど従来の縫製業としての受注はさらに激減した。20年2月は前年同月に比べて売り上げが15%ほど減少し、3月から製造ラインを止めようと考えた。

2.どのような対策を講じましたか

医療用ガウンを縫製する製造現場
医療用ガウンを縫製する製造現場

ちょうどその頃、経済産業省から「マスクの生産は可能か」という問い合わせがあり、その時はマスクを構成するガーゼやゴムなどの資材が手に入らない状況だったので、できないと返事した。ただ社員から「マスクがなくて困っている人たちがスーパーで行列を作っている」と言われ、ラインを止めると社員の仕事がなくなることもあり、手持ちに在庫のあった水着用ストレッチ素材を使い、立体マスクを作ることにした。

「水着マスク」として3月4日に生産を始めた結果、ラインは止めずに済んだ。というよりむしろ、マスクの増産を急ぐことになり、他社で休業している人たちに応援を要請した。当社の社員47人に加え、15人に応援要員として働いてもらい、現在も8人が残ってくれている。テレビで取り上げられたこともあり、作っても作っても間に合わない状況が5月中旬まで続いた。

販売ルートは、サポートスーツでネット販売とショールーム販売を始めていたので、それを活用した。水着マスクのネット販売は3月10日ごろにスタートし、累計で70万枚を超える販売実績となった。また福島県内のスーパーにも販売してもらったが、物流システムの不備からお客様に待って頂くこともあった。

水着マスクはさまざまな柄を用意した
水着マスクはさまざまな柄を用意した

これに続き、医療用ガウンの開発・製造も始めた。20年3月下旬に経産省から医療用ガウン生産の打診があり、4月中旬に地元・二本松市に医療用ガウンを寄付するため開発した。不織布はなかったので、防水布を使って製造した。

マスクの生産が落ち着いてきた6月になって、今度は厚生労働省からガウン生産の話があり、受注した。2カ月間で100万枚を生産するというキャパシティーを確保するのに苦労し、約20社の同業他社に製造をお願いした。結局、厚労省向けの生産は139万3750枚に上り、3月末までにさらに100万枚を生産する計画だ。その後も需要があれば、ガウンの生産を続けたいと考えている。

マスクの生産を始めた結果、20年2月までの月次売上に比べて、3月以降の月次売上はほぼ倍増した。さらにガウンの収入が加算される21年6月期の売上高は17億円を超えると予想している。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

社長自らの悩みから生まれたサポートスーツ「S字の力」
社長自らの悩みから生まれたサポートスーツ「S字の力」

マスクについてはその後、水着マスクより縦を約2センチメートル長くし、マスク下部を上げ下げして食事やスポーツ、炎天下での作業が行える「スポーツ&ながらマスク」や、大人の口元の動きをまねて言葉を覚えるという子供の保育現場やサービス業などに適した「透明マスク」を開発し、発売した。

マスク市場は夏以降、ユニクロやミズノ、イオンといった大手企業が多数参入しており、当社の製品は、それらに比べて使い心地やファッション性に優れていると考えている。企業や団体、幼稚園向けにオリジナルマスクを小ロットで受注生産する事業も始めた。

サポートスーツの仕組み
サポートスーツの仕組み

一方、サポートスーツをはじめとした「健康寿命を伸ばす」事業を一層強化していきたい。この製品は慢性腰痛に苦しんでいた私自身が、自分用のサポーターを作ろうと思いたち、開発を始めた経緯があるからだ。OEMで腰痛ベルトなどを製造していた当時は、それを試着しても痛みが改善せず、少し腰を曲げて歩くまでに悪化していた。

そこで背骨が真っ直ぐになるように2本のカーボンをS字に成型して姿勢矯正し、またカーボンの反発力で背筋を補助し、腰への負担を軽減させようと考えた。カーボンを背中側に挿入した形の試作品を一から開発し、試行錯誤しながら毎日試着した。すると1週間後、腰痛は軽減され、夜寝るときに仰向けで寝られるようになった。その後も継続して装着すれば朝起きるときに腰痛を感じなくなったため、特許を取得して発売した。

今は運送屋さんがボードを運ぶときに手を補助する製品を開発している。また農業の人たちが楽になるようなサポートスーツの新機能も開発する計画だ。元気に仕事が続けられることのありがたさを味わってもらえるよう、1日中付けていても違和感の少ない、また気軽に使える製品を作り続けていきたいと考えている。

企業データ

企業名
株式会社富樫縫製
Webサイト
設立
1970年12月28日
代表者
冨樫三由 氏
所在地
福島県二本松市油井字谷地20番地2
Tel
0243-23-5440

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