コロナ禍でがんばる中小企業

首からぶら下げるフェイスシールドを開発【真辺工業株式会社】(広島県府中市)

2021年 2月 15日

試行錯誤の末に誕生した美容室向けフェイスシールド
試行錯誤の末に誕生した美容室向けフェイスシールド

1.コロナでどのような影響を受けましたか

広島県府中市の本社工場
広島県府中市の本社工場

1956年(昭和31年)に創業して以来、自動車向けのアルミニウム・マグネシウム合金製部品をはじめとする精密部品製造を手がけてきた。特に量産性の高いものを得意とし、75台以上の工作機械を用いて、月産100個から同10万個まで対応できるのが強みだ。主力取引先である1次サプライヤーのリョービを通じて、最終的にトヨタ自動車や日産自動車などのエンジンやトランスミッションといった駆動系部品に使われている。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、全社売上高の6割を占める自動車向けの仕事量と売り上げは大きく減少した。2020年3月は前年実績に比べて3割減少し、初めて緊急事態宣言が発令された4月から6月にかけては5割減となった。

4月以降、月に3~4日間休業し、雇用調整助成金を活用した。1日の稼働時間も従来の24時間体制から、残業なしの16時間体制(8時間勤務×2交代)に変更した。また資金面での対策として、商工中金の無利子融資を活用したほか、国の持続化給付金も申請した。

2.どのような対策を講じましたか

顧客が装着したまま、髪を切ったり、洗ったりできる。
顧客が装着したまま、髪を切ったり、洗ったりできる。

フェイスシールドの開発・製造に取り組み、4月中旬に発売した。新型コロナウイルス感染症の脅威にさらされている医療関係者はもちろん、介護施設や小売店、製造現場など、さまざまな分野で働いている人たちの健康と安全を守るためだ。フレーム部分はステンレス製のため強度があり、繰り返し使用が可能。樹脂製のシールド部分は使い捨て使用を想定し、ホームセンターなどで安価に購入できる。

これに続き、美容業界向けに特化したフェイスシールドを開発し、5月中旬に発売した。一般的なフェイスシールドのように頭部に装着するのではなく、首からぶら下げる方法を考案し、顧客が装着したまま、髪を切ったり、洗ったり、染めたりできる。一般的なフェイスシールドやマスクを着けたままでは、十分な美容サービスを提供することが難しいが、この方法ならば顧客は飛沫感染などの危険性から開放される。

装着方法は、顧客がステンレス製のフレームを持ち、シールド先端を額のちょうどよい位置に当てる。後は美容師がネックストラップを締めるだけで簡単に固定される。シールドの位置は個人単位で調整でき、フレーム部分は300回以上の繰り返し使用を想定。シールド部分はその都度取り外して交換し、清潔なシールドを常に用意できる。

美容業界向けの製品を開発したのは、地元・府中市内で美容院「Tact of Hair」を経営している友人から4月下旬に相談されたのがきっかけ。彼には試作段階から製品の仕様と使用を評価してもらった。首からぶら下げるだけで顔にフィットするよう形状を工夫し、首からぶら下げるところまで到達するのに何度も作り直した。

また素早く製品化するため、地元製造業の若手経営者に呼びかけ、板金・曲げ加工を五敬工業(福山市)、ステンレス部分の塗装を府中メッキ(府中市)、ネックストラップなどの部品調達を伊豆義(福山市)とコラボレーションして製品化した。

販売は手数料無料の通信販売サイト「BASE」を利用した。フェイスシールド事業は100%ネット販売であり、これまでに一般向け、美容室向けそれぞれで150万円程度を売り上げた。ただそれ以上に、新聞・テレビ・雑誌など各種メディアに取り上げていただき、会社の知名度アップにつながったと評価している。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

真邉崇正社長
真邉崇正社長

一般向けのフェイスシールドは、安くてより良いものが出てきているため、販売を休止しようと考えている。一方、首からぶら下げる美容業界向けのフェイスシールドは、競合メーカー・製品が出てこないため、今後も販売を継続する計画だ。年間100万円程度の売り上げを目指している。

一方、自動車向けの売り上げは夏以降、徐々に回復し、最近では以前の8割程度まで回復してきている。自動車業界は電気自動車やハイブリッド車といった電動化や電子化が急速に進んでおり、当社も近年はアルミ鋳物を切削加工したモーターやインバーター、充電器などの筐体部品に特化したものづくりに注力している。まずはこうした電動化部品をできるだけ多く受注したい。また、これをベースとした新規事業も検討している。

さらに今後は、自動車産業だけでなく、自転車や機械装置といった産業に対してもアプローチをしていきたい。新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない中、今回のフェイスシールドのように地域に対してモノづくり企業としてできることを恩返ししたいと考えている。

企業データ

企業名
真辺工業株式会社
Webサイト
設立
1964年12月
代表者
真邉崇正 氏
所在地
広島県府中市鵜飼町800-112
Tel
0847-40-1170

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