農業ビジネスに挑む(事例)

「グリーンサービス」コメ社債を発行して消費者との相互理解を図る

  • 運転資金を調達するために社債を発行
  • 消費者像を具体的にイメージした米づくり

社債を発行して運転資金を調達し、その配当は新米でする。そんなユニークな米生産者が福島県の会津にいる。代表取締役として有限会社グリーンサービスを率いる新国文英さんだ。

新国さんは農業生産者の次男として高校卒業後の1972年に家業を継いだ。そして1985年に近隣の3軒の農業生産者と農機械を共同利用するための組合を設立し、コンバインやトラクターを共同購入、さらにライスセンターも共同建設した。

設けたライスセンターの処理能力は20haだったが、新国さんたちの農地は合計で12haしかなく、残り8ha分の農地を確保する必要があった。そこで1986年に3軒で農事組合法人を設立し、近隣の米生産者から作業を受託した。

米生産における作業の受託とは、水田の作業を請け負うサービスであり、育苗から刈取りまで代行する。ただ、従来の作業受託は、例えば稲刈りの場合、コンバインで刈り取る前に倒れている稲を手直しするが、その手直しの一部を委託者に手伝わせるなど作業負荷を受託者に強いるものだった。しかし、新国さんたちは受託した作業のすべてを行い、委託者には一切作業をさせないという一貫したサービスに徹した。それが委託者から好評を博し、また、委託相手が法人であることも信頼の因となり、作業受託は上々の滑り出しとなった。

さらに、借りた農地では減農薬・減化学肥料や籾殻の堆肥化などをいち早く取り入れたため、貸与者に間では以前よりも土壌が改良されることなども評判になり、1988年に農事組合法人は黒字化を達成し、さらに1991年に名称を「グリーンサービス」に変更し、2003年には有限会社に改組した。

グリーンサービスの事業は、農地の貸与者、農作業の委託者から好評を博す

毎年の運転資金の調達に苦慮

グリーンサービスの事業の中核は利用権設定した農地での米生産だが、農事組合法人時代から運転資金の調達には多少なりとも苦労を強いられてきた。そうした中、新国さんは金融機関以外からの資金調達を考えていた矢先、経営アドバイザーから社債発行の助言を受けた。

「これだと思いました。以前から市場で資金調達できないかと考えていたのですが、どうしても株式発行しか思い浮かばず行き詰っていました」

ところが、私募債なら未公開企業でも発行できる。しかも、会社が無担保で発行できる少人数私募債ならば、総額1億円未満であれば金融庁に届けでなくても発行できる。さっそく新国さんは少人数私募債の発行を決断。東京で投資説明会を開き4名の投資者を獲得。さらに親戚・友人なども含め合計11名の投資家を対象に2007年10月に初めて社債(少人数私募債)を発行した。

この社債は一口20万円で原則1人1口を発行。利率はゼロ、ただし償還までの3年間、社債購入者には利息の代わりに年1回の自社製品=新米10kgが贈られる。新米10kgの販売価格が6000円前後だから、利回りに換算すれば約3%になる。

「米生産者を支援する人たちを増やしたい」

それが新国さんが社債を発行した真意という。単に米を「つくる人」と「買う人」という無機質な関係ではなく、生産者も消費者(投資家)も一緒になって米をつくるという関係を社債の発行を通して築きたかった。そのために個人投資家(消費者)から直接資金を調達する方法を選択した。

グリーンサービスの社債購入者には、利息の代わりに年1回新米が贈られる

食べる人の食卓を具体的にイメージできるようになった

現在、同社は減農薬・化学肥料の特別栽培コシヒカリ「会津米物語」を主力ブランドとして生産する。年商は9000万円、そのうち75%が米の生産・販売だ。

社債は2007年10月から半年ごとに発行し、現在の発行残高は118口。そのうち40名は同社の米の定期購買者だ。

グリーンサービスの社債に償還期間はあるものの、解約も随時受け付ける条件になっている。よって、一斉に保有者から社債を解約されるというリスクもあるわけだが、それ以上にメリットのほうが大きいという。

「実際に社債を発行したことで、米づくりの未来が見えてきました」(新国さん)

社債の発行で市場から直接資金を調達したことで、グリーンサービスの米を購買する人、食べる人のイメージを具体化できるようになった。それらの人たちの食卓風景を思い浮かべながら、どんな米づくりをすべきかを明確にできるようになった。生産者と消費者が一体となるような米づくりのスタートをきることができた。

「今後はさらに消費者に農業に関心をもってもらうことが大切になると思います」

いまの消費者は、自らの命にとって最も大切な食べ物への関心が低い。新国さんはそう感じている。どんな場所で生産され、どんな経路をたどって食卓までたどり着くのかにもっと関心を寄せるべきだ。

また、生産者もどのような人がどのように食べるのかを想定しながら農産物を生産すべきだと考える。ただのつくり放し、食べ放しではいけない。生産者も消費者も互いに関心を寄せ、互いに関与することが必要だと感じている。それを通して相互理解を深める。その手段として新国さんは社債を発行し、これからも社債という相互理解のツールを用いて米づくりを続けていく。

企業データ

企業名
有限会社グリーンサービス
Webサイト
代表者
新国文英
所在地
福島県大沼郡会津美里町鶴野辺字家ノ前甲602