まず、従業員の間に広がっていた不安を払拭するため、同年5月から6月にかけて全員参加の研修を6回開催した。そこで雇用調整について説明したほか、財務状況についても開示した。当社は自己資本比率が高いなど財務状況は良好だったので、仮にあの状態が続いたとしても2024年までは倒産せずに持ちこたえられるとのシミュレーションを示したところ、不安は大いに解消された。
また、自粛期間を機に、中期経営計画を修正し、事業の定義を「食を通した地域活性化業」へと変更した。すでに吉山地区で農村活性化事業を行っていたが、今後は農村だけでなく、さまざまな地域での活性化に取り組もうというものだ。さらに、「地域未来牽引企業」を申請し、2020年10月に選定された。これは地域経済の中心的な担い手となりうる企業として経済産業省が選定する制度で、当社の事業を進めるうえでぜひとも選定されたいと以前から考えていたものであった。
この地域未来牽引企業への選定が島根県江津市にある有福(ありふく)温泉の再生事業につながった。地域未来牽引企業としての事業活動方針について金融機関に説明していたところ、話がやがて江津市に伝わり、再生事業に参画してほしいと打診されたのだ。有福温泉は、奈良時代から続く温泉街で、もともと広島市内からの観光客が多いなど広島とは縁がある場所。しかしバブル崩壊後の景気低迷や大火、豪雨などで衰退し、コロナ禍でとどめを刺された状況となっていた。地域に飲食店も物販店もなくなり、かつて20軒あった旅館は相次いで廃業し、わずかに3軒のみが細々と営業を続けていた。
当社は行政との協働で再生事業に着手し、2021年10月、地域の中心地にレストラン「有福ビアンコ」をオープンした。同店では、2軒の旅館のセントラルキッチン機能とフロント業務を引き受けており、各旅館の固定費を劇的に下げることになった。また、他の地域での再生事業で導入されていた「泊食分離」とのコンセプトを提案し、宿泊と飲食の場を分けることとした。具体的には、飲食は「有福ビアンコ」や同じく当社が開いたワインバーが担い、旅館は湯治用や美容用など特色ある宿泊に特化しようというものだ。有福温泉では、近く2軒の旅館がオープンする予定で、そちらのセントラルキッチン機能とフロント業務も「有福ビアンコ」が引き受ける。
このほか、もともと予定した計画をコロナ禍により前倒しで実施したものがある。ひとつが、遠方でも作り立てのケータリングを提供できる「キッチンバス」の導入だ。それまでケータリングの提供範囲は広島市内に限られていたが、半径100km圏内まで拡大したいと考えていた。バスの製造会社も当時は仕事が激減していたため、通常より安価で、しかも短期間で完成できるということだったので、2020年7月にキッチンバスを購入した。自粛期間の反動で外食へのニーズが高まったこともあり、キッチンバスは出だしから好評で、遠くはちょうど100km離れた広島県福山市まで出向いた。キッチンバスの追加導入も検討している。
もうひとつがテイクアウト専門店。ケータリングの場合、注文を2日前の午前中で締め切るという制約があり、そうした制約に縛られないテイクアウト事業への進出を計画していた。コロナ対策としてもニーズが高まっており、事業再構築補助金を活用してテイクアウトの惣菜店「Delica shop BOUQUET」(広島市西区)をオープンした。これらの事業展開が奏功し、今期(2023年3月期)の売上高はコロナ前の水準に回復する見通しだ。