1年で開発したスピード感
国産1号機として高まる期待
自社製品開発で閉塞感を打破
その頃、地元にも新産業創出の風が吹いていた。その1つが「3D勉強会」。浜松発の独創的な3Dプリンターの開発を目指す産学官連携プロジェクトだった。中心人物は静岡文化芸術大学大学院デザイン研究科の望月達也教授。同教授による同時5軸制御技術を応用した3Dプリンターを実用化するための呼びかけに、榎本社長は真っ先に手を挙げた。「5軸制御技術には蓄積したノウハウがある。3Dプリンターは初めてだが、将来性に期待した」(同)。迷いはなかった。
2014年6月、同社のほかソフトウエア開発のC&Gシステムズ、静岡文芸大と地域と産学官がタッグを組み、プロジェクトが動き出した。開発に当たり、国の開発補助金に期待したが、すでに2014年度分の受付は終了直前。これを逃すと翌年度の申請になってしまう。川村健広開発部長は「悠長なことを言ってないですぐやりましょう」とわずか1週間で膨大な申請資料を作り上げた。
自己資金でも開発する覚悟でダメ元の申請だったが、申請は無事採択され、いよいよ挑戦が始まった。当初の目標は5軸で制御する3Dプリンターの開発だった。しかし、榎本工業が5軸加工機を開発、製造してきた強みを生かし、他社にない製品を開発しようと、途中から積層と加工を1台でできるハイブリッド型に目標が進化した。「安いものを作っても意味がない。値段は高くても高付加価値な製品を開発したい」(榎本社長)と、メンバーの思いは一致していた。
3Dプリンターを前にした榎本社長
国内初の3Dプリンター、展示会で脚光
開発ではまず、従来の3Dプリンターの問題点を抽出した。従来品の多くは平面で積層するため、上に広がったオーバーハング形状や球体の造形では、重力による材料の垂れを防ぐサポート材を必要としていた。5軸制御にすれば最適な角度で積層するためサポート材が不要になる。さらに加工も同時に行うため、多面加工で工程集約や高精度加工につながる。従来の3Dプリンターでは難しかった中空の球体なども造形できる。
望月教授の理論をベースに、榎本工業が5軸制御加工技術、C&Gシステムズが積層・切削の各工程を自由に組み立てるコンピューター支援製造(CAM)を開発した。それぞれが高い志で得意技術を結集した結果、プロジェクト立ち上げからわずか1年で、試作機完成までこぎ着けた。
試作機「3D5X-α」はB、C軸を回転させることで、サポート材がなくてもオーバーハング形状や複雑な積層が可能。積層と加工を繰り返すことで、良好な精度、面粗度を得ることができる。用途は比較的、小型で精度が求められる義足用部品など医療分野や航空機部品など軽量構造体の製造や試作への応用が期待される。
3D5X-αは完成直後の6月に都内で開催された「3D&バーチャルリアリティ展」に出品した。その反響は大きく、「これまで自分たちで出た展示会で集まる名刺は80枚ぐらいだったが、1日でおよそその数に達した」(同)という。国内初のハイブリッド3Dプリンターの話題性は高く、人の流れは途切れることがなかった。
2016年6月の実用化を目指し現在、2号機を製作中だ。展示会での“生の声”も取り入れ、加工精度の向上やソフトウエア開発に磨きをかける。
開発には4人を専任とし、本業が忙しくても開発に集中できる環境を整えた。今後は海外の展示会にも積極的に足を運ぶ方針だ。「特に欧州で先行する3Dプリンターを勉強し、協力できる部分があれば連携もしていきたい」(同)と意欲を見せる。「ターゲットとする市場は決して大きくはないニッチ市場。そこで確実に存在感を発揮できる製品を完成させたい」(同)と、目を輝かせる。