農業ビジネスに挑む(事例)

「セガレ」都会のセガレが贖罪の思いを込めて地元・実家の農業を支援する

  • 地元や実家の農産物を都会のマルシェで息子・娘が販売する
  • 郷土愛を喚起する農産物カタログギフトでビジネスモデルを構築

実家が農業をしているが、あとを継がずに東京で暮らしている。果たしてこれでいいのだろうか。そんな思いの息子(セガレ)・娘(セガール)が、自らの後ろめたさを親孝行・地元孝行に換えることで払拭しようというユニークな農業支援プロジェクトがある。「セガレ」だ。

セガレは、それぞれの理由から地元に戻れず、家業(農業)を継げずにいる子どもが、せめて週末に実家(両親)や地元の農産物を都会で売ることに贖罪の意味を見出し、同時に地元や農業への愛着を再確認する活動にもなっている。

このユニークなプロジェクトを始めたのは、ビジネススクール「スクーリング・パッド農業ビジネスデザイン学部」で知り合った3人の青年、児玉光史さん、名古屋敦さん、渡沢農さんだった。実家の農業を継がずに東京で働く3人は、互いの境遇に意気投合するなか、地元と両親に役立つ活動としてのセガレを思いついた。

東京のマルシェで地元・実家の農産物を販売する「セガレ」

周囲から浮いていた野菜の売り子

そこで3人は2007年9月にセガレを立ち上げ、初めてマルシェ(市場)で実家の野菜を売った。それぞれの実家からトマトやきゅうり、たまねぎなど集められるだけの野菜を集めて陳列。周囲の出展者は農業生産者や販売者などその道のプロばかり。素人然とした3人の売り子はちょっと浮いていた。が、懸命に野菜を売る彼らの心境を児玉さんは述壊した。

「自分たちは生産者ではないので、栽培方法などは詳しく伝えられない。ただ小さい頃から親(生産者)を見てきているので、そういう思いを伝えられたらなと思いました」

セガレの発足以降、毎月のペースでマルシェに出展するうち、その活動がマスコミに取り上げられたり、自らWebサイトを立ち上げたことでセガレは徐々に世間に知られていった。そして、農業生産者の息子や娘が集まり、それぞれの実家や地元の農産物を児玉さんたちと一緒にマルシェで売るようになった。

「今の仕事を続けていれば安定した生活を送れるものの、やはり心のどこかで実家のことが気になっている。家業を継ぐことは楽な道ではないと知りながら、それでもどこかでその可能性を追い求めている。そんな人たちの集まりになっていきました」

実際、児玉さんたち3人もそれぞれに職業をもちながらセガレの活動をしていた。スタート当初のセガレは地元・実家の農産物を販売することが主体だったが、やがて同じ境遇の人たちが想いを共有するコミュニティの場ともなり、さらに家業を継いだとき、地元に戻ったときの事業戦略を考える勉強の場へと多様化していった。

事業の核を見出した

現在では約100人の若者(平均年齢25-30歳)がマルシェで農産物を売る。年会費6300円で出展資格を得て、毎月1回、自由が丘のインテリアショップ前で催されるマルシェに出展する。

「家業を継ぐかどうか、地元に戻るかどうかを頭だけで考えていてもなかなか踏ん切りがつきません。それよりも、親がつくった野菜や地元の知り合いから仕入れた野菜を自分で値付けしてマルシェで売り、お客さんの反応を直に感じ取ることが重要-です」(児玉さん)

そんな直売の経験を積んできた児玉さんは、消費者の多様なニーズを見聞きするなかから、息子(セガレ)・娘(セガール)が地元に戻った際の事業の核になるアイデアに行きついた。地元に戻り単に実家の農業を継ぐだけでは将来を設計するのも厳しい。が、販路を開拓できかつ利益を生める事業があれば、家業を継いでも自らの将来像を描きやすくなる。

「結婚式のギフトがヒントになり、地域の農産物のカタログギフトの事業はどうかと考えました」

消費者には日常の食材としての野菜に対して節約心理が働くが、それがギフトとなるとその心理は緩和される。多少高価でもギフトなら贈ろうと思うだろう。しかも、地元の農産物ならばその住人もしくは関連する人、興味のある人には購入してみようという心理が働くはずだ。また、地域性を打ち出した農産物のカタログギフトなら独自性もある。これなら有望な事業にできる。

「セガレの活動をしながら、地元に戻ったセガレ、セガールが取り組める事業を模索してきましたが、地域のカタログギフトであればチャレンジする価値はあるかなと考えました」

2012年4月に児玉さんは名古屋さんとともに「地元カンパニー」という会社を設立し、前職のサラリーマンから経営者へと転身した。

カタログギフトは10-15枚のカードで1セットとなり、片面に生産者の親子関係など、片面に商品への思いが載せられている

リアル/バーチャルの販売チャネルとオリジナル事業で農業を支援

カタログギフトには、地域の独自性を謳った「地元のギフト」と生産者親子の顔が見える「セガレのギフト」の2種類がある。カタログは10-15枚のカード(=10-15商品)で1セットになっており、受け取った人がその中から好みの商品(野菜、米、加工品など)を選ぶ。カードは商品の写真とその説明だけでなく、セガレのギフトの裏面には生産者親子、地元のギフトのそれには生産者の人間関係(親子、親戚、友人など)が紹介されている。親子で語る、親戚、友人と語る商品への思いを掲載することで郷土愛の訴求を図ろうというものだ。

カタログギフトのビジネスモデルはつぎのようだ。まず、同社が初期費用をその地域の事業者(セガレ、セガールや地域の振興公社など)から受け取り、カタログギフトを制作して事業者に納入する。カタログギフトは事業者が販売し、その販売益を事業者が得る。また、カタログギフト販売後の商品の受注、出荷管理、代金の回収を同社が手数料10%で行う。現在、地元のギフトは「東信州のギフト」のみだが、2013年2月に「小豆島のギフト」、さらに2013年度中に10以上の地域のギフトを販売する予定だ。

また、ギフトとは別に地元・実家の農産物を同社の通販サイト(地元商店)でも販売していることから、カタログギフトをきっかけにWebサイトを介してリピーターを獲得する持続可能なビジネスモデルにできるとしている。

それにより地元カンパニーは現在、リアルおよびバーチャルの販売チャネルとしてマルシェと地元商店の運営、そしてカタログギフトというオリジナルな事業により、東京にいながらそれぞれの地元の農業支援を幅広く展開している。

企業データ

企業名
セガレ(運営会社:株式会社地元カンパニー)
代表者
児玉光史
所在地
東京都渋谷区渋谷1-17-1 TOC第2ビル805