中小企業応援士に聞く

「会社はお客様のために」の理念が成長の原動力【新産住拓株式会社(熊本市南区) 代表取締役社長・小山英文氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2022年 9月12日

木の温かみを感じる新産住拓の住宅
木の温かみを感じる新産住拓の住宅

1.事業内容をおしえてください

人吉・球磨地域の山から切り出し、地産地消の住まいづくりを展開
人吉・球磨地域の山から切り出し、地産地消の住まいづくりを展開

熊本市で住宅メーカーとして注文住宅の建設・販売を展開している。熊本県警の警察官だった父が人々の生活の基盤である住まいづくりを通じて郷土の発展に貢献しようと1964年に創業した。宅地分譲の事業がスタートだったが、1973年に住宅建築に参入。注文住宅を手掛けるようになった。現在の社名を「住拓」としたのは1976年。「お客様にとって最良・最適な住まいとは何か」を常に探求し、より良い住まいを開拓し続ける、という思いを込めたものだ。

当社がつくる家は「本物の木」にこだわっている。人吉・球磨地域の山から切り出した木を天然乾燥させ、最良の木材に仕上げている。工場で木材を切断・加工するプレカット工場をいち早く開設し、木材の複雑な流通経路を簡素化した産直システムを構築しており、お客様に最良の住宅を適正な価格で提供できる供給体制を整えている。地元・熊本県産の木材を使用した地産地消の住まいづくり、赤ちゃんにも安全・安心な健康住宅は多くのお客様のご評価をいただき、創業から建築した住宅は累計6000棟に上っている。

2.強みは何でしょう

健康・耐震性を追求した住宅は高い評価を得ている
健康・耐震性を追求した住宅は高い評価を得ている

「会社はお客様のためにある」。一番の強みは、創業以来58年にわたり、この理念を貫いて経営していることだ。創業者である父は警察官を退官後、会社を創業するまでの間の2年間、叔母の洋装店の手伝いをしていた。この言葉はその当時教えられたもので、今も当社の理念・原点になっている。

「損得より先に善悪を考えよ」も創業来の大事な考え方。1990年代、シックハウス症候群が社会問題になった際、化学物質を含む材料をできるだけ使わず、自然素材を活用した住まいづくりにすぐに切り替えた。阪神大震災の際も、私も社員と共に現地を確認に行った。被災状況を目の当たりにし、耐震性を強化する必要性を痛感し、仕様を一気に変更した。その後も震災が起きる度、現地を視察し災害に強い住まい、安心安全な住まいづくりに務めてきた。「お客さまが望んでいる」と考え、損得を度外視して取り組んできたことで、熊本地震でも地震の揺れによる倒壊は1棟もなかった。

渋沢栄一の「論語と算盤(そろばん)」で例えると、「論語」と「算盤」半々ではなく、当社は「論語」95%の世界。勤めていた会社を辞め、この会社に入ったときは、その徹底ぶりにカルチャーショックを受けたほどだった。だが、その理念経営を続けてきたからこそ今の成長があることは紛れもない事実だ。58年の歴史の中で、経営が厳しい時期もあった。その時に支えてもらったのは、当社の経営を高く評価してくれたお客様であり、取引先だった。2006年に父から会社を引き継いだが、この理念を守り続けることが肝心だと考えている。

3.課題はありますか

多良木町にあるプレカット工場
多良木町にあるプレカット工場

世の中の変化のスピードが速すぎる。過去20年間で変化してきたことがわずか2年で起きようとしている。新型コロナウイルスの感染拡大がお客様の行動に大きな変化をもたらしていることもその一つだ。20年分の変化への対応を2年で起こさないといけない。ここが大きな課題となっている。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)を急いでいるが、なかなかスピードが上がらない。例えば、工事の進捗確認も現場の担当者が現場に足を運んでいたが、この作業をデジタル化し、現場の大工の棟梁がスマートフォンや360度カメラで撮影した写真で確認する仕組みの導入を進めている。だが、現場の職人みなが新しいシステムを上手に扱えるわけではない。高齢の棟梁にはスマホの使い方から教えないとうまく進められない。こうしたケースは事業のさまざまな分野に及んでいる。優秀な大手のライバル会社とは戦うにはもっとスピードをあげないといけない。

4.将来をどう展望しますか

熊本市内にある新産住拓の本社
熊本市内にある新産住拓の本社

人口の減少に伴って、新設住宅着工戸数は将来的に減少することが見込まれている。このため、リフォーム、リノベーションへの対応を急いでいる。現在、リフォームの分野は10億円くらいの売り上げだが、これを数年後には1.5倍に増やしていきたい。

従前から24時間365日体制でアフターサービスの対応を取り、お客様の困りごとにすぐに対応しているほか、これまで手掛けたすべての住宅を年に2回直接、全社員で訪問して話をうかがう取り組みを続けている。だが、それだけでは、リフォームの受注にはつながらない。社内の組織を整え、人財を投入して、ノウハウを蓄積しないとできない。

住宅は、居住者のライフサイクルに合わせて、だいたい40~50年で転機を迎える。建て替えであったり、リフォームであったり、貸したり、売却されたり。さまざまな選択肢が出てくる。次の世代に住宅がバトンタッチされ、新たなサイクルが始まる。その選択肢の中で、当社が積極的にかかわっていけるような事業展開を進めている。この事業を「ライフサイクルサポート事業」と独自に名付けているが、この事業を展開していきたい。50年継続して付き合うというのは並大抵ではないが、それをやろうと考えている。

5. 経営者として大切にしていることは何ですか

「会社はお客様のためにある」という理念を掲げ経営に取り組む代表取締役社長の小山英文氏
「会社はお客様のためにある」という理念を掲げ経営に取り組む代表取締役社長の小山英文氏

企業にとって大切なことは、最終的には存続することだと思っている。存続しないと顧客にサービスできず、社員も顧客も関係者も困る。存続し元気な100年企業を目指す。私は50代半ばなので、40年後は生きていないかもしれないが、100年企業を目指せるような組織・人財を残すことが、私の経営者としての役割だ。

「会社はお客様のためにある」という理念を支えているのは「社員」だと考えている。理念経営を実践するのは社員であり、社員に理念を浸透させないと継続はできない。「お客様を幸せにするのは社員」。父は私にも、社員にも厳しい人で、それまでは言っていなかったが、父から経営を引き継いで以降、「社員を大切にする」ということを大前提に経営に取り組んでいる。お客様は大切。それに加えて、社員のメンバーが幸せになり、成長する会社になる。働きたい会社ナンバーワンになることを目指す。このきれいごとをどれだけできるかが二代目の役割だと思っている。

6.応援士としての抱負は

経営者仲間と話をするときに人財教育が話題に上ることがよくある。中小企業は人が少ないので、大企業のように人財教育を充実させるのはなかなか難しい。当社は、中小企業大学校人吉校を積極的に活用して社員をスキルアップさせてきた。経営者コースや管理者育成コースなどに年間10人以上の社員を派遣して、ビジネスのスキルを学んでもらっている。

中小企業大学校への派遣は立候補制で面談して決めている。研修を修了した後も報告書を提出させるなどフォローアップしているのだが、その後の働きぶりがずいぶん変わってきて、研修の効果を実感している。ライバル企業を含め、取引先など当社の関係がある中小企業の経営者の皆さんには、積極的に大学校の活用を呼び掛けていきたい。

企業データ

企業名
新産住拓株式会社
Webサイト
設立
1964年(昭和39年)
代表者
小山英文 氏
所在地
熊本県熊本市南区近見8-9-85
Tel
096-356-1500

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