中小企業応援士に聞く

「仁方ヤスリ」の伝統を新商品に【株式会社ワタオカ(広島県呉市)代表取締役社長・綿岡美幸氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する 全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2021年5月12日

綿岡美幸代表取締役社長
綿岡美幸代表取締役社長

1.事業内容をおしえてください

なめらかな仕上りが特徴の「爪やすり」
なめらかな仕上りが特徴の「爪やすり」

ヤスリの出荷量、国内シェア70%といわれる広島県呉市仁方で、1890年(明治23年)に創業し、130年の歴史を持つ。のこぎりの目立てに使う両刃ヤスリを中心に鉄工用、細工用、木工用のヤスリを製造するほか、技術を活用して爪ヤスリ、かかとヤスリ、ネコ用の「ねこじゃすり」などの新商品も開発している。

「仁方ヤスリ」は1867年(慶応3年)、刀鍛冶職の綿岡嘉作の次男・梶山友平が大阪でヤスリの製造技術を習得した後、仁方にその技術を持ち帰ったのが最初といわれる。刀鍛冶であった先人が変わり行く時代の流れに沿い、新たに両刃ヤスリをつくり始めたものと思われる。現在もノコ目立てのプロとともに培ってきた確かな生産技術と、良い道具を作るという誠実な志を大切にしている。

2.強みは何でしょう

なでると気持ちよくなる「ねこじゃすり」
なでると気持ちよくなる「ねこじゃすり」

ヤスリの技術を応用した新しい商品作りだ。ヤスリの技術と柔軟な発想を組み合わせて、新しい用途の商品を開発していることが、当社の最大の強みだと考えている。

例えば、2012年に発売した爪の手入れをする「なめらか爪やすり」は、3方向からヤスリの目を立てる高度な製法で作っている。ヤスリ面は小さな刃の集合体だが、3方向から目を立てていることで、爪断面の細胞を壊すことなく削り、これ1本でなめらかな仕上りになる。あらゆる方向からでもスムーズに削れ、十分な切削力が備わっているのも特徴だ。地域産業資源活用計画にも認定されており、中学校の卒業の記念品として活用されたり、ふるさと納税の返礼品にも選ばれている。

また、最近のヒット商品である「ねこじゃすり」は、実はキッチン用のヤスリの試作から生まれた商品だ。最初は樹脂製のヤスリを試作したが、切れ味が悪く、使いにくいため開発を断念した。2年くらいお蔵入りしていたが、何気なく飼い猫をなでてみると気持ちよさそうなので、「ねこのグルーミング用」としての開発を思い立った。

3Dプリンターで試作を繰り返し、途中から中小機構の「商品力向上会議」にも参加して商品をブラッシュアップした。最終的に開発した形状は、特許と意匠を取得している。完成後はクラウドファンディングも活用し、これまでに17万本を販売した。コロナ禍でも「おうち時間」の需要があるせいか、売り上げは落ちていない。この商品もふるさと納税の返礼品となった。20年2月にチャリティー商品として新色のイエローも発売した。

3.課題はありますか

ヤスリに「目」を入れていく目切り工程
ヤスリに「目」を入れていく目切り工程

職人の技術の伝承が最大の課題だ。当社だけでなく、地域全体でも高齢になった職人の技術を引き継ぐ人材がいない。このため、技術を伝承できる機械を開発・導入することで、乗り越えようとしている。

例えば、戦後に導入した機械は古く、微調整に時間がかかる。これをNC(数値制御)で数値化して短時間で調整可能にする。また従来の機械は目切できる大きさに制限があり、ヤスリの大きさに合わせて何台も機械が必要。1台で色々な大きさに対応できる機械を導入することで解決する。地域の技術を伝承することも、当社の役目だと考えている。

4.将来をどう展望しますか

ヤスリの新しい楽しみ方を提供できるような商品づくりを目指している。取扱商品を「じゃすり」という新しい道具として販売できるようコンセプトを練っているところだ。2021年秋に完成予定の新社屋では、私たちもお客様も作ることが体験できるようなスペースを設けようとしている。「作ること=考えること」として、他社とのコラボレーションも想定している。新商品が完成したらクラウドファンディングへの再チャレンジも考えている。

5.経営者として大切にしていることは何ですか

熟練の職人技の継承が課題だ
熟練の職人技の継承が課題だ

地域の子どもたちには「作る楽しさを感じてもらいたい」という思いがある。今年はコロナ禍で開催できなかったが、例年は見学に来た小学生に自分の手に合わせた箸作りを体験してもらっている。「仁方ヤスリの出荷量は国内シェア70%」であることを地元の方たちに知ってもらい、使ってもらうことで、愛着を持ってもらい、技術の伝承をしつつ、新商品の開発も精力的に進めたい。

職人さんの仕事やアイデアをとぎれさせない最高品質の両刃ヤスリには、当社独自のノウハウや知恵がたくさん詰まっている。ヤスリを毎日使う職人さんたちの声に誠実に耳を傾け、より良い製品を目指して、日々努力し続けてきた先人に習い、作る人々と使う人々がともに思いやり、思いあう時代になるよう、これからも「削る・磨く・摺り込む」を通じてものづくりのお役に立ちたいと願っている。

6.応援士としての抱負は

これまでの私どもの取り組みについて、他の事業者にもお役に立てる事柄はお伝えしていき、一緒に活動していけると嬉しい。

企業データ

企業名
株式会社ワタオカ
Webサイト
設立
1967年(昭和42年) 創業1890年(明治23年)
代表者
綿岡美幸氏
所在地
広島県呉市仁方西神町12-20
Tel
0823-79-1520

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