経営課題別に見る 中小企業グッドカンパニー事例集

「(株)KAKERU CREATIVE STUDIO」デザインで企業課題解決

KAKERU CREATIVE STUDIOはクリエイティブな手法によって企業の課題解決を目指している、設立2年目のスタートアップ企業。感覚・スキル・地域・時代といった概念を掛け合わせながら、新しいクリエイティブの可能性を模索している。顧客自身も自らのニーズを明確化できないような時代の中で、マーケティング戦略の最前線で戦っているデザイン会社の挑戦に迫る。

この記事のポイント

  1. クリエイティブを起点として領域横断的にアプローチし、企業の課題を解決
  2. 顧客自身が言語化できないニーズを顕在化させるところから関与する
  3. 課題解決を図るため、案件に応じて積極的に外部の人材と協業する
富樫航海代表取締役(左)と比嘉洋介代表取締役(右)

クリエイティブによる課題解決

KAKERU CREATIVE STUDIO(以下、KAKERU)は、グラフィックの富樫航海さん、空間デザインの比嘉洋介さん、撮影制作の佐藤邦幸さんの3名が2017年3月に立ち上げたスタートアップ企業である。一般的にデザイン会社は1つの分野に特化することが多いが、同社では企画・制作の段階から積極的に関わることで、デザインを起点にした課題解決方法を提案している。例えば、店舗改装に企画段階から参入し、空間デザインから完成後の映像プロモーションまで一気通貫で関与することにより、ブレのないブランド戦略をサポートしている。

まだまだ、日本人はよい物を作りさえすれば売れるという考えが根強くある。そのため、デザインに対するコストのかけ方はお化粧を施すくらいの発想しかなく、戦略的なアプローチをとっている企業は少ない。 「デザインの日本語訳は『意匠』。つまり見た目を整えることです。そこも当然だけど、やるなら本当に課題解決のためにデザインしたい」と代表取締役の富樫さんと比嘉さんは語る。

「クリエイティブでは本来、ロジックを示す必要があります。あるお寿司屋さんの空間提案時も、出店先はこういう街で、徒歩圏内に多くの競合がいて、各店の客単価はいくら。入居するビルには個性豊かな店があって、そこで負けないデザインで、目標とする価格設定にするには、このくらいのクオリティのデザインが必要じゃないか、こういう客層のようですから、その方たちが楽しめるデザインがいいですよ、などと論理展開したうえでコンセプト作りの話をしています」(比嘉さん)。

顧客店舗の商圏分析や他のテナント分析などを踏まえて、空間・内装をデザインする

KAKERUは、課題解決の手段にはこだわらない。空間設計で依頼がきても「これはグラフィック重視でやった方がよいのでは?」と提案する。その瞬間は顧客に違和感を与えたとしても顧客と素直なコミュニケーションをとることが最終的な課題解決へ結びつくのだという。

同社が手掛けたウェディングアルバム、大学研究室、美容院

「オーナー様の好きなテイストでデザインされた空間というのは、伝えたいブランドの魅力であることも多いので、論理一辺倒でなく、感覚的な部分も大事にしています。お客様自身がうまく説明できないけどやりたい、という部分を、わかりやすい言葉に翻訳するのがクリエイティブの解決の仕方だと思っています」(比嘉さん)。

顧客の思いを形にする

スタートアップ企業は顧客基盤も経営資源も脆弱なものだが、設立2年目のKAKERUはどのように対応しているのだろうか?

KAKERUはロゴ制作から大学研究室の空間デザインまで多種多様な受注を獲得しており、今はドバイの飲食店からも引き合いが来ているのだという。口コミからの紹介が多く、単に雑談しているだけで「富樫さんのところっておもしろそうだよね」と受注に繋がることもあるそうだ。

有り体に言えば顧客ニーズを捉えているということなのだが、この「顧客ニーズ」が曲者である。

デザイン会社の中にはあらゆるニーズにも対応できるよう総合スーパーのようにさまざまな手法を備える会社もあるが、ただ単に選択肢が多いだけだったり、得意分野に寄せるための導線としてメニューを用意しているだけだったり、いずれにせよ目的よりも手段を優先してしまうことが多い。専門性こそが彼らの競争優位性だからである。

それが顧客ニーズにフィットするものであればよいが、現代のマーケティングの難しさは、顧客自身も自分のニーズを分かっていない場合があるという点にある。KAKERUがスタートアップ企業にも関わらず、口コミからの紹介や雑談から受注につなげられるのは、顧客がどう伝えていいか分からないモヤモヤとした思いを形にして解決に導いているからなのだ。

「×(かける)」

とは言え、導き出した解決策(手段)が自社の経営資源にないときはどうするのだろうか?

「ブランディングに強い人と一緒に組んだ方がいいケースだと、外部から信頼のできる方を連れて来て一緒にやるんです。当然、全体のコントロールはKAKERUで責任をもって行います」(富樫さん)。

経営理論の世界では、環境変化に応じてパートナーを組み替えていく「ダイナミックネットワーク組織」という概念が存在するが、そうした考え方に近いのかもしれない。そもそも、社名の「KAKERU」は、感覚を掛け合わせる、スキルをもった人々との掛け合あい、時代の架け橋・・・「×(かける)」という意味である。その意図はロゴにも込められている。

ビジネスモデル図。ロゴは「×(カケル)」を表す

こうした話をするとKAKERUはディレクションを優先しているように見えるが、専門性が低いわけではない。それぞれがフリーで十分生きていける人材が揃ってできた会社である。専門性を深化させつつ、視野を拡げる。相反する性質を高めることが課題解決に必要であるからこそ、共同で会社を設立したのである。

少しエモーショナルな表現をするのならば、KAKERUはJAZZのセッションのような会社である。一個一個の演者として最高の技術を追求しながら、掛け合わさることによりさらに豊かな音を奏でる。ときにほかの演者を加えながら、『その時の最高のパフォーマンス』を目指すプロ集団なのである。

企業データ

企業名
株式会社 KAKERU CREATIVE STUDIO
Webサイト
設立
2017年3月
資本金
51万円
従業員数
0名
代表者
富樫 航海、比嘉 洋介 ※取締役として佐藤 邦幸
所在地
東京都目黒区祐天寺1-15-4

中小企業診断士からのコメント

グラフィックの富樫さんと撮影制作の佐藤さんは幼馴染だが高校以降は接点がなく、富樫さんと空間デザインの比嘉さんは東京デザインプレックス研究所出身だが、在籍期間はかぶっていない。卒業後に、学校長の計らいで引き合わせてくれたのだと言う。「友だち関係から入っていたら遠慮するかもしれないですけど、結構ビジビシ議論しています」と語る富樫さん。起業時は、過去の関係よりもビジョンのすり合わせができる相手であるかが重要である。

小澤 朋道