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「株式会社コラボラボ」12年で2400人の女性社長を支援

2006年に創業したコラボラボは、これまで2,400人の女性社長を支援してきた。政府や自治体、大学でも起業教育・女性起業家の育成・支援とその重要性を発信してきた、横田響子社長にお話を伺った。

株式会社コラボラボ代表取締役/お茶の水女子大学客員准教授
横田響子(よこたきょうこ)

成功とはなにか

—— 横田社長ご自身も起業されています。多数の女性社長と接して「成功の法則」はあると思いますか?

女性社長が面白いのは「何をもって成功と言うか」、一般常識とはちがうことです。売上だけでは成功を測りづらく、ライフも含めた充実度が「自分なりの成功」の基準になっているように思えます。

ひとつ例を挙げますね。ある女性社長は、お菓子の「あられ」を販売していました。最初はワゴンおよびネット販売から始めて、首都圏の駅ビルでも人気になり店舗を増やしていました。それが、出産を機に小売から、商品開発コンサルティング業に転じる選択を現在しています。お菓子に関わる知見と経験を活かして業態を変えたわけです。

一般的な起業の成功基準では、店舗を増やし、スタッフを増やし、売り上げを増やしていくと思うでしょう。でも、この社長は違う道を選び、とても幸せそうです。

—— ライフステージに合わせて、自分のスキルを活かして働けることが「自分にとっての成功」ということでしょうか?

そう思います。実は、女性の場合、妊娠中に起業の決断をすることもあります。最初は「ならし運転」のように始める人もいますし、子どもが生まれてから、ゆるゆると続ける人もいます。中には、離婚を機にアクセルを踏んでガンガンいくようになる女性社長もいます。

多くの女性社長のお話を聞くと「ワークとライフをトータルで考えた幸せ」を、考えていると思います。

—— 「ゆるゆると」という表現は、とてもしっくりきます。

男性が起業する場合、最初からお金を使うことが多いです。立派なオフィスを借りて人を雇って、融資や資金調達を受けようとする。一方、女性が起業する場合は、慎重なことが多いです。担保がないので貸してもらいにくい、ということもありますが、融資は3年目くらいから、事業で実績が出てから受ける。

面白いのは、ゆっくりした起業が持続可能な経済を作ることにつながっていることです。2013年の日本政策金融公庫のアンケート調査によると、創業5年後を見た場合、女性社長の方が男性社長より黒字が多かった。コストをかけず、小さくても利益を積み上げていくのでしょう。

起業支援と時代の変化

—— 最近、政府も女性の起業支援に力を入れているようです。

2010年頃から政府や自治体の起業セミナーが増えてきました。政府系機関は、結婚や出産で家庭に入った女性の復職を進めたい。ただ、ブランクが長い女性が勤務先を見つけるのは簡単ではない。それなら起業の支援をしよう、という流れだと思います。

最初は、男性と同じように支援していたようですが、違いが見えてきて、行政側も女性の特色を考えた企画をするようになってきたのではないでしょうか。

女性の起業支援に関するアドバイスは、シンプルです。起業家に対しては、人脈を大事に、ネットワーキングしましょう、支援者には、融資のハードルを下げましょう、ということです。

—— 小さく慎重に始める他に男女の違いはありますか?

性別より、職務経験の違いが影響するように思います。私は2004年までリクルートに勤務し、新規事業や事業企画を経験しました。会社を辞めた後、女性社長たちにお話を聞いているうちに、自分が会社員として経験したことが貴重だったことに気づきました。

企画書を書いたり、プロジェクトマネジメントをした経験は、起業する時、生きます。そしてこれらは、一般的に言って女性が経験する機会が少なかった、と言えるかもしれません。

—— 女性起業家の支援を12年やってきて、トレンドの変化を感じることはありますか?

層が厚くなってきた、と思います。

2000年までは、飲食店などお店を始める方が多かったと思います。目に見えやすいビジネス形態だからです。

2000年代に入ると、インターネットを活用したビジネスで起業する女性が増えてきます。その後は、層が厚くなっている要因となる2つのパターンがあると見ています。1つ目は、ベンチャー企業で、もまれてきた人が独立するケース。もう1つ目は、雇用機会均等法世代で、長年、企業務めをしてきた方が「組織はもういいかな」と思って起業するケースです。

例えば、メーカーにお勤めだった女性が、お子さんの大学入学を機に3Dプリンタを活用した事業を大田区で始めた例があります。こういう方は、経験も知識も人脈もしっかり持った状態で起業されています。

さらに最近、SNSの発達で、起業のハードルが下がりました。

そもそも、何をもって「起業」というのでしょうか? 例えば、自分の「お店」のFacebookページを作って、10個商品を並べて「売る」というボタンをつけるだけで、事業を始めることはできます。

今、私たちが事務局になり、日本全国の女性起業家の方と一緒に、Facebook社と共に女性の起業支援をしています。「#起業女子」で検索していただくと、お近くの地域で開催しているセミナーを探したり、過去のコンテンツも見られます。

起業家、支援者へのアドバイス

—— 起業したいと思っている女性にアドバイスをいただけますか?

最初は「この製品でビジネスになるか?」分からないかもしれません。他人に意見を聞くときは、できるだけ、分かりやすい形にするのがいいと思います。試作品を見せて「これをどう思いますか?」と尋ねる方が、イメージを口頭で伝えられるより、意見を言いやすいでしょう。そして、いちばん大切なのは、汗をかいて売り上げと実績を作ることです。

私たちは女性社長と既存企業のコラボレーションを支援していて、それが社名(コラボラボ)になっています。経験が不足しているけれど起業したい、という場合は、机上で勉強するより、ベンチャー企業でインターンをさせてもらう方がいいでしょう。

一方で、ある程度「売れる商品・サービス」を作れるようになったら「値づけ」が大事になってきます。消費者に直接販売する場合は、自分の消費者としての感覚を活かせば良いのですが、顧客が法人の場合は発想の転換が必要になってきます。売上を想定して、一定金額以上はロイヤルティーを受け取るようにする、といった具合に「売れたその先」を考える必要があるからです。

—— 女性の起業を支援する側へのアドバイスもお願いできますか?

まず、個人ですぐにできることからお話しますね。

誰かが面白いアイデアを言ったら「それ、どうやって儲けるの?」とか「ビジネスモデルは?」と冷静に尋ねるのではなくて、アメリカ人みたいに「エクセレント!!」って言いませんか。それだけで、気持ちが明るくなるし、新しいアイデアを言おうって気持ちになります。

行政などで起業支援をする方には、お客さんを広げる時のバックアップをしてほしい。クラウドファンディングを一緒にやるとか、農業女子プロジェクトのように、どうしたらマルシェで売れるか考えてやってみる、といった具合に実績づくりのお手伝いをしてほしいです。理想的には公共調達で女性社長から積極的に買って欲しいと思っています。

そして、起業を志す女性は子育て中の人が多いですから、そちらの支援もぜひ。今の認可保育園の制度は、フリーランスや自営業の人は会社員より不利になります。「起業したいけれど、子どもを預けられないから始められない、就労していないから、保育園に入れない」という、ぐるぐる悪循環に陥ってしまう。ベビーシッター代を経費算入できるようにしたり、子連れのコワーキングスペースを作るのも良いと思います。

また、女性活躍支援全体に、女性起業家支援を位置付けて欲しいな、と思います。女性リーダーというと企業内で活躍する管理職のイメージですが、管理職+起業家併せて35~40%を目指したらいいのではないでしょうか。

日本の大企業には優秀だけれど、面白いこと、を忘れてしまった人がたくさんいると思います。一方、女性社長たちは、非合理的な意思決定をするかもしれないけれど、すごく面白い。ふたつの世界が合わさったら、とても楽しくなると思うんです。