新規事業にチャレンジする後継者

蓄積された技術力で誕生、サブカルでバズった「ウレヒーロー」【斎藤塗料株式会社(大阪府大阪市)菅彰浩氏】

2024年 7月 22日

ゲームプロデューサーから転身し、ヒット商品を生み出した斎藤塗料の5代目・菅彰浩氏
ゲームプロデューサーから転身し、ヒット商品を生み出した斎藤塗料の5代目・菅彰浩氏

1. 事業概要を教えてください

工業用から家庭用に改良した「ウレヒーロー」
工業用から家庭用に改良した「ウレヒーロー」

1927年の創業から今年で97年を迎えた老舗塗料メーカー。曽祖父の斎藤竹重・初代社長が「斎藤塗料溶剤製品所」との名称で立ち上げ、1959年に法人化した。母である斎藤由美子社長は4代目で、私が5代目になる。

商品として現在、BtoBの工業用塗料を中心に設計開発および製造、販売を手掛けている。2023年度の売り上げは約10億円。代表的な塗料は(1)プライマー(下塗り塗料)=パソコンやデジカメ、カーナビなどの弱電関連の金属用防錆密着プライマー(2)汎用上塗り塗料=フタル酸やラッカー系と言われる塗料品種で、ドラム缶や工作機など汎用上塗り塗料(3)特殊塗料=造形やルアー用、ネイル用、鏡用といった特殊な用途に利用する塗料—となっている。

このうち特殊塗料の一つである「ウレヒーロー」は、ゴムや布など柔らかい素材に塗装しても柔らかさが維持される柔軟性・伸縮性に特化した塗料で、2019年に工業用として開発・販売した。当初は販売に苦戦していたが、その後、前職のインターネット関連企業での経験を生かしてSNSを通じて「ウレヒーロー」をPRし続けたところ、「フィギュア用にぴったり」などと話題に。これを受けて、新規事業としてBtoCの家庭用塗料をサブカル造形用塗料として改良し、一般向けに販売したところ、ヒット商品になった。2022年にJAPAN DIY HOMECENTER SHOW 2022(主催:日本DIY・ホームセンター協会)の日本DIY商品コンテストで経済産業省製造産業局長賞と新商品一般人気投票部門第1位をダブル受賞。今年4月には第36回中小企業優秀新技術・新製品賞(主催:りそな中小企業振興財団、日刊工業新聞社)で奨励賞を受賞した。

2. どんな新規事業に取り組んでいますか

どんなポーズでも割れたり剥がれたりしないとコスプレーヤーに大好評
どんなポーズでも割れたり剥がれたりしないとコスプレーヤーに大好評

サブカル造形用塗料「ウレヒーロー」(家庭用)に力を入れている。2022年3月開催の第2回アトツギ甲子園で新規事業として発表し、優秀賞を受賞した。

「ウレヒーロー」は、印刷会社から印刷機のゴムパーツの劣化を防ぐ保護剤を作ってほしいと相談を受けたことから設計開発がスタートした。ゴム用の塗料には柔らかさが必要。当社は元々、少量のオーダーメイド品などニッチな製品を開発することに力を入れており、様々な塗料を設計開発する技術力が蓄積されていて、柔軟性のある塗料を開発した経験もあった。そうした蓄積があったからこそ「ウレヒーロー」が誕生した。また、伸縮するゴム用ということで、最大で300%伸び、伸ばしたりねじったりしても割れない、というような従来の塗料にはない性能が「ウレヒーロー」にはある。この特異な性能で市場を開拓したいと思い、当社の公式X(旧Twitter)に投稿して発信し続けた。

すると、「フィギュアにぴったりな塗料がある」「割れないメッキで衣装に使えそう」などと、思いもよらない用途で話題になった。動画再生数が13万と“バズ”り、問い合わせも殺到した。それまでは知らなかったが、サブカル造形に代表されるフィギュアやコスプレ造形では、レザーやPVC(ポリ塩化ビニル)のような軟質素材に最適な塗料が存在せず、好きなポーズを取ると塗料が割れたり剥がれたりしてしまう不具合が発生しているとのことだった。柔軟性と伸縮性に優れた「ウレヒーロー」であれば問題を解決できる、お困りごとを技術力で解決するのがメーカーの使命だ、と思い、業務用として開発した「ウレヒーロー」を一般販売に踏み切った。

2022年3月に販売を開始したところ、売れ行きは上々で、東急ハンズ新宿店ではわずか2日で完売するという盛況ぶりだった。フィギュアやコスプレ衣装作成を中心とするサブカル造形の愛好者らに高く評価され、現在はホームセンターや家電量販店など全国150店舗以上で販売されている。今後は300店舗を目標にしている。

3. 事業承継をどのように決心しましたか

母・斎藤由美子社長(左)と菅氏
母・斎藤由美子社長(左)と菅氏

東京都内の大学に通っていた2008年に父(3代目社長の斎藤篤氏)が他界し、バトンをつないだのが現社長の母だった。当時、母は斎藤塗料には入社もしておらず、入社後も非常に苦労していた。そのなかで、母からは「30歳ぐらいまでに家業に戻るかどうか決めてほしい」と言われていた。

大学卒業後にいったんは一般企業に就職して、やりたいことをやるようにした。人材サービス会社で営業職を経験した後、ゲームをはじめとしたエンターテイメント事業を行う会社でゲームプロデューサーとして働いた。その後、とくに家業に戻るかを意識はしていなかったが、30歳を迎えた頃、当時の勤務先で社長賞を受賞するなど一定の成果も出し、また私生活では子どももでき、ライフスタイルが変わるタイミングだった。「やはり母の助けになりたい」と思い、東京から実家に戻り、事業を承継するに至った。そのとき母は、正直言って私が帰ってくると思っていなかったので、驚いていた。

4. 後継者の「魅力」や「やりがい」は何ですか

「ウレヒーロー」はカラーラインナップも豊富だ
「ウレヒーロー」はカラーラインナップも豊富だ

あまり後継者だからという括りで仕事をしているつもりはないので、魅力、やりがいと言われると難しいが、客観的に見ると、後継者なので裁量も多く意思決定もできるので、そこが魅力だとは思う。また、事業継承という意味では、会社をお預かりさせていただくことになるので、しっかりと運営し、創業から100年近く続く歴史をしっかりとつないでいければという思いが持てる。そういった点はやりがいにつながっていると思う。

5. 今後の展望を聞かせてください

5代目は3年後の100周年、さらに次の100年を見据える
5代目は3年後の100周年、さらに次の100年を見据える

「ウレヒーロー」については、BtoC領域で認知度が上がったことから、現在はBtoB領域でも成果が出始めている。そのなかでも新しいニーズが見えてきており、その開発を成功させるのが目下の課題だ。今目指す方向性としては、「Design&Development~技術力による市場創出への挑戦~」という理念を掲げており、どんな小さなニーズであってもいいので、開発の依頼が当社に集まり、それを最高品質で生産するという技術集団を目指している。「ウレヒーロー」という塗料はそのきっかけの一つで、様々な技術が当社に集まり、その結果、新市場を創出できるような会社に成長したいと思っている。

3年後の2027年には創業100周年を迎える。まずは「ウレヒーロー」のような当社にしかできない塗料を武器にして収益性を改善していく。そして、次の100年のフィールドは、国内に限定せず、海外展開も見据えて戦い抜いていきたい。その方向性を100周年までの3年の間に見出せればと考えている。

企業データ

企業名
斎藤塗料株式会社
Webサイト
設立
1959年8月(創業は1927年4月)
資本金
2100万円
従業員数
36人
代表者
斎藤由美子 氏
所在地
大阪府大阪市淀川区三津屋北3-2-4
Tel
06-6301-4631
事業内容
各種塗料の製造・販売