農業ビジネスに挑む(事例)

「銀座ミツバチプロジェクト」東京・銀座のどまん中でハチミツを生産する

  • 皇居、浜離宮など周辺には豊富な緑地がある
  • 収穫したハチミツは飲食、化粧品の素材としてのみ使う

東京・銀座のどまん中でハチミツが生産されている。その旗手がNPO法人銀座ミツバチプロジェクト。2006年から銀座3丁目の紙パルプ会館屋上(地上45m)で養蜂を始めた、東京都内における「都市養蜂」の先駆者だ。

銀座っ子魂に火がつく

都市養蜂とは、都会のビルの屋上などに巣箱を設置し、ミツバチによってハチミツを採取する都市型の養蜂だ。銀座ミツバチプロジェクトが養蜂を始めたきっかけはほんの偶然からだった。

同プロジェクトを創始したのが、貸し会議室事業を運営する紙パルプ会館の田中淳夫さんだ。2006年、同会館で開催されたセミナー「食学塾」に講師として招かれた岩手県の養蜂家・藤原さんがセミナーで養蜂場を探していることを吐露した。そこで田中さんが紙パルプ会館の屋上を養蜂場として提案したものの、狭隘すぎると藤原さんからは断られた。

しかし、田中さんはここで銀座っ子魂を発揮。銀座は江戸開府の頃から職人が集う街であり、かつ新しいことには積極的に挑戦する気風がある。そんな銀座っ子魂に火がつき、プロの養蜂家から狭隘を理由に断られたものの、街の活性化にはひと役買えると一念発起。周囲の企業や店舗に打診すると「いいことだ、やってみてください」と承認を得たことから2006年3月28日、銀座ミツバチプロジェクトが発足し、藤原さんの指導のもと、紙パルプ会館の屋上で素人による養蜂が始まった。

東京・銀座という都会のどまん中で養蜂してハチミツを採取する

3カ月限定のつもりだったが…

「最初は少しでもハチミツが採取できればいいと思っていました」(銀座ミツバチプロジェクト広報&Web担当・田中章仁さん)
 当初は3カ月限定のつもりで養蜂を始めたが、意外にも最初のシーズンで100kgのハチミツを採取した。ミツバチは半径3kmを移動して蜜を集めながら花に授粉するが、実は紙パルプ会館からの3km圏には皇居、日比谷公園、浜離宮、そして銀座の並木と豊富な緑地があり、それが養蜂に適していたのだ。

採取したハチミツは銀座のパティシエやバーテンダーなどによってスイーツ、カクテルに使用してもらった。また、老舗・文明堂のカステラの原料などとして採用されたことで「銀座のハチミツ」として知名度が上がり、徐々にブランドとしての価値も築いていけた。

そして翌2007年に260kg、2008年に430kg、そして2010年には900kgとウナギ昇りで生産量を増やしていった。

ミツバチが遊びに行ける環境を築こう

ミツバチが皇居や浜離宮などで蜜を集めるということは、同時にサクラやトチなどの花を授粉させて実をならせ、その結果、そこに野鳥が集まるなど自然環境に好循環をもたらすということもわかった。それを機に養蜂のみならず環境への意識も高まり、銀座ミツバチプロジェクトは2007年に屋上農園プロジェクト「銀座ビーガーデン」を始動させた。「ミツバチが遊びに行ける環境を築く」(田中さん)ことを目的にビルの屋上にミツバチの好きな花や植物を植え、同時に地域の緑化を促す。

現在、銀座に8カ所のビーガーデンが設置され、地方の農業生産者から寄せられた野菜や果物の苗を植え、収穫時に地元の子どもたちに体験してもらうなど、緑化のみならず街の活性化、さらには地方との交流の場として活用されている。ちなみに銀座と地方の交流促進として、銀座ミツバチプロジェクトは2008年から「ファーム・エイド銀座」という都市農村交流のイベントを毎年4回開催している。

「ミツバチが遊べる環境づくりを」と屋上ガーデンが整備される

銀座の自然をありのままに表現

2010年、銀座2丁目のビル屋上に第2養蜂場が設けられた。そして2013年シーズンには1トンのハチミツを収穫した。これは国内のハチミツ生産量の0.03%を占めるという。ただ、一部の例外を除いて銀座ミツバチプロジェクトのハチミツは地産地消をモットーとするため、銀座の飲食店の食材として料理や飲料として提供されるだけだ。

「銀座ミツバチプロジェクトのハチミツは週ごとに味が変わります。それはミツバチが蜜を集める木が異なるからです。味が変わるということは、銀座の季節ごとの環境を召し上がっていただくことでもあるのです」(田中さん)

通常、養蜂はアカシアやみかんなど特定の樹木から採取した蜜を提供するため一定の味を保つが、銀座のハチミツはさまざまな樹木からミツバチが集めた蜜を提供するため1年を通じて味が変化する。それが銀座ミツバチプロジェクトが供するハチミツの特徴であり、銀座界隈の自然をありのままに表現した味なのだ。

企業データ

企業名
特定非営利活動法人銀座ミツバチプロジェクト
代表者
高安和夫
所在地
東京都中央区銀座3-9-11 紙パルプ会館10階