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ハンバーガーから農業、福祉、教育へと前向きに挑戦「株式会社グラディア」

2025年 11月 25日

前向きに進み続けるグラディア創業者の森本麻紀氏
前向きに進み続けるグラディア創業者の森本麻紀氏

高知県の地元食材を活かしたご当地バーガー「龍馬バーガー」で人気を集める「5019(ゴーイング) PREMIUM FACTORY」。同店を運営する株式会社グラディア(高知県高知市)の創業者・森本麻紀代表取締役は、新商品の開発や海外出店といった事業拡大を進める一方で、有機農業や福祉との連携、教育活動にも力を注ぎ、地域と未来を見据えた新たな挑戦を続けている。

座右の銘は「死ぬこと以外はかすり傷」

「5019 PREMIUM FACTORY」高知本店
「5019 PREMIUM FACTORY」高知本店

死ぬこと以外はかすり傷—。波乱万丈の半生を過ごしてきた森本氏の座右の銘だ。現在の高知県香南市出身の森本氏は高校卒業後に実家のギフト店に就職。10代で結婚し、その後、子どもも産まれたが、まもなくして義父が経営する自動車販売会社が倒産。義父が残した借金が原因で森本氏は夫の太一郎氏とともに身の危険を感じる体験をしたという。その際、母から言われたのが「死ぬこと以外はかすり傷」だ。のちにエッセイストが著書などで多用したフレーズだが、「それよりずっと前のこと。私にとっては母の言葉」と森本氏は話す。

やがて夫婦で自動車販売店「ゴーイング」をスタート(2003年に法人化)。店名・社名は「後ろを振り返ってもしかたがない。前に進むしかないという思いから付けた」(森本氏)。自身の車のナンバーも「5019」を指定している。

特産品を挟んで“長身”の龍馬バーガー

龍馬バーガー(左)と強引具バーガー
龍馬バーガー(左)と強引具バーガー

夫婦の懸命の努力で借金を返済し、その後は経営が順調に拡大して2007年に店舗を移転した。その際、「若い女性にも気軽に来店してほしい」と森本氏は店舗の一角にカフェを併設。看板メニューとして、店名をもじり、「これでもか」というほど肉や野菜などの具を強引に挟み込んだ「強引具(ごういんぐ)バーガー」、さらに、高知出身の幕末の志士・坂本龍馬から命名した「龍馬バーガー」を考案した。

通常のハンバーガーには使用しないナスやピーマン、カツオといった高知の特産品をふんだんに挟み込み、当時としては長身だったと言われる龍馬のように約20cmの高さがある「龍馬バーガー」は、高知のご当地バーガーとして人気商品に。やがて自動車販売店の客から「高知市の中心街に店を出さないか」と勧められ、2009年に「5019 PREMIUM FACTORY」高知本店を開くとともに、運営会社としてグラディアを設立した。

ハワイでポップアップストア、香港に2店オープン

ホノルルでポップアップストアを開設
ホノルルでポップアップストアを開設

いち早く海外に目を向けた龍馬のように、森本氏は海外進出を狙った。目標は、小学6年生の時に家族旅行で訪れたハワイだ。「商売に忙しく、私たちを旅行に連れて行けなかった両親が、やっとの思いで出かけた先がハワイだった」と振り返る森本氏は、その帰国前日に「いつかハワイで暮らしたい」との夢を抱いた。そのためには現地で生活基盤を築く必要があることから、ハワイ出店を目標に掲げたのである。

2013年には、ホノルルのアラモアナセンターでポップアップ(期間限定)ストアを開設。ハンバーガーの本場に逆上陸した格好だが、日本らしい繊細な味付けと丁寧な具の乗せ方が日に日に評判を呼び、盛況のうちに出店期間を終えた。本格的に出店したいと考えた森本氏は高知県内の金融機関に融資を申し込んだが、海外展開の実績がないとして断られた。

そこで着目したのが香港だった。「日本からのアクセスが良く外国人が起業しやすい環境が整っていた」として現地の日本人商社マンらの協力を得て2017年に香港に出店した。すると、ハワイと同様、ハンバーガーの売れ行きは上々。なかでも「龍馬バーガー」は、中国の旧正月に龍と馬の飾り物が使われることもあって、縁起がいいとして人気を博した。その2年後には2店目がオープンした。

コロナ禍に新商品開発、国内2号店もオープン

「5019 PREMIUM FACTORY」南国店
「5019 PREMIUM FACTORY」南国店

2020年からのコロナ禍は大きな変化をもたらした。まず香港での営業だ。コロナ禍で客足が途絶え、さらに香港をめぐる政治情勢も加わり、先行きが不透明になった。「香港はあくまでハワイ進出のための実績づくり」(森本氏)だったこともあり、最終的には2024年に撤退した。

一方で新商品を開発した。コロナ禍に“おうち時間”が多くなり、森本氏は自宅でバーベキューを頻繁に行った。その際、ショウガとニンニクをたっぷり入れ、化学調味料を一切使わない焼き肉のタレを自作したところ、「おいしい」と評判に。SNS上でも話題になり商品化した。タレのほか、だしやケチャップなど「万能」シリーズとして販売されている。2024年にハワイで再びポップアップストアを開いた際には、ホノルル市内の店舗に営業活動を実施。現在は4店舗で「万能だし」などが販売されている。

さらに2022年、事業再構築補助金を活用し、高知市の東側に隣接する南国市に国内2号店となる「5019 PREMIUM FACTORY」南国店をオープンした。幹線道路から外れて周囲に農地が広がり、飲食店には不向きと思われる立地だが、同店はその後の新たな取り組みの拠点にもなっていく。

南国店を拠点に新たな取り組み

有機栽培農業で野菜作りに取り組む森本氏
有機栽培農業で野菜作りに取り組む森本氏

森本氏は、本格的に加工食品事業を手掛けるほか、新たに二つの取り組みを始めた。一つが農業だ。「飲食業を手掛けて強く感じているのが食の大切さ」と森本氏は訴える。とくにハンバーガーは栄養バランスが悪いジャンクフードの代表とも言われることから、マイナスイメージを払拭したいとして、数年前から農薬を使用しない有機栽培農業をスタート。自宅敷地のほか、南国店の隣接地など、それまで耕作放棄地だった農地を使い、森本氏は仕事の合間を縫って、ほぼ一人で農作業に精を出している。収穫された野菜は、店舗で提供されるハンバーガーなどに使用されている。「日本らしく安心・安全な食材を使って、ハンバーガーのイメージを変えていきたい」と森本氏は意気込みを語る。

もう一つの取り組みが福祉との連携だ。各種の障害や心の病などを抱えている人たちを支援している芸西病院(高知県芸西村)を通じ、生きづらさを感じている若者たちを受け入れ、農作業に携わってもらっている。こうした農福連携に加え、「商福連携」にも乗り出した。2025年8月には、うつ病などの悩みを抱える2人の女子高校生が南国店でハンバーガー店の仕事を体験した。このうち1人は「人に慣れたい」と配膳などの接客業務を担当。普段は人目が気になってマスクをしているが、この日はマスクを外して笑顔で仕事に取り組んだ。「農業だけでなく、商福連携によって、いろいろな問題を抱えている人たちの仕事の幅を広げていきたい」と森本氏は話す。

次代を担う子どもたちへ「チャレンジする勇気」

アントレプレナーシップ人材育成プログラムの推進大使として講演を行う
アントレプレナーシップ人材育成プログラムの推進大使として講演を行う

前向きに進み続ける森本氏の活動は各方面で高く評価され、2020年に全国商工会議所女性会連合会主催の第18回女性起業家大賞でグロース部門奨励賞を受賞するなど受賞・表彰歴は数多い。そして2025年、文部科学省が進めるアントレプレナーシップ人材育成プログラムの推進大使に就任した。これは、次代を担う子どもたちが起業や社会課題解決に不可欠な「アントレプレナーシップ」を体得することを目的としたもので、森本氏は主に中国・四国地域の中学校、高校で生徒向けに講演を行っている。

その際に強調しているのが「チャレンジする勇気」だ。「初めから自分には無理だと考えてあきらめるのではなく、自分の夢や目標に向けて一歩踏み出すことが大事だ」と訴える。「死ぬこと以外はかすり傷」との座右の銘を持って、いくたびの苦難を乗り越え、自分の夢に向かっている森本氏の言葉には説得力がある。

将来はハワイに住みたい-。子どもの頃に抱いた夢は今も捨てていない。しかし、新たに取り組み始めた有機農業と農福連携・商福連携、アントレプレナーシップ教育、さらに、インバウンド向けの古民家活用プロジェクトをスタートするなど、やるべきことは枚挙にいとまがない。とくに、自身の孫を持ってからは、自分の夢よりも子どもたちの将来に考えをめぐらすことが多くなった。「今は未来への基盤づくりに貢献したい。自分の夢は老後に後回し」と森本氏は話している。

企業データ

企業名
株式会社グラディア
Webサイト
設立
(創業)2009年1月
資本金
100万円
従業員数
約30人
代表者
森本麻紀 氏
所在地
高知県高知市帯屋町1-10-21
Tel
088-872-5019
事業内容
飲食業、加工食品事業、マーケティング商品開発、小売業、WEBデザイン(HP制作、ECサイト)、宿泊業など