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SDGsへの取り組みで売上増や経営力強化も実現【NPO法人環境文明21 顧問/環境文明研究所 所長・加藤三郎氏】<連載第3回>(全4回)

2019年 9月 5日

SDGsに掲げられた目標の数は、「ゴール」だけで17、それをより具体化した「ターゲット」は169にものぼります。それだけに、自社に最適な目標を定めるには、広い視野で、多様な観点から検討が必要です。その際、他社の成功事例に勝るヒントはないでしょう。そこで連載第3回では、中小企業における具体的な成功事例を紹介いただきました。

◆SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかに記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「気候変動」「エネルギー」「教育」など17分野の目標=「ゴール」と、17の各分野での詳細な目標を定めた169のターゲットから構成されており、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択された。2017年7月の国連総会では、各ターゲットの進捗を測定するため232の指標も採択された。

SDGsが掲げる持続可能な人類社会を実現するための17分野の目標

経営リスクを回避し、成長機会を創出する

SDGsは、経済・社会・環境など人類社会の存続に関連した幅広い分野の課題の統合的な解決を目指しています。一方企業にとっては、社会的責任を果たすことで経営リスクを回避する“守り”のツールであると同時に、第2回で挙げたような新たな成長への機会を創出する“攻め”のツールとしても役立ちます。

「これはエネルギー産業の例を考えると分かりやすいでしょう。化石燃料の枯渇や地球温暖化を考えると、今後、永劫に化石燃料による事業を主な収益源にしていくのではリスクが大きすぎます。そこで実際、多くのガス会社や電力会社が、数十年先までを見通して、事業の大転換を図る機会を追求しています」

このようなリスク回避と機会創出が必要なのは、中小企業も変わりません。その実践の好例を加藤氏が顧問を務めるNPO法人環境文明21が主催する「経営者『環境力』大賞」の受賞企業に見ることができます。

SDGs達成を目指し、社会との共有価値を創造

SDGs関連商品のアイデア出しに前向きに取り組む株式会社大川印刷の社員たち

2012年度に同賞を受賞した神奈川県の株式会社大川印刷(資本金2,000万円、従業員約40名)は、SDGsを明確に掲げた経営が特徴の印刷会社です。

「同社は “ソーシャルプリンティングカンパニー”を目指し、石油系溶剤を含まないノンVOCインキと、違法伐採による紙でないことが証明されたFSC森林認証紙を使用。環境や人体にも優しい“環境印刷”という高付加価値のサービスを適正価格で提供してきました」

受賞後も、17ゴールを整理した「SDGsを忘れないメモ帳」など、SDGsと関連する新製品を開発。こうした取り組みによりサステナビリティに関心の高い大企業や諸団体などとの新規取引が増え、売上も増加しました。SDGsを旗印に組織力を強化し、外部ステークホルダーとの連携も強化できているといいます。

次の例は、18年度に同賞を受賞した東京都のホットマン株式会社(資本金8,000万円、従業員約400名)です。タオルなどを製造する同社では、「品質を向上させながら、サステナブルなものづくりに取り組むことがメーカーの責任」ととらえ、SDGsを自社の経営を振り返るツールとして活用し、環境配慮経営を推進してきました。

「工場での環境対応や自社のものづくりとSDGsとの関係性を整理・見える化し、従業員の理解を深める一方、SDGsを社外コミュニケーションにも活用。また、セネガル産コットンを利用した国内初となる日本製フェアトレードコットンタオルを製造・販売した結果、サステナビリティ対応を求める企業などとの新規取引が増えているようです」

SDGsに積極的な企業ほど先見性や情報収集力が高い

最後は東京都に拠点を置き、自動車用金属加工部品の板金やプレス等を行う13年度の受賞企業、武州工業株式会社(資本金4,000万円、従業員約160名)です。

「同社では市販の生産用設備が大型でオーバースペックなこと、ラインで行うものづくりが実は歩留まりがあまりよくないことに気づき、自社に適したコンパクトな生産設備を自作した上で、一人で全行程を担当する方法に変更。品質に加え、価格でも東南アジアの国々に負けないものづくりができるようになりました」

装置の自作、コンパクト化は省資源・省エネルギーにつながります。また同スペックの機器を社外から購入する場合に比べ、投資額も1/4に抑えられ、顧客の希望に即したカスタマイズも行えるといいます。

連載第3回の締めくくりに、加藤氏はSDGsを事業拡大に結びつける企業の傾向として、次のように語りました。

「今日、優良企業といわれる企業の多くが、環境対策を積極的に講じながら利益を出し、社会から高い評価を得ています。特に中小企業の経営方針や運営の意思決定では、経営者の『環境力』が大きな影響力をもつ。歴代受賞企業では、SDGs達成に対し前向きな意識を全社員で共有できているという点が共通しており、また環境貢献やSDGsに積極的な企業ほど、先見性や情報収集力が高い傾向を感じます。SDGsを目指す企業として社会の評価が高まり、信頼性が向上すれば、昨今、企業の悩みの種でもある優れた人材の確保を促す効果なども期待できることでしょう」

<連載第3回・完>

連載「SDGsを羅針盤・共通言語として、理想の新価値創造を」

加藤三郎(かとう・さぶろう)
NPO法人環境文明21 顧問/環境文明研究所 所長

1939年生まれ。66年、東京大学工学系大学院修士課程を修了し、厚生省(現・厚生労働省)入省。71年に環境庁に出向し、90年に環境庁地球環境部初代部長に就任。地球温暖化防止行動計画の策定、環境基本法の作成、「地球サミット」の準備などに携わる。93年に退官し「環境文明研究所」を設立して所長となり、「21世紀の環境と文明を考える会」(現・NPO法人環境文明21)の代表理事にも就任。現在、毎日新聞「日韓国際環境省」審査委員、プレジデント社「環境フォト・コンテスト」審査委員長、日刊工業産業研究所「グリーンフォーラム21」学会委員なども務める。

<主な著書・共著>
『環境の思想 「足るを知る」生き方のススメ』(プレジデント社 / 共著)2010年刊
『環境の世紀 政財界リーダー22人が語る』(毎日新聞社)2001年刊
『「循環社会」創造の条件』(日刊工業新聞社)1998年刊など多数

取材日:2019年6月25日