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SDGsは中小企業にとっての重要な経営指針になる【NPO法人環境文明21 顧問/環境文明研究所 所長・加藤三郎氏】<連載第1回>(全4回)

2019年 8月22日

1990年、環境庁(現・環境省)の地球環境部初代部長に就任し、地球温暖化防止行動計画の策定に携わった加藤三郎氏。 93年に53歳で退官後は環境文明研究所とNPO法人環境文明21を立ち上げ、民間の立場から地球環境・人類社会の破滅を回避するための活動に尽力しています。 官民両方の立場で半世紀以上にわたって地球環境問題と向き合ってきた加藤氏は、SDGsの時代に中小企業が進むべき方向性についてどのように考えているのでしょうか。 4回連載の第1回となるこの記事では、SDGsが策定された背景や、企業がSDGsに取り組むべき理由を伺いました。

◆SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかに記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「気候変動」「エネルギー」「教育」など17分野の目標=「ゴール」と、17の各分野での詳細な目標を定めた169のターゲットから構成されており、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択された。2017年7月の国連総会では、各ターゲットの進捗を測定するため232の指標も採択された。

SDGsが掲げる持続可能な人類社会を実現するための17分野の目標

「サステナビリティ」は、30年以上前からの概念

SDGsの目的である、“人類社会と地球のサステナビリティ(sustainability:持続可能性)”。この概念は、そもそもいつ、どのように生まれたのでしょうか。

「“Sustainable Development”つまり“持続可能な開発”という概念が誕生したのは、今から30年以上前のことでした。地球環境が悪化する一方で、途上国の開発ニーズが増大するなか、国連の環境と開発に関する世界委員会が1987年に発表したブルントラント報告書の中心的な理念として提唱され、その後の開発と環境保全の指針となったのです」

さらに92年には、国連の「地球サミット」がリオデジャネイロで開かれ、やがては2001年〜15年を計画期間とする国際目標MDGs(ミレニアム開発目標)につながっていきます。

「このMDGsは“SDGsの前身”とも言えるもので、貧困や飢餓、教育、疾病、環境など途上国が抱える8つの課題の解決を先進国が支えるという内容でした。ただその計画期間のうちに、当初は途上国とされていた中国やインドが大幅な経済成長を遂げる一方、先進諸国では貧富の差の拡大など多くの課題が浮上。そこで途上国・先進国を区別せず、人類社会全体の安定性、つまりサステナビリティを追求するSDGsが策定されることになったのです」。

外務省「持続可能な開発のための2030アジェンダと日本の取組」より

SDGs達成に向け、大いに期待されているのが「企業」の力

2015年9月の国連総会で、全会一致により採択されたSDGsは法的拘束力をもちませんが、この全会一致の採択には大きな重みがあると加藤氏は強調します。

「人類社会のほぼ全体が、17ゴール169ターゲットを解決すべき共通の課題として認識した──ということになります。気候をはじめとする地球レベルの問題は、一国だけで解決するのは不可能。また、各国政府の努力だけでも達成は難しく、企業、地方自治体、NPO、一般市民などあらゆるセクターの協力が欠かせません。なかでも経済を実際に動かすエンジンであり、課題解決の技術を開発する場にもなる企業は、最も実力のあるセクター。SDGsの達成に向けては、この『企業』の力が大いに期待されています」

ここでSDGsの17のゴールと環境の関わりについて少し考えてみましょう。ゴール7の「エネルギー」やゴール13の「気候変動」など、環境に直結するゴールもありますが、それ以外もほとんどすべてが環境に関係していると加藤氏は続けます。

「例えば、ゴール1の『貧困』は、途上国で森林伐採を伴う開墾や、生物資源の乱獲などの大きな要因になっています。またゴール6の『安全な水とトイレ』の根底にも、生活排水や工場排水による水の汚染といった環境の問題がある。このような環境問題をはじめとする地球規模の課題の解決には、大きな困難が伴います。ただ、世界中のあらゆるセクターが同じ目標に向かって本気で行動すれば、SDGsの達成期限である2030年までに顕著な効果が現れ、人類社会と地球環境の安定度も上向きになる。私は、そう信じています」

自社の存続可能性を高めるには、SDGsの視点が不可欠

人類社会を持続させていくため、今、世界ではさまざまな企業が、SDGsやサステナビリティへの取り組みを進めています。

「Apple、Google、Amazonなどの企業はいち早く、自社で使う電力を100%再生エネルギーでまかなう『RE100』を宣言。日本企業にも追随する動きが出ています。Appleではさらに、自社のサプライヤーに対しても、このRE100をはじめとするサステナブルな対応を求めている。対応が遅れた企業とは、取り引きしなくなる可能性もあるということです」

経済・社会・環境は、もともと不可分な関係にあるもの。中小企業の方も、自社の事業が働き方改革などの“社会”の動きや、取引先企業のグリーン調達といった“環境”への取り組みと無縁でないことを実感しているかもしれません。金融界ではSDGs優遇金利を設ける金融機関も登場し、投資先企業を選ぶ際に環境(Environment)、社会(Social)、 ガバナンス(Governance)を基準とするESG投資もますます盛んになっています。

「こうした状況を上手に事業と結びつけて発展している中小企業が、日本でもすでに登場しています。ただ、これまでSDGsを意識していなかった企業も、17ゴール169ターゲットと自社の活動を照らしあわせてみれば、一部のゴールに事実上取り組んでいた──ということもあるかもしれません。何よりも企業自身が将来存続していけるよう、自社のサステナビリティを考える上でも、あらゆる企業がSDGsを経営の指針に据えるべきでしょう」

<連載第1回・完>

連載「SDGsを羅針盤・共通言語として、理想の新価値創造を」

加藤三郎(かとう・さぶろう)
NPO法人環境文明21 顧問/環境文明研究所 所長

1939年生まれ。66年、東京大学工学系大学院修士課程を修了し、厚生省(現・厚生労働省)入省。71年に環境庁に出向し、90年に環境庁地球環境部初代部長に就任。地球温暖化防止行動計画の策定、環境基本法の作成、「地球サミット」の準備などに携わる。93年に退官し「環境文明研究所」を設立して所長となり、「21世紀の環境と文明を考える会」(現・NPO法人環境文明21)の代表理事にも就任。現在、毎日新聞「日韓国際環境省」審査委員、プレジデント社「環境フォト・コンテスト」審査委員長、日刊工業産業研究所「グリーンフォーラム21」学会委員なども務める。

<主な著書・共著>
『環境の思想 「足るを知る」生き方のススメ』(プレジデント社 / 共著)2010年刊
『環境の世紀 政財界リーダー22人が語る』(毎日新聞社)2001年刊
『「循環社会」創造の条件』(日刊工業新聞社)1998年刊など多数

取材日:2019年6月25日