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BCP策定の一歩を踏み出し、中小企業の基盤強化につなげてほしい【慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科教授・大林厚臣氏】<連載第4回>(全4回)

2021年 2月12日

大林 厚臣(慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科 教授)
大林 厚臣(慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科 教授)

本連載では、慶應義塾大学大学院の大林厚臣教授に、今や中小企業も無視できないリスク対策とBCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)について、4回にわたってお話を伺ってきました。最終回では、今後増えていく情報セキュリティリスクとその対処法に加え、BCP策定に役立つ情報や中小企業へのメッセージなどを紹介します。

情報セキュリティなどへのリスク対応も

温暖化による異常気象、サプライチェーンのグローバル化に伴う地政学的リスク、国境を越えた人の往来の増加でより広がりやすくなった感染症など、企業が注意を払うべきリスクは今後もさらに増えていくでしょう。なかでも注意したいのが、中小企業がついおろそかにしがちな情報セキュリティリスクであると大林氏は指摘します。

「日本は今まで『日本語の壁』に守られていた分、サイバー犯罪の大規模被害の例はそう多くありませんでした。しかし自動翻訳の質が向上してその『壁』が薄くなり、海外からのサイバー攻撃を受けやすくもなっています。また『データ』の重要性が高まるなか、内部スタッフを介してデータを盗むといった犯罪も増えていくでしょう」

そうした犯罪の標的とならないためにも、セキュリティが脆弱な古いシステムがあれば更新するかインターネットから遮断する、あるいはデータの持ち出しを防ぐ仕組みをつくるといった対策を早急に取る必要性が高まっているといいます。

公的機関のBCP策定指針なども活用しながら全社的に取り組む

こうした多様なリスクに備えるため、我が社もBCPの策定をスタートしたい——。そう考える企業にとって、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」をはじめとする公的機関や業界団体が公表するガイドラインは大きな助けになるでしょう。策定・運用にあたって心に留めておきたいのは「リスク対策は全社的な取り組み」という点です。

「策定の段階から社員を巻きこみ、起こりうるリスクや取るべき対策などについて現場に即した意見を出してもらえば、内容もより充実するはずです。単に上から『BCPを策定したから従ってください』と指示するより、運用もずっとスムーズになるでしょう」

なお、取り組みを社外にアピールする際は、「BCPでしっかり対策」といった主観的な表現だと誤解を与えかねません。そこで、中小企業の防災・減災対策を経済産業大臣が認定する「事業継続力強化計画認定制度」など社外機関による認証を活用すれば、事実を客観的に伝えることができます。

今ならBCP策定に取り組みやすい

中小企業にとって、今はリスク対策やBCP策定を検討するのに適していると大林氏は考えています。

「リスクへの意識が高まっている分、社員の協力もより得やすくなるでしょう。また、感染症や環境問題などのリスクに対しては企業の枠を超えた対応が必要ですが、同じ理由から社外とも連携しやすいはずです」

先に挙げた「事業継続力強化計画認定制度」など、行政によるBCP策定の後押しも進んでおり、中小機構でも中小企業の事業継続力向上に向けたオンラインシンポジウムやセミナー、計画策定支援などのサービスを提供しています。さらに、同制度の認定企業は、防災・減災設備の税制優遇措置、ものづくり補助金等の補助金の加点、日本政策金融公庫による低金利融資といった各種優遇措置の対象になります。

「リスク対策に力を入れる企業が、取引先の信頼を得やすいのは間違いありません。今後はサプライヤーの選定で、BCP策定が要件になるといったケースも増えてくるでしょう。中小企業の場合、経営者のコミットがあればスピーディーに進められるという利点もあります。あまり難しく考えず、まずはできる範囲から始めてみて、企業の基盤強化につなげていってほしいですね」

連載「BCP策定の一歩を踏み出し、中小企業の基盤強化につなげてほしい」

大林 厚臣(おおばやし・あつおみ)
慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科 教授

1983年、京都大学法学部卒業。日本郵船株式会社を経て、1996年にシカゴ大学行政学博士号(Ph.D.)を取得。慶應義塾大学大学院経営管理研究科の専任講師、助教授を経て2006年より現職。2018年からは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)課題「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」評価委員長も務める。経済学、産業組織論、リスクマネジメントなどを専門とし、企業等の事業継続・防災評価検討委員会座長など多数の政府委員も歴任。

取材日:2020年12月10日