ただ開設して20年近く経ち、当初は60歳前後だった創業メンバーも80歳にさしかかった。1人は死去、もう1人は事業から退いた。危機感を抱いた朝倉氏らは、南房総市大井区長を務める芳賀裕氏(67)に相談。事業を承継したい出資者を地域内で募り、新メンバーで施設を存続させる方向で検討を始めた。
実は芳賀氏は30代で東京都内からこの地に移住してきた経歴を持つ。「自然あふれる環境でのびのびと子育てしたい」と勤めていた川崎市の製鉄所を退職し、千葉県館山市にあった半導体製造会社に転職した。17年ほど前に独立して、仲間と生産現場向け環境保全装置の製造・販売・メンテナンス会社を運営している。この間にさまざまな地域活動にかかわり、「地域の核となる施設を潰してはいけない」と考えた。
検討に当たっては、南房総市朝夷商工会と千葉県事業引継ぎ支援センターに相談し、株式譲渡の方法や注意点、契約書作成方法などのアドバイスを受けた。新旧株主の意見交換会にもアドバイザーとして参加してもらった。その結果、創業メンバーのうち5人が株式を売却し、地元で自動車整備・販売会社を営む川上勝氏(66)が150万円、芳賀氏が100万円を出資。残る2人分は引き続き株式を保有してもらうことで合意した。建物などの固定資産も無償で引き継いだ。
「事業を引き継ぐに当たって条件としたのは、旧株主に少なくとも1年間は協力してもらいたいという点だった」と芳賀氏。新たに経営陣となる2人にとって飲食・観光業は素人であり、ノウハウがない。もちろん本業の仕事もあり、特に芳賀氏は顧客企業が半導体・電子部品関連であり、国内だけでなく中国、台湾、韓国にも出張する。
このため、調理や顧客対応の運営スタッフ6人を確保し、基本的に運営スタッフ同士が話し合って出勤日などを決める自主運営とした。経営陣2人は直接運営にはタッチせず、事業計画の策定や経理作業などに専念する。
旧株主とその家族に協力スタッフとして参加してもらい、体験コースでの指導やアドバイスを受けられる体制にした。また、環境整備の草刈りや力仕事を担う作業スタッフを若手数人に依頼。彼らには10年後の事業承継を期待している。スタッフの時給は一律1000円で、自己申告で運営する。