同社の前社長は、従業員として1950年代から勤め始め、2010年に4代目を継いだ永井貴美代氏(89)。事業承継は意識していたものの、ノウハウを持ち合わせていなかったことから、大分県由布市の監査委員を務め、自らも地元でホームセンターを経営していた実弟の土屋誠司氏(80)を17年に監査役として招聘。承継準備に着手した。
土屋氏は、同社が廃業した場合、4000平方メートルにおよぶ代々の土地と建物の処分費が負担になることなどを踏まえてM&Aを選択。企業の事業承継を仲介する大分県事業引継ぎ支援センターの山中俊弘統括責任者およびセンターに登録している不動産鑑定士の支援を受けて、引き受け先の選定に取り掛かった。
ほどなく同社の存続を強く望んだ竹製品と民芸品の卸売業を営む有限会社竹苑(別府市石垣東)と竹細工職人で構成する別府竹製品協同組合(岩尾一郎理事長)による共同出資案がまとまった。
従業員全員の雇用維持と土地は最低5年間、製竹関連事業以外には使用しないという条件付きで事業譲渡に合意。新社長には昨年3月に東京から転居し、従業員として「湯釜」の仕事を担当していた茶重之氏(57)が就任し、前体制から引き継いだ平均年齢73歳の職人集団を束ねている。
発行済み株式は、竹苑の向功彦代表取締役、別府竹製品協同組合と新社長の茶氏が、ほぼ3分割して取得した。
支援センターの山中氏は「M&A案の浮上から新体制移行まで約2年で円滑に完了した。経営や監査経験のある土屋氏の貢献は、極めて大きい」と同氏の手腕を高く評価している。
同氏も「従業員や関係事業者ら全員の同意を得ることが最も困難だった。当事者間の交渉では難航したかもしれない。経営経験があって役員勘定などを理解している部外者が仲介したことが奏功した」と振り返った。