事業承継・引継ぎはいま

第7回:存続を望んだ他社が経営に参加「永井製竹株式会社」

経営者の高齢化と後継者不在で存続が危ぶまれていた創業100年を超える永井製竹株式会社(大分県別府市)の事業は、卸業者と竹細工組合の共同出資によるM&Aが成立し、今年6月から新体制で継続している。

同社は、経済産業省指定の伝統的工芸品「別府竹細工」などの材料となる真竹や孟宗竹の加工に不可欠な湯釜を保有して大規模展開している唯一の製竹業者。今回のM&Aで、同社が廃業すれば竹加工品・竹材の供給が途絶えて、全国の竹製品卸業者や小売り業者の経営に影響するという最悪のケースを回避した。

竹細工産業の最盛期は約50年前。太さや節の間隔がほどよく、細工に適した竹林が多数あった別府は国内有数の竹の産地だったが、安価な中国製品の台頭で需要が大幅に減少。林業者も減って伐採自体が滞った。

卸業者に竹加工品を、竹工芸品メーカーや竹細工職人に竹材を提供する、永井家が代々継いでいる同社も例外ではなかった。こうした事情に加え、バブル崩壊などの経済不況に見舞われて債務超過に陥っていた。

永井貴美代・前社長と実弟の土屋誠司氏
永井貴美代・前社長とM&Aに貢献した実弟の土屋誠司氏

外部から招いた監査役が貢献

湯釜の油抜き作業の様子
湯釜の油抜き作業

同社の前社長は、従業員として1950年代から勤め始め、2010年に4代目を継いだ永井貴美代氏(89)。事業承継は意識していたものの、ノウハウを持ち合わせていなかったことから、大分県由布市の監査委員を務め、自らも地元でホームセンターを経営していた実弟の土屋誠司氏(80)を17年に監査役として招聘。承継準備に着手した。

土屋氏は、同社が廃業した場合、4000平方メートルにおよぶ代々の土地と建物の処分費が負担になることなどを踏まえてM&Aを選択。企業の事業承継を仲介する大分県事業引継ぎ支援センターの山中俊弘統括責任者およびセンターに登録している不動産鑑定士の支援を受けて、引き受け先の選定に取り掛かった。

ほどなく同社の存続を強く望んだ竹製品と民芸品の卸売業を営む有限会社竹苑(別府市石垣東)と竹細工職人で構成する別府竹製品協同組合(岩尾一郎理事長)による共同出資案がまとまった。

従業員全員の雇用維持と土地は最低5年間、製竹関連事業以外には使用しないという条件付きで事業譲渡に合意。新社長には昨年3月に東京から転居し、従業員として「湯釜」の仕事を担当していた茶重之氏(57)が就任し、前体制から引き継いだ平均年齢73歳の職人集団を束ねている。

発行済み株式は、竹苑の向功彦代表取締役、別府竹製品協同組合と新社長の茶氏が、ほぼ3分割して取得した。

支援センターの山中氏は「M&A案の浮上から新体制移行まで約2年で円滑に完了した。経営や監査経験のある土屋氏の貢献は、極めて大きい」と同氏の手腕を高く評価している。

同氏も「従業員や関係事業者ら全員の同意を得ることが最も困難だった。当事者間の交渉では難航したかもしれない。経営経験があって役員勘定などを理解している部外者が仲介したことが奏功した」と振り返った。

製竹に不可欠な重労働「湯釜」

火勢を感じる湯釜
少し離れても火勢を感じる湯釜

同社の事業譲渡手続きは上手く運んだが、事業の継続には思いのほか苦労が伴う。製竹工程で最も重労働とされるのが、伐採してきた竹に付着している油分を落として虫食いやカビを防止し、加工しやすいように処理する「湯釜」という作業だ。

苛性ソーダを少し混ぜた熱湯に10メートル近い竹を入れて布で油を拭き取る肉体労働で、火傷が絶えないという。この「湯釜」に黙々と取り組んでいたのが、東京で25年間のファンドマネージャー・証券アナリストを経て、建築大工として現場で働いていた茶氏だった。

「別府竹細工東京教室に7年通っていたが、伐採や湯釜の担い手が不足して教室で使う材料が手に入り難くなっていた。自分が転居して伐採から湯釜まで担えば、この先5年か10年ぐらいは産業が続くだろうと思った」と転身の理由を語る。

社長就任は、今では共同経営者となった竹苑の向社長と組合の岩尾理事長の強い要請だった。「社長になろうと思って転居してきたわけではなかったが、運命だと思って引き受けた。一番きつい湯釜に取り組んでいた私の姿を見ていた古くからの職人たちが認めてくれた。会社を買収しただけのよそ者では、伝統産業の承継など認められなかっただろう。事業を引き継ぐということは、人を引き継ぐということだ」と事業承継の難しさを強調する。

経営再建策 早くも構想

茶・新社長
経営再建を語る茶・新社長

同社の業績は、M&A成立後の今も芳しくない状況に変わりはない。「従業員は高齢の職人だし、新たに人を雇う余裕はないから、社長の私が湯釜、財務、営業の仕事を兼務している」と苦笑まじりに台所事情を明かす一方、財務・経営工学の知識を活かして経営再建に取り組んでいる。

まず、65歳以上の従業員の働き方改革を実践。さらに年1回だった棚卸しを毎月実施し、在庫管理と原価計算を徹底し、受注生産への移行を目指している。将来的には、竹需要の落ち込みを観光や竹細工教室の普及を通じてカバーしていきたいという。

前社長の貴美代氏も「動けるうちは協力したい」と、慣れ親しんだ旧事務所に今も顔を出している。

企業データ

企業名
永井製竹株式会社
設立
1948年6月
資本金
1000万円
年商
6000万円
従業員数
18人
代表者
茶重之氏
所在地
大分県別府市光町3-15
Tel
0977-24-0417