承継でネックになったのは、ぎぼ酒店が個人事業という点だった。「法人化して株式譲渡という形を取ったほうが酒類販売の資格を取るうえでもスムーズ」という専門家のアドバイスで、まず「株式会社ぎぼ酒店」を今年1月に法人化し、春に酒類販売業免許を取得した。従業員はいったん法人化したぎぼ酒店の社員になり、その株式を5月末に南島酒販が買い取った。株式会社ぎぼ酒店の代表者は宜保さんから大岩さんに変わり、同時に譲渡契約を交わした。相談開始から成約までわずか10カ月のスピード承継だった。
譲渡交渉で宜保さんが出した最大の条件は「従業員の雇用を守りたい」だった。「従業員5人のうちひとりは10年、ふたりは20年勤続です。中学を卒業後、高校を中退して来た者もいる。もう家族同然ですからそう簡単には切れない」と宜保さん。
大岩さんは「人手不足のいま、経験豊富な従業員がいるのはメリット」と快諾し、福利厚生をもっと充実させたいと、従業員全員を未加入だった社会保険に加入させた。「おそらく今年度は赤字になるだろうが、残業代や有給休暇取得などを徐々に整えていきたい」と語る。
個人商店のときは定休日なしで、宜保さんによれば「得意先から朝5時に電話が来ることもあった」という。大岩さんは「酒屋は得意先へのサービスを始めるときりがないけど、いまは残業代や休日をきちっとしないとどの酒屋も従業員が集まらない。長時間労働に慣れてきた従業員の意識改革も必要」と前を見ている。会社員になったぎぼ酒店の従業員たちも「給料も上がったし、ハッピーです」とうれしそうだ。
譲渡金額は破格の安価だった。「のれん代とか在庫分など全部ひっくるめて1000万円」という宜保さんの提案に大岩さんは戸惑った。「正しい金額がいくらかはわからないが、年商2億円の個人商店ですからね」と安里補佐。37年間で培った地域との関係は一朝一夕には築けない。仲介した銀行への手数料を勘案しても安い買い物であることは確かだろう。ぎぼ酒店は建物1階の一部が店舗でそれ以外は宜保さんの自宅なので、大岩さんは宜保さんを大家さんとして店舗部分の家賃を支払うことにした。