SDGs達成に向けて
精錬・鋳造の技術で「循環型ものづくり」を目指す24代目【株式会社金森合金(石川県金沢市)】
2025年 1月 20日
創業から300年を超す歴史と伝統を有する株式会社金森合金は、創業来の精錬技術で不要になった金属を必要な製品に循環させるものづくりを続けている。SDGsが注目されるなか、昔も今も変わらぬ同社の技術は高い評価を得ている。今年4月開幕の大阪・関西万博では能登半島地震の廃材を活用する。父親からの事業承継を進めている24代目の同社取締役、高下(こうげ)裕子氏は「精錬と鋳造を一気通貫で行える強みを生かして循環型ものづくりを実現したい」と話している。
1714年の創業来、変わらぬ工程で「武具からロケット部品素材まで」
同社の起源は400年以上前にさかのぼる。江戸時代初期の1611年、加賀藩2代藩主の前田利長が産業振興策として越中国射水郡高岡金屋町(現在の富山県高岡市)に7人の鋳物師(いもじ)を集めた。その中に河内国(現在の大阪府東部)から来た金森弥右衛門がおり、その子孫の金森八郎右衛門が「釜八」の屋号で鋳物商を始めた1714年を創業の年としている。
同社の技術は、砂で上下の型を取り、それを合わせて内部にできた空洞に溶けた金属を流し込んで製品を作るという砂型鋳造。その工程は何百年もの間、全く変わっていないが、製品は時代とともに変遷してきた。武具に始まり寺院の梵鐘、そして庶民が使う鍋や釜。明治時代末の1911年に金沢市に移転してからは紡績工場などの機械部品にシフトし、現在はロケット部品素材の供給も手がけている。通常は別々に行うことが多い精錬と鋳造を一つの社内で行っているのが強みだ。大手では難しい小ロットの注文にも対応できる多品種少量生産で、なかには30年に1回、注文が入る製品もあるという。
故郷へUターン、クラウドサービス導入で仕事を見える化
代表取締役で23代目の金森和治氏の長女である高下氏は東京都内の大学に進学。その後は就職、結婚、さらに海外移住と続き、「金沢に戻る予定はなかった」(高下氏)が、帰国を機に故郷へUターン。職業訓練所で製図やCADなどを学んだあと、2016年に金森合金に入社した。
鋳造業はかつて女人禁制だったこともあり、「家業を継いでほしい」と言われたことはなく、逆に入社時には「町工場で働くことは甘くない」と周囲に反対されたという。事業承継を意識することなく仕事を続けていたが、前職の大手広告代理店での経験を生かし、仕事の効率化に着手。「自分たちが今どういうものを作っているのか、その素材情報や生産工程、また直近の生産予定などがわからない状態だったのを、クラウドサービスのkintoneを導入して見える化を進めた」(高下氏)。受注から納品までの仕事の流れが明示され、効率化が進展。不必要だった支出が削減され、利益率も改善された。こうした実績を踏まえ、やがて家族や社員の間では、高下氏が24代目になるという認識が自然と広がっていったという。
針のない剣山、ホテルのテーブルウェア…受賞多数の自社ブランド
2019年には自社ブランド「KAMAHACHI」を立ち上げ、BtoC事業に乗り出した。「自分たちが手掛けた製品そのものを生活者が手にするBtoC事業は社員のモチベーションにもつながる」と高下氏。かつての屋号「釜八」を冠したブランド名は、庶民の生活に欠かせない製品を作っていた創業以来の原点に戻るとともに、300年以上に及ぶ砂型鋳造の技術を継承していくという思いの表れだ。
最初の製品は銅合金製の「針のない剣山」。銅の抗菌効果で水の腐食を防ぎ、花が長持ちする。金沢市内では加賀藩の文化奨励策により江戸時代から華道が盛んで、今でも家の中に花を飾る家庭が多いという。「日常の暮らしの中で使えるものを作りたい」と考えた高下氏は花に目をつけたのだ。剣山といっても針はなく、凹部に花を挿すというユニークな設計。流派によっては剣山の針が見えなくなるまで花を生けるのが決まりだが、それでは多くの花を用意しなければならない。針がなければ、その必要はなく、さらに「針で小さい子どもがケガをする恐れがない」と1児の母である高下氏は話す。「針のない剣山」は注目を集め、2019年の石川県デザイン展で九谷陶磁器商工業協同組合連合会理事長賞を受賞したのをはじめ多くの賞を獲得した。
さらに世界的なホテルグループ、ハイアットとも連携する。2020年8月にJR金沢駅前にオープンした「ハイアット セントリック 金沢」で廃棄されるアルミ缶を精錬してテーブルウェア(食卓用食器類)を製造することになった。金森合金では、地元新聞社が新聞印刷の際に使用したアルミ製の刷版(さっぱん)を回収してアルミ合金製品にリサイクルしている。SDGs活動を推進する「ハイアット セントリック 金沢」側が金森合金の技術に着目し、2年ほど前から両者による取り組みがスタート。宿泊客に提供されるナチュラルウォーターのアルミ缶を回収し、ホテルのレストラン用の皿などへと変化させている。
ハイアットとの取り組みにもまた多くの関心が寄せられ、2023年には、いしかわエコデザイン賞で持続可能な社会の実現につながる優れた製品だとの高い評価を得て銀賞(製品領域)を獲得。さらに石川県デザイン展の石川県商工会議所連合会会頭賞も受賞した。
被災地の廃材を回収して万博会場設置のサインスタンドに
「不要になった金属を溶解・精錬して別の必要なものに変えていくという当社の技術は300年以上も前から脈々と続いているもの。その一方で、金属類の廃棄物をどうするかという課題を抱える企業は多い。SDGsが注目されるなか、金属を循環させている精錬技術を広く伝えたい」。こう話す高下氏は大阪・関西万博の「Co-Design Challenge」プログラムに応募することにした。これは、万博が目指す未来社会の実現に向けて現在の社会課題を解決しようという企業の取り組みを紹介するもので、第1弾の募集では廃棄物のリサイクルや汚水の再利用などをテーマにした取り組みが採択されていた。
高下氏が第2弾の募集に向けて準備していたところ、2024年1月に能登半島地震が起きた。金沢市内の同社工場も被害を受け、多くの家屋が倒壊した映像を目にした高下氏は、被災地の廃材を利活用することを思い立った。「金属は地球が誕生して以来、長きにわたって循環している。そして、その間の記憶を持っていると私は思う。能登での記憶を持った金属も別の形にして万博会場で利活用したい」と話す。
同年5月に同社の提案は選定された。製作するのはサインスタンド。案内や告知などを表示する自立型の看板だ。被災地の廃材については、正規の回収先にたどりつくまでに3カ月もの期間を要したが、約300kgが集まった。大部分は窓枠などに使われていたアルミサッシで、素材の記憶をシンプルに鋳造で表現した高さ1.4mほどのデザインとなり、すでに生産が始まっている。
強みを生かして“金属資源の生態系”を支える
「現在はまだ事業承継中で、代表就任は万博が終わってから」と話す高下氏が目指すのは「金属資源の生態系を支える循環型ものづくり」だ。数十億年もの間、地球上に存在していた“金属資源の生態系”(高下氏による造語)を今後も維持していくため、同社創業来の精錬技術を駆使し、不要になった金属を家庭や企業で役立つ製品に循環させていこうというものだ。ハイアットとの取り組みだけでなく、様々な業界との連携を視野に入れている。「精錬と鋳造を一気通貫で行えるという当社の強みを生かして循環型ものづくりを実現したい」と話す。また、能登半島地震の廃材回収で苦労した経験を踏まえ、災害廃材の活用に向けた課題解決も考えたいとしている。
2023年には中小機構から中小企業応援士を委嘱された。「応援するような力はなく、むしろ自分が応援されたい」と謙遜する。その一方で、「当社の鋳造には非常に大きな可能性がある。そして中小企業それぞれが持つ力が集まれば強い技術になる」と、日本を支える中小企業が持つ可能性を強調した。
企業データ
- 企業名
- 株式会社金森合金
- Webサイト
- 設立
- (創業)1714年
- 資本金
- 1,000万円
- 従業員数
- 10人
- 代表者
- 金森和治 氏
- 所在地
- 石川県金沢市松村6丁目100番地
- Tel
- 076-267-3003
- 事業内容
- 銅合金・アルミ合金・錫・鉛の鋳造