農業ビジネスに挑む(事例)
「六星」農業でフツーの経営をする企業
- 米の生産と加工品の製造・販売で事業を拡張
- 普通の企業経営感覚を農業で実践
農業を基盤にフツーの経営を実践する企業がある。石川県白山市にある六星だ。
同社の創業は1977年、石川県松任市(当時、現在は白山市)の5人の若い農業生産者が、レタスを共同栽培するために設立した任意組織「中奥六星生産組合」から始まった。
同組合は1979年、レタスおよび米の栽培と農地請負(米の代替生産)による事業拡大のため「農事組合法人六星生産組合」に改められ、さらに1989年に有限会社六星生産組合、2007年には株式会社六星に改組された。
六星の事業は米の生産を主体とし、さらに野菜の栽培および餅やかきもち、漬物の製造・販売を手がける。米の耕作面積は140haを超えるが、ほとんどが地主から農地を借り受けて栽培する農地請負だ。こうした土地利用型の米づくりを経営の主体にする企業は珍しい。
企業経営での最初の転換点
六星が企業経営として最初の転換点を迎えたのが1982年だった。当時、農事組合法人の設立から3年が経過していたが、主事業の米生産と野菜栽培では収益性が上がらず苦しい経営が続いていた。そんなとき始めた農産加工品が意外にヒットしたのだ。その加工品がかきもちだった。冬季の仕事を確保しようと考案したかきもちだったが、市場からは好評を博し、加工を始めた2年後の1984年には工場建設にまで至った。
このかきもちづくりをきっかけに、六星では市場を調査して生産・販売量や価格を決めるという経営的発想を身に付け始めた。また、地元のスーパーや農協系スーパーなどにかきもちを置いてもらおうと、独自に販路も開拓していった。
さらにかきもちは新聞に紹介され、郵便局の「ふるさと小包」の商品になったことから大ブレーク。また、テレビ通販や百貨店ブースへの出張販売などにより首都圏および全国へと販路を拡大していった。
そうした一連の動きの中、かきもちや餅の製造・販売を介して消費者と直接会話し、そこからニーズをキャッチしたことで「消費者が求めるものをつくって売る」という企業経営の視点が養われていった。
1993年の米不足をきっかけに、六星は米を卸業者、小売業者に直接販売し始めた。さらに1996年には餅加工場を建て直し、同時に店舗(事務所併設)も新設した。店舗(店舗名「むっつぼし」)では米、餅、野菜の販売から始め、2005年以降はおにぎり、弁当・総菜などの加工品の製造・販売を始めた。
ちょうどその頃(1997年)、現在の社長・軽部英俊さんが入社した。軽部さんは大手建材メーカーで営業を務めていたこともあり、その目には、六星という企業にはまだまだ経営的視点が足りないと映った。そしてこの時から、1982年に次ぐ大きな企業経営としての転換が始まった。
六星に籍を移した軽部さんはまず、積極的に営業に回り始め、スーパーや飲食店、百貨店など小売、卸売業へ取引先を増やしていった。また、事務部門の改善にも着手した。企業として当たり前のことだが、事業のための資料や経理関連の書類の整理・保管から始めた。他の業種から移ってきた軽部さんには、それまでの六星は到底企業の体をなしているとは思えなかった。が、それをフツーの会社にしたい。その思いが軽部さんを支え、2007年の社長就任以降も変わらずに実践されている。
だからこそ人材の育成が重要になる
現在、六星の年商は8億3000万円。そのうち40%強が店舗での直売だ。特に弁当や総菜の売上が急伸している。というのも、2010年(むっつぼし百番街店)と2011年(むっつぼし長坂店)に直営店舗をオープンさせ、本社に併設の本店(むっつぼし松任本店)も含めて3店舗を展開しているからだ。そのため社員の人数も、軽部さんが社長に就いた2007年の15人から現在では31人に倍増させている。店舗での販売もさることながら、弁当・総菜の企画・製造や品質管理などに人材が必要だったからだ。
「六星に入社した社員の誰もが農業で独立しようなどと思っていません。フツーの企業に勤める感覚で入社しているからです」(経営推進課・大上戸裕マネージャー)
だからこそ人材の育成が重要になる。そう認識する六星では、農地の管理から食品加工、店舗販売、営業と各事業部門の人材育成に注力している。31人の社員の平均年齢は33歳と若い。農地では生産計画の立案・実行のための生産管理、加工工場では生産・品質・衛生などの各種管理、販売・営業ではマーケットニーズ・ユーザーニーズの抽出・対応などを徹底させるため、PDCA(Plan・Do・Check・Action)サイクルをすべての社員に実践させている。また、各事業部門のリーダーの育成も重視している。それらのリーダーを育てることが、企業の将来の柱を育てることであり、かつ若手を育成する要にもなるからだ。
そうした人材育成も最近になって軌道に乗り始め、2012年ころからPDCAサイクルが社員に定着してきたという。その成果として、今夏、和菓子の自社ブランドが生み出された。
これについては和菓子の販売担当社員が店舗で商品の売行きを常時チェックし、それに基づき需要を予測して商品を投入。投入した商品も売れたり売れなかったりのトライ&エラーを繰り返し、さらに関係部門も交えてアイデアを抽出した結果、オリジナルブランドを考案した。
六星の各店舗では、今夏から「すゞめ」のブランド名で大福やおはぎなどの製造・販売を始めている。それぞれの社員が業務に問題意識を持ち、自ら課題を設定して実践し、その結果をチェックして改善に活かす。六星が目指す人材のありかた、企業のありかただが、それはいわばフツーの企業体ともいえる。ただ、それは農業界にあってはまだ稀な存在でもある。だからこそ、そんなフツーの企業を目指して六星は力強く進んでいるのだ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社六星
- Webサイト
- 代表者
- 軽部英俊
- 所在地
- 石川県白山市橋爪104