コロナ禍でがんばる中小企業

消費者向け市場に進出、業績回復目指す【柳川冷凍食品株式会社】(福岡県柳川市)

2021年 1月 14日

「海鮮パスタ・アヒージョ風」の盛り付け例
「海鮮パスタ・アヒージョ風」の盛り付け例

1.コロナでどのような影響を受けましたか

19年4月に完成した新工場
19年4月に完成した新工場

九州北部を中心に食品の製造(加工)・卸事業を展開している。料亭や居酒屋、結婚式場、ホテル、レストラン、スーパーなど、お客様の業態に合わせて最適な加工商品を開発・製造するほか、卸部門は2000社以上と取引し、8000種類以上の食材を取り扱う。2019年4月に本社敷地内に新工場を完成させ、年商は19年8月期に39億5600万円となった。

ところが新型コロナウイルス感染症の影響で、卸事業の売り上げが前年比で50~60%落ち込んだ。特にホテルでの宴会や結婚式場で使われていた商品が多数あり、緊急事態宣言後は商品が動かず滞留在庫になり、赤字での販売や廃棄を強いられた。全社売り上げも20年2月は前年を6%上回ったものの、3月は前年の66%、4~5月は同50%前後に減少した。

このため、5月は火曜日と水曜日を臨時休業し、土曜・日曜・祝日を含め16日間休業した。6月以降も土曜日を月2日~4日間臨時休業し、8日~11日間休む体制を続けている。

食品製造事業は5月以降、海鮮パスタ製造ラインのみを稼働させ、製造ライン4本のうち3本はほぼ休止状態。通常は40人で8時から16時30分までの8.5時間稼働体制だが、8時~16時30分が12人、12時~20時30分が12人の2交代制にした日もあり、計16人を休ませた日もあった。

食品卸事業は配送用車両を2台廃車し、固定費を削減した。これに伴い配送ルートも大幅に変更し、従来の23コースを18コースに集約した。

2.どのような対策を講じましたか

敢えて鮮魚コーナーに陳列し、他社の冷凍食品と差別化した
敢えて鮮魚コーナーに陳列し、他社の冷凍食品と差別化した

魚介を用いた簡便食シリーズ「さかなのごちそう」(冷凍海鮮パスタ、冷凍焼き魚)をスーパーで販売する新事業を始めた。当社にとって一般消費者向け商品は初めての試み。コロナの影響による家庭内食需要の急増に伴い、7~9月は約6400万円を売り上げるまで成長した。会社全体でも月単位の売り上げは前年実績に追い付きつつある。

この事業を始めたのは、19年夏に大手調味料メーカーから提案されたことがきっかけだ。ホテルやレストランなどプロの調理人向けに製造している魚介類の加工技術を用い、スーパーのバイヤーのアドバイスも受け、まず冷凍の海鮮パスタを完成。惣菜用厨房への業務用食品卸で取引のあった地場のスーパーで昨年秋に試験販売した。

消費者向けの商品づくりは全くの素人だったので、価格設定方法やコスト削減のための製造方法の簡素化、一括表示の表記方法、市場調査、マーケティングなどすべてが課題だった。そこで20年6月に営業部、商品管理部、加工部、総務部と全社から社員を集め、プロジェクトチームを結成。仕入先メーカーや他のスーパーのアドバイスも得て、これらの課題を乗り越えた。

この商品は「魚屋さんが作った海鮮パスタ」をコンセプトに、スーパーの冷凍食品コーナーではなく鮮魚売り場の冷凍ケースに並べている。これにより普段、冷凍食品を購入しない人でも購入していただける。またトレーなしのパッケージなので、見た目の安心感とボリューム感で差別化でき、大手の冷凍食品より高い売価398円でも売れている。

3.今後はどのように展開していく予定ですか

「海鮮パスタ」シリーズをPRする店頭広告
「海鮮パスタ」シリーズをPRする店頭広告

現在のスーパーでの販売店舗数は1000店以上。ただ大市場である首都圏での販路開拓がまだ不十分だと感じており、今後は大手量販店への営業活動や国内最大級の展示会「フーデックスジャパン」への出展などを通じて、消費者向け商品のPRとニーズ収集を進め、取扱店舗数2000店以上を目指す。

ネット販売サイトの構築や大手通販モールへの出店なども考えており、通信販売業や総合卸売業など新販路開拓のためのテストマーケティングも始めた。さらに人口減が進む国内市場に対し、増加が見込める海外市場への展開も進める。数年前から香港、タイ、シンガポールなどで販路開拓に取り組んでおり、今後は日本と同様に需要の高い消費者向け商品を積極的に提案していく。

これに伴い、増産と生産性向上を目的とした設備投資を計画しており、すでに「ものづくり補助金」(補助予定額375万円)の採択を受けた。また中小機構によるIT経営簡易診断を受け、業務効率化のためのIT投資計画の策定と営業業務改善プロジェクトを進めている。

シニアや子育て世代を中心に、調理が面倒で生ごみが多く出やすい魚料理を手軽に食べたいというニーズは高い。コロナ禍の中で、感染症リスクの低い家庭内食市場はまだまだ伸びると判断しており、さらなる新商品の開発などで「さかなのごちそう」シリーズの販売を一気に増やしたい考えだ。

企業データ

企業名
柳川冷凍食品株式会社
Webサイト
設立
1972年10月
代表者
藤木尚文 氏
所在地
福岡県柳川市西蒲池1027・1028番地
Tel
0944-73-1124

同じテーマの記事