2026年 3月 16日

焼酎の価値を高める取り組みを進めるLINK SPIRITSの冨永咲氏
焼酎の価値を高める取り組みを進めるLINK SPIRITSの冨永咲氏

鮮やかなピンク色が目を引く本格芋焼酎ベースのスピリッツ「NANAIRO-七色-」。LINK SPIRITS株式会社(鹿児島県鹿児島市)の代表取締役・冨永咲氏は色付きの一杯で芋焼酎に新たな価値を与えようとしている。かつて「くさい」「クセが強い」と敬遠されがちだった焼酎のイメージを覆し、農家や蔵元、そして飲み手をつなぐ存在へ。伝統と革新を掛け合わせた挑戦は、焼酎文化を次世代、さらには世界へと導こうとしている。

「芋くさい」から「かわいい」へとイメージ大転換

ピンク色の「NANAIRO-七色-」は本格芋焼酎ベースのスピリッツ
ピンク色の「NANAIRO-七色-」は本格芋焼酎ベースのスピリッツ

鹿児島市役所近くの名山町(めいざんちょう)エリアは、かつてあった堀の水面に名山・桜島が美しく映ったことに由来する。昭和レトロの雰囲気が漂う一方で、オシャレなカフェや飲食店が建ち並ぶ。そんな若者たちに人気のスポットに鹿児島市が設置したのがクリエイティブ産業創出拠点「markMEIZAN」だ。多くの起業家たちが集まる施設の一室に2025年10月、LINK SPIRITSは本社を移転した。創業者の冨永氏はピンク色の「NANAIRO」を手に、「若い女性たちからは『カワイイ!』『オシャレ!』と評判。飲み方は甘みが引き立つトニック割がおススメ」と、同社第一弾の商品をPRした。

鹿児島市出身の冨永氏は神奈川県内の大学に進学。卒業後は県内の地方新聞社に就職し、広告の企画営業の仕事に従事した。社内外での自己紹介の際、鹿児島出身と話すと「焼酎飲めるの?」「お酒は強いの?」との反応。こうしたことが積み重なって、もともとは焼酎が好きではなかった冨永氏も焼酎に興味を抱くようになった。

幻の焼酎と呼ばれる「森伊蔵」など「薩摩焼酎」のブランドで知られる鹿児島県の芋焼酎は主に黄金千貫(こがねせんがん)というサツマイモを原料としている。しかし、「くさい」「クセが強い」といったネガティブなイメージも根強い。「私も同じようなイメージを持っていたけど、それは何十年も前の話。芋焼酎を飲んでみたところ、あまりのおいしさに驚いた」(冨永氏)という。

焼酎文化を守るため郷里で起業

冨永氏はミス薩摩焼酎をつとめた
冨永氏はミス薩摩焼酎をつとめた

芋焼酎の魅力を知った冨永氏は2016年、鹿児島県酒造組合主催のミス薩摩焼酎に選ばれた。1年の任期中、焼酎関連のイベントに参加するなかで「イベントに来るのは元々焼酎が好きな人たちばかり。女性や若い人など新規のファンを増やさないといけない」と考えるようになった。ミスに選ばれたのを機に新聞社を辞め、副業とリモートワークが認められている東京都内のIT企業に転職。任期後も仕事の傍ら焼酎関連のイベントを都内で開催し、20~30代の若者を中心に焼酎の魅力をアピールした。すると、冨永氏と同様、大きく進化していた焼酎へのイメージがアップデートされた人たちが多く、手応えを感じたという。

そして2020年のコロナ禍が大きな転機になった。たまたま実家に帰省していたときに緊急事態宣言が発令され、鹿児島にとどまってリモートワークを続けた。その際、鹿児島最大の繁華街・天文館がゴーストタウンになったかのような様子を目の当たりに。「飲食店が営業できないと、酒屋や酒蔵、そしてサツマイモをつくる農家も苦境に立たされる」と冨永氏は焼酎産業の危機を強く感じた。折しも「基腐(もとぐされ)病」というサツマイモの病気が蔓延しており、農家は極めて厳しい状況に陥っていた。

「焼酎の課題解決のために事業として取り組む必要がある」と痛感した冨永氏は起業を決意。2022年6月にLINK SPIRITSを設立した。社名にある「LINK」には「サツマイモ農家や焼酎蔵などの作り手と飲み手とをつなぐ」「焼酎を通して世界とつなげていく」などの想いが込められている。

焼酎の価値を高めて未来へ継承

「NANAIRO」は若潮酒造とのコラボで誕生した
「NANAIRO」は若潮酒造とのコラボで誕生した

第一弾の商品「NANAIRO-七色-」は翌年の2023年4月に発売された。製造は起業前から交流があった若潮酒造(鹿児島県志布志市)が手掛けている。同社は五つの酒造会社が統合して1968年に創業。伝統的な焼酎づくりを続ける一方で新しいものへのチャレンジを進め、その取り組みの中から生まれた「GLOW EP05」は「酒屋が選ぶ焼酎大賞」で2020年の第1回から3年連続で芋焼酎部門の大賞に輝いている。

チャレンジ精神に富む同社の企業風土と冨永氏の想いが合致したことで誕生した「NANAIRO」は原料のサツマイモにコナイシンを採用。繊維が固く、仕込みに他の品種の3倍もの時間がかかるが、農家や蔵元を悩ませる基腐病に強いというメリットを持つ。そして最大の特徴であるピンクの色付けには紫芋の天然色素を用いた。焼酎に色を付けるという“掟破り”の発想は冨永氏によるものだ。「若い人たち、とくに女性に関心を持ってもらうには見た目も大事」との考えに、若潮酒造の杜氏も柔軟に対応した。ただ、色付けしたことにより品目は焼酎ではなくスピリッツとなっている。

価格は4950円(500ml、税込み)。「安い」とのイメージが定着している一般の焼酎に比べて相当高い価格設定だ。「利益が農家や蔵元に残ることが大事。サツマイモや焼酎は鹿児島の経済にとって極めて重要なもの。稼ぐことで作り手が仕事を続けていける」と冨永氏。焼酎の価値を高めることで未来に継承できる焼酎づくりを目指そうという想いが結集して「NANAIRO」は誕生した。

「伝統×革新」に国内外で高まる評価

IWSC2025の焼酎部門でシルバーメダルを獲得した「音環」
IWSC2025の焼酎部門でシルバーメダルを獲得した「音環」

芋焼酎の既成概念を打ち破った「NANAIRO」は注目を集め、多くのメディアで紹介されたほか、これまで焼酎と縁がなかった飲食店などにも採用されるようになった。2023年7月には鹿児島市内のオーセンティックバー「BAR小原」がオリジナルカクテル3種の提供を開始。オーナーの小原紀幸氏は日本バーテンダー協会の技能競技大会で創作部門全国3位の成績を修めた実力者だ。このほかシェラトン鹿児島や城山ホテル鹿児島といった有名ホテルがバーで採用している。

焼酎の価値を高めるための取り組みは「NANAIRO」だけにとどまらない。2025年2月から数量限定で販売している「音環-OTOWA-」は、原料のサツマイモに広く知られている紅はるかを使用し、製法は昔ながらの「かめ壺仕込み」、蒸留は日本でただ一人の職人が手がけた「木樽蒸留機」で仕上げた本格焼酎だ。芋焼酎の魅力を凝縮させた「音環」は世界三大酒類品評会のひとつ「International Wine and Spirit Competition(IWSC)2025」の焼酎部門でシルバーメダルを獲得した。

また同年10月に福岡市で開催された「九州・山口ベンチャーマーケット2025」で冨永氏は「伝統×革新で薩摩の焼酎づくりを未来につなぐ」をテーマに一連の取り組みを紹介し、地域活性化賞を受賞した。LINK SPIRITSの活動や商品は国内外で高い評価を受けている。

焼酎を世界へーLINK SPIRITSが描く次の景色

LINK SPIRITSは焼酎を世界へつなげていく
LINK SPIRITSは焼酎を世界へつなげていく

年が明けて今春には「NANAIROスパークリング」を新たに発売する。330ml入りで500円と買い求めやすい価格だ。アルコール分は3%。アルコール分30%で通常は炭酸水などで割って飲む「NANAIRO」とは異なり、そのまま飲めるのも新商品の特徴だ。そして品目はリキュール。「輸出する際の関税は度数によって高くなることが多く、低アルコールの方が関税のハードルが低くなる」と冨永氏は話す。このほか、奄美群島で製造されている黒糖焼酎をベースにした「NANAIRO」の第二弾を近く販売する予定で、ピンク以外の色付けをするという。さらに外国人に人気の抹茶を使ったリキュールの開発も進めている。

商品ラインナップをそろえたうえで見据えるのは海外展開だ。「インバウンドを含め、まずはアジア圏で焼酎のマーケットをつくりたい」と冨永氏。すでにタイと中国へ輸出を始めているほか、今年1月に東京都の女性ベンチャー成長促進事業「APT Women(アプトウィメン)」の選抜メンバーとしてシンガポールに派遣された際、独自に韓国とタイも訪問し、酒類に関する現地の市場動向の調査などを行った。

「国内市場は人口減少により飽和状態にある一方、海外では成長が続く国も多く、日本文化や日本食への関心も高まっている。LINK SPIRITSがつなぎ役となり、鹿児島の焼酎を世界に届けていきたい」と冨永氏は語る。焼酎の価値を高め、産業として未来につなぐ。その挑戦は、ローカルベンチャーの枠を超え、日本の酒文化の可能性を広げる取り組みとして注目されている。

企業名
LINK SPIRITS株式会社
設立
(創業)2022年6月
資本金
1600万円
従業員数
4人
代表者
冨永咲 氏
所在地
鹿児島県鹿児島市名山町9-15 markMEIZAN 407号室
事業内容
焼酎、サツマイモを中心とした商品の企画・研究開発、酒類の販売、輸出 ほか