2026年 5月 8日

glafit株式会社の鳴海禎造氏
glafit株式会社の鳴海禎造氏

和歌山市を拠点に次世代の電動パーソナルモビリティの開発・製造・販売を手掛けるglafit株式会社。2025年の大阪・関西万博で中小機構が開催した展示会「未来航路」に出展し、来場者の大きな関心を集めた。自転車としても使える新しいコンセプトの電動バイクを開発し、急成長している。電動モビリティの普及・発展に向けて、規制緩和を国に働きかけて実現させる一方、中国が先行する海外市場にも切り込みをかけている。glafitが見つめる「未来航路」とは—。

「自動車メーカーになる」 まずは二輪からスタート

近く発売を予定しているGFRシリーズの最新機種「GFR-03」
近く発売を予定しているGFRシリーズの最新機種「GFR-03」

glafitは、これまでに5つの電動モビリティを世に送り出している。2017年に初めて商品化した「GFR-01」は、電動バイクでありながらペダルやチェーンもついている。ペダルを漕げば自転車のように利用できるハイブリッド仕様の電動バイクだ。フル充電で約40キロの走行が可能で、最高時速は30キロ。重量は20キロ弱と小型軽量で、折り畳んで車に積み込んで持ち運びができる便利な構造になっている。

「バイクに乗るほどではないが、自転車よりも楽に移動したい」。そんなユーザーの心をつかんで大ヒット。その後、立ち乗りタイプの電動スクーターや、16歳以上であれば運転免許がなくても利用できる特定小型原動機付自転車などの製品を相次ぎ商品化。取扱店は全国に広がり、約500店舗にのぼっている。

「そもそもは四輪の電気自動車をつくるつもりだったが、なかなか事業化のめどが立たなかった。そんな中、共同経営者から『まずは二輪から取り組んでみたら』という提案を受けた。その提案がぼくの心に刺さった」と、glafit代表取締役社長CEOの鳴海禎造氏は、電動パーソナルモビリティ開発の経緯を話してくれた。

鳴海氏と古岡睦章氏 (右)。古岡氏はglafitのバングラデシュ現地法人のCEOを務めている
鳴海氏と古岡睦章氏 (右)。古岡氏はglafitのバングラデシュ現地法人のCEOを務めている

もともと自動車用品の製造・販売会社を経営していた鳴海氏。長年の夢だった自動車メーカーになることを2011年に決意した。社内に「glafit」ブランドを立ち上げ、電気自動車の開発に着手した。しかし、事業は思うように進まず3年あまりが経過してしまった。そんな中、その会社の共同創業者である古岡睦章氏が鳴海氏にこう提案した。

「ホンダの創業者の本田宗一郎は自転車バイクからチャレンジして、二輪、四輪、飛行機と事業を広げていった。そういうステップを踏むのはどうか」

バイクに乗ったことがなく、二輪車に全く興味がなかった鳴海氏だったが、その提案を「面白い」と感じ、方針転換を受け入れた。「GFR-01」の開発に取り組んだのは2015年。わずか1年ほどで試作車を作り上げた。

クラウドファンディングを活用 過去最高額を達成

最初に商品化された「GFR-01」。クラウドファンディングにチャレンジすると、過去最高の1億2800万円が集まった
最初に商品化された「GFR-01」。クラウドファンディングにチャレンジすると、過去最高の1億2800万円が集まった

ここから鳴海氏は世間の常識を打ち破る行動力を発揮し、事業を成長につなげていく。

記念すべき初号機を完成させた鳴海氏は、販売にあたってクラウドファンディングを活用することにした。まったく無名のメーカーが作った二輪車がどれだけ売れるのか。リスクは高い。売れるかどうかを検証するためだった。まずは最小ロットの1000台を売り切ることを目指した。目標金額を1億円に設定し、クラウドファンディングに申し込んだ。

ところが、クラウドファンディングの運営会社から「このプロジェクトは受けられない」と断られてしまった。その当時の一般的な目標金額は100~200万円の時代。1億円の設定は常識を超える額だったためだ。「そんなに難しくないと思っていたら、『難しい』『前例がない』と言われてしまった。前例がないからやるのだが…」。そこであきらめず、鳴海氏は試作車を携えて、東京にある運営会社の本社に掛け合いにいった。鳴海氏はオフィスで試作車に乗ってアピール。粘り強い交渉の末400台、目標金額300万円の設定でプロジェクトにチャレンジできることになった。

プロジェクトを開始すると、目標の300万円はわずか2時間半で達成。2日あまりで400台を売り切った。もともと1000台を売るのが目標。さらに追加すると、すべて売り切れに。当時の購入応援額で最高額の1億2800万円を達成した。これをきっかけに事業を独立させ、glafitが立ち上がった。その後、一般販売も実施。人気は衰えず、発売から3年後には販売台数は5000台を突破した。

規制緩和を政府に申請 新たな「原付」区分創設を後押し

その後、鳴海氏はもう一つ、ブレークスルーを実現する。

スロットルをひねるだけで走行する「電動バイクモード」とペダルを漕いで自転車のように走行する「自転車モード」。便利な機能を持つGFR-01だが、そもそもは原付バイク。街中を走らせるには市区町村に車両登録を行い、車体にナンバーをつけなくてはいけない。運転するには原付免許が必要で、ヘルメットが必須の乗り物だ。たとえ自転車モードでの走行時でも原付バイクとして扱われる。そのため、たとえば電池切れで自転車として走行すると、整備不良で法律違反になってしまう。

「電池が切れたら気軽に自転車として使えたらいいのに…。みんなのイメージ通りに使えるようにならないか…」

そこで、鳴海氏は、政府が2018年に新たに創設した「規制のサンドボックス制度」の活用に乗り出した。

サンドボックス制度は、新しい技術やビジネスモデルなどのイノベーションを後押しするための制度。一時的に規制の適用を緩和して実証実験ができる環境を整備し、実証で得られたデータなどを検証し、効果が確認されたうえで規制を緩和する。

電動バイクと自転車の機能を切り分ける「モビチェン」。ナンバーを覆うと電動バイクの電源が入らなくなる
電動バイクと自転車の機能を切り分ける「モビチェン」。ナンバーを覆うと電動バイクの電源が入らなくなる

鳴海氏はGFR-01のようなペダル付き電動バイクを自転車と切り替えて乗れるようにするために「モビチェン(モビリティ・カテゴリー・チェンジャー)」という画期的な機構を開発した。

「モビチェン」は、車体後部に取り付けられるナンバープレートを専用のカバーで覆う装置。自転車として使用するときはバイクの電源を切り、ナンバープレートをカバーで覆う。すると、バイクの電源は入らなくなり、自転車としての機能しかなくなる。バイクとして利用する際はカバーを外してナンバープレートを表示。電源が入り、バイクとして運転できるようになる。

glafitは和歌山市と連携し、2019年に電動バイクと自転車の切替えを行うための実証を開始。その後、切替え機構の開発を進め、その結果、2021年6月に規制緩和を実現させた。

GFR-01の後継機には「モビチェン」を搭載。glafitが提案する電動モビリティの特性を十分に発揮できる環境をユーザーに提供できるようになった。

さらに鳴海氏は、電動モビリティの利便性を高めるための活動に奔走。シェアリングサービスを展開する事業者などと連携し、エンジンを搭載した原付バイクよりも、小型軽量で、ゆっくりとしたスピードで走る電動の特性を生かした新たな原付の区分の創設などに取り組んだ。その結果、2023年には道路交通法に新たに「特定小型原付自転車」の車両区分が設けられた。

「特定原付は、ぼくらが切り拓いたカテゴリ。免許返納後の高齢者でも免許証に縛られずに移動ができる。自転車よりも便利で、自転車よりも安心・安全。そういった移動手段のカテゴリを社会に広げていきたい」と鳴海氏は語った。ニーズは免許を返納し、日々の移動に苦労する高齢者にとどまらない。観光地でのインバウンドにも訴求できる。「国際免許を取得しなくても乗ることができるので、より広く日本を楽しんでもらえる。そんなサービスを広げていきたい」と強調していた。

電動モビリティを途上国に バングラデシュ市場に進出

2026年1月、バングラデシュの大手企業と戦略的業務提携を結んだ
2026年1月、バングラデシュの大手企業と戦略的業務提携を結んだ

一方、glafitは海外市場にも目を向けている。バングラデシュに現地法人を設立。大手の企業と業務提携して、現地での電動モビリティ市場の開拓にチャレンジしている。

バングラデシュは、厳しい経済情勢にあるが、将来的な成長が見込まれるグローバルサウスと呼ばれる国の一つだ。人口は日本よりも多く、巨大マーケットに生まれ変わることが期待されている。その一方で、大気汚染や気候変動への対応は遅れている。環境への負荷が少ない電動パーソナルモビリティの普及は社会課題の解決にも貢献する。

glafitでは、現地の経済事情を考慮した形でビジネスを展開。電動モビリティ本体を販売するのではなく、日額・月額制でレンタルし、充電済みのバッテリーを街中の小売店などで交換して利用する、というビジネスモデルの構築を進めている。首都ダッカを中心にバッテリーが交換できる小売店のネットワークを広げる計画だ。

バングラデシュにはすでに中国の電動バイクメーカーの進出が相次いでいる。「価格優位性が高い中国メーカーと車両の販売で真っ向勝負に臨むのではなく、現地のユーザーが利用しやすい環境を提供することで、マーケットを獲得する戦略で進めている」と鳴海氏。このチャレンジでは、経済産業省の補助金も獲得。事業展開に大きな手ごたえを感じている。

二輪から四輪へ 最終目標に向かって着実な歩み

大阪・関西万博に提供された電動モビリティ。抽選で再販売すると、応募が殺到した
大阪・関西万博に提供された電動モビリティ。抽選で再販売すると、応募が殺到した

2025年の大阪・関西万博では、「未来航路」への出展だけでなく、会場スタッフの移動用車両として40台の特定原付「NFR-01 Pro⁺」を提供した。広い会場の移動に便利で「個人的に買いたい」と言ってくれたスタッフもいたそうだ。また、現在開発中の四輪タイプの特定原付を披露。屋外でのデモンストレーション走行も行われた。高齢ドライバーの交通事故が大きな社会問題となる中、シニアカーよりも早い自転車と同程度のスピードで移動でき、二輪車よりも安心・安全な移動手段としてアプローチした車両だ。

一連の大阪・関西万博での取り組みは来場者から大きな関心を集め、「ブースの対応で離れられないくらいだった」と鳴海氏は振り返った。「通常の展示会に出展すると、専門的な業界の人が中心になるが、万博では、子供からお年寄り、外国から来た人までフラットに話を聞くことができた。こんな機会は意外と少ない。万博を通じて、会社の信用度も上がった」と万博のパワーを実感していた。

万博で披露された四輪タイプの特定原付「WAKU MOBI」
万博で披露された四輪タイプの特定原付「WAKU MOBI」

鳴海氏によると、電気自動車の開発に着手したころ、日本の電気自動車の技術は世界的に先行していたという。その後、アメリカでは、テスラが誕生し、中国が大きな電動自動車市場を席捲。日本はその背を追う形になっている。「電動モビリティの世界で当社が一翼を担えて、日本のみならず世界に広げていけるサービスを展開したい。当社のサービスが世界のインフラになるチャンスはたくさんあると思っている」。二輪から四輪へ—。最終目標に向けて、着実な歩みを進めている。

企業データ

企業名
glafit株式会社
設立
2017年9月
従業員数
31人(2026年3月末現在)
代表者
鳴海禎造 氏
所在地
和歌山県和歌山市梅原579-1
事業内容
電動パーソナルモビリティの開発・製造・販売