農業ビジネスに挑む(事例)

「山本建設」北の大地の建設会社。独自技術でじゃがいもに付加価値を

  • 自然冷気で凍結した氷で低温貯蔵
  • さらに糖分とうま味が増す

山本建設は土木工事が主力。公共事業削減の影響を受けて受注高はピーク時から半減し、対策が急務となっている中、2009年に新規事業としてじゃがいもの販売に乗り出した。取り扱うのはかつて稚内の名産ブランドだったが、生産量が減り「幻の芋」といわれる「勇知いも」。ただ売るだけでなく、自然エネルギーを活用した低温貯蔵により、付加価値を高めて出荷する。

半年間、低温で貯蔵すると

その始まりは、同社が参加する稚内新エネルギー研究会、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、大林組による共同研究だった。自然冷気で凍結させた氷による生鮮品の鮮度保持貯蔵の実証試験を2005年に開始した。2009年には施設が北海道大学に譲渡され、北大と山本建設の共同研究に移行。タラバガニの貯蔵などいろいろな実験を行い、勇知いもにたどり着いた。
 真冬に自然冷気で凍結させた氷から発生する冷気をファンで貯蔵庫に送り込む。ファンの駆動や施設内の照明などは太陽光発電でまかなう。秋に収穫した勇知いもを冬を越して出荷が完了する次の収穫期までの間、自然エネルギー100%で貯蔵庫内を0℃前後に保って保管できる。
 勇知いもはでんぷん量が多く、もともとおいしい芋。半年ほど低温貯蔵すると糖分が増すのに加え、自然冷気とともに取り込んだ潮風に含まれるミネラルの効果でうま味も増すことを確認した。色は黄色っぽく、さつまいものようなじゃがいもになる。うま味が増す科学的なメカニズムは公設試験研究機関に依頼して解明中だ。菊池工社長は「全国に販売すれば、地域経済の活性化に貢献できる」と幻の芋の復活を仕掛けた。

高価にもかかわらずよく売れる

呼びかけに応えたのは地元建設会社が主体となって運営している農業法人の共成農産と2軒の農家。これらは自家用につくり続けていた。2011年にダイエーが500kgを試験販売したところ、一般のじゃがいもより50%程度高価にもかかわらず好評だったため、2012年は5tを出荷することになった。ほかに東京都内のレストランや地元の食品加工会社などにも売っている。

レストランでは冷製スープ、付け合わせのポテトチップなどに利用。食品加工会社はコロッケ、和菓子、パン、ケーキなどに加工している。

勇知いもの生産量は現在、年間50t。そのうち山本建設が扱うのは10tで、売上高に占める比率はまだ1%にも満たない状況。さらに販路開拓を進め、3年後の扱い量100tを目指す。スーパーへの出荷はダイエーの販売量拡大に期待をかける一方、飲食店向け、加工用は道内外で地道に顧客を増やしていく方針だ。

特に地元では水産関連以外の新しい名産品の原料になることを期待している。菊池社長は「たくさん売れれば、生産者を増やせる余地はまだある」と見ている。今後、ダイコン、キャベツ、ニンジンなどの貯蔵も模索していく。

企業データ

企業名
山本建設株式会社
代表者
菊池工
所在地
北海道稚内市港5-7-44