SDGs達成に向けて

革製品の製造・販売でシングルマザーらの雇用を支援【株式会社FrankPR(東京都渋谷区)】

2023年 5月 22日

第6回ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞を受賞し、首相官邸で表彰されたFrankPRの松尾真希氏(左から2人目)
第6回ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞を受賞し、首相官邸で表彰されたFrankPRの松尾真希氏(左から2人目)

革製品や雑貨の提供を通して「貧困を無くそう」をはじめSDGsの10のゴール達成に取り組んでいる株式会社FrankPR(フランクピーアール、東京都渋谷区)。とくにバングラデシュのシングルマザーらの雇用を支援している革製品ブランド「Raffaello(ラファエロ)」の活動は、各方面から高く評価され、環境省主催の第9回グッドライフアワードで実行委員会特別賞(環境と福祉賞)に選ばれたのに続き、今年3月には、政府がSDGs達成に向けて優れた取り組みを行っている企業・団体を表彰する第6回ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞を受賞した。夫婦2人だけ、資本金100万円の小さな企業がこれら権威ある賞に輝くのは異例のこと。同社の松尾真希代表取締役は、「これからもサスティナブルな発展を実現する仕組みを新たに構築していきたい」と話している。

循環型共生社会の実現に向けた活動、原点はハワイと猫

松尾氏(前列中央)はハワイで都市地域計画を学んだ
松尾氏(前列中央)はハワイで都市地域計画を学んだ

SDGs達成を目指し、循環型共生社会実現のために活動することを理念とする同社の原点は、ハワイと猫である。まず、松尾氏が「サスティナビリティ(持続可能性)」に関心を抱いたのはハワイ州立大学への留学時のこと。国内の大学卒業後、就職せずにフリーランスのライターをしていた松尾氏は自分が本当にやりたいことは何かを見つけるために、学生時代に訪れたことのあるハワイに語学留学。その後、環境や文化を保護しながら開発を進めるとする学問があることを知り、2007年に同大学大学院マノア校に入学。4年間にわたり都市地域計画を学び、SDGsの前身となるMDGs(ミレニアム開発目標)の知識を深めた。

2011年に帰国。「サスティナビリティ」をテーマとした仕事に就くことを考えたが、当時の日本ではまだ課題として捉えられておらず、忸怩たる思いを抱くだけだったという。そんな折、保護猫を預かる施設で気に入った猫と出合い、飼うことに。何気ない行動だったが、そのことを「サスティナブルな選択」と大学院時代の友人に指摘されたことで、身近なところでも持続可能な開発につながる活動ができることに気づいたという。

バングラデシュのストリートチルドレンに衝撃

「一流の革職人が作るRaffaello」の長財布
「一流の革職人が作るRaffaello」の長財布

「サスティナビリティを知らない人たちに、まず実践、参加をしてもらうことが重要だ」と考えた松尾氏は、なんらかの商品・サービスを通して、ファンになってもらうことでサスティナビリティを理解してもらうこととした。帰国後に結婚した夫の菊池友佑氏(FrankPRの現COO)が革製品に興味を持っていたこと、バングラデシュ生まれの知人がいたことなどから、犠牲祭で使われる牛皮を利用した高品質でリーズナブルな価格の同国の革製品に着目。実際に同国の首都ダッカを訪れたが、その際、路上で物乞いをする多くのストリートチルドレンを目の当たりにし、衝撃を受けた。同国の製品を日本で販売することで「サスティナビリティ」の課題でもある貧困問題の解決につなげたいと思い、2014年10月に革製品ブランド「Raffaello」を立ち上げた。

財布やバッグをはじめとする「Raffaello」のキャッチコピーは「一流の革職人が作るRaffaello」。実際、イタリアで修業した腕利きの職人が丹精込めて作り上げた逸品だが、サスティナビリティや共生社会と関連した商品であることは謳っていない。純粋に「いい革製品だ」「かっこいいな」という判断から購入してもらい、購入後に送られるメールマガジンや説明書を読むなどして、実はサスティナビリティをコンセプトにした製品であることをあとから知ってもらう。「元々関心がある人ではなく、無関心だった人が知らず知らずのうちにサスティナブルな選択をしていたことに気づき、まず体験してもらう」(松尾氏)というのが狙いだ。

以前からEC(電子商取引)関係の仕事をしていた夫の協力もあり、製品の売れ行きは順調で、2016年6月には、ネット通販大手、アマゾンが年に一度実施する有料会員向けセール「プライムデー」で1日に約3800個(単価は1万~1万5000円前後)も売り上げるという記録を打ち立てた。

国内でもシングルマザーに業務委託

バングラデシュの工房では多くのシングルマザーが働く
バングラデシュの工房では多くのシングルマザーが働く

当初は売り上げの一部を寄付する形で貧困問題の解決に協力していたが、アマゾンでの驚異的な販売実績を受けて、バングラデシュでの雇用支援にも乗り出した。具体的には、新たに現地の工房と提携し、そこで経済的に苦しいシングルマザーを雇ってもらうこととした。同国では女性の社会的地位が低く、仕事にも就きにくい。結婚して子どもを持ったあとに夫が病気などで若くして亡くなると経済的に立ち行かなくなるケースが多いという。松尾氏が衝撃を受けたストリートチルドレンの多さは、こうしたことも背景となっている。

自身も父親が50代で亡くなり、その後は母親が手に職をつけ働くことで家計を支えていたという経験から「女性が長く社会で活躍できるよう職を持ち、差別化できる技術を高めることは大事」と松尾氏。シングルマザーの経済的自立に向け、工房での雇用を積極的に進め、当初は10人ほどだった女性の従業員が現在は400人となり、工房の労働者の60%を占めている。バングラデシュの平均月収より25%多い月給から始まり、仕事の成果によって昇給する女性もいるという。

さらに支援の対象を障害者にも広げた。「バングラデシュでは日本ほどには社会保障制度が整備されていない。私たちのビジネスで障害者を助けられないか」と考えた松尾氏は2018年、製品の検品作業で現地企業と提携。そこでは耳が聞こえなくても作業に支障がないとして聾啞者を積極的に雇用している。

同様の活動は国内でも。製品の在庫管理や顧客対応をアウトソーシングで対応しており、現在はシングルマザーを中心に数十人の女性スタッフに業務委託を行っている。「日本でもシングルマザーやその子どもたちの貧困が深刻な問題になっている。子育ての合間のまとまった時間で仕事をしてもらい、私たちのビジネスが問題解決の一助になればうれしい」と松尾氏は話す。このようにRaffaelloは、寄付と同時に、国内外でシングルマザーや障害者の雇用を促進することでSDGs達成に貢献している。

なお、Raffaelloは当初、別法人で運営していたが、2018年10月に製品の販売会社としてFrankPRを設立し、翌年には同社に業務を一本化した。

権威ある賞「まさか」の受賞、首相官邸で表彰式

第9回グッドライフアワードの授賞式
第9回グッドライフアワードの授賞式

2015年9月、持続可能な開発のための17の目標を掲げるSDGsが国連総会で採択され、日本でもSDGsへの関心が急速に高まった。こうした時代の流れを先取りする形で早い時期から「サスティナビリティ」を意識したビジネスを手がけてきた同社の取り組みもまた注目されるようになった。

Raffaelloについては2021年11月、「革製品加工を通じ、国境を越えた女性活躍を推進しながら、循環共生型の社会を創出する」として第9回グッドライフアワードで実行委員会特別賞を受賞。「私たちの活動が認められ、とてもうれしかった。大学院時代に一緒に学び、今はハワイ州政府で働く友人からもお祝いのメッセージが届いた」という。

さらに今年3月には第6回ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞に選ばれ、首相官邸で行われた授賞式で表彰された。同アワードは、SDGsに関して国内で最も権威ある賞ともいえ、歴代の受賞者には大企業や歴史ある企業が多い。「取り組みの実践においては私たちも経験と改善を重ねており、チャレンジする価値があると思いエントリーはしたものの、まさか選ばれるとは思ってもみなかった。ご愛顧いただいているお客様、Raffaelloのために仕事をしてくれている全ての皆さんのお陰で身に余る賞をいただいた」と松尾氏。

この受賞にはRaffaelloの購入者も大いに喜んだようで、受賞を知って製品を追加で購入するケースもあったという。「Raffaelloの製品を買ったことはSDGsに資することであり、自分の選択は正しかったのだ、と思ってくれたのでしょう」(松尾氏)。気づかぬままにサスティナブルな選択をすることでSDGsに関心を持ってもらおうという当初の狙いがまさに実現した格好だ。

なお、グッドライフアワードとジャパンSDGsアワードのダブル受賞は歴代の受賞者で5社のみで、スタートアップ企業としては史上初。女性経営者としてもファッション業界としても史上初のこととなった。

「身近なところで自分に何ができるか」との視点が大事

起業のきっかけとなった愛猫「フランク」
起業のきっかけとなった愛猫「フランク」

昨今、SDGsに取り組む中小企業がとみに増えている。松尾氏は「SDGsについて難しく考えずに、身近なところで自分に何ができるかという視点を持つことが大事」と強調する。「誰にでも大切にしたいモノや存在があるはず。たとえばコーヒー好きの人ならば、おいしいコーヒーを飲み続けるために産地の環境や気候を守ろうと考え、働いている人の置かれている状況を慮る。もちろん個人の活動でもいいが、企業がビジネスとして行うのであれば、より効果的で規模が大きく、世界にとって有意義な影響になりうる」と松尾氏。振り返れば、同社がSDGsに資するビジネスを始めたきっかけは保護猫を引き取るという身近な出来事だった。ちなみに社名も猫の名前「フランク」から付けたものである。

松尾氏はさらに「サスティナブルな発展を遂げるような仕組みを新たに構築していきたい。また他の企業の取り組みのお手伝いもしていきたい」と意欲を燃やす。「栄誉ある賞を受賞したことで責任も感じている。これからもサスティナビリティを追求していき、世の中にお返ししていきたい」。栄えある賞に喜びと重責を感じながら、SDGs達成に向けた活動の輪を広げていくこととなる。

企業データ

企業名
株式会社FrankPR
Webサイト
設立
2018年10月
資本金
100万円
従業員数
2人
代表者
松尾真希 氏
所在地
東京都渋谷区円山町5-5 Navi渋谷V3階
事業内容
革製品・雑貨の製造・販売など